昭和初期に生まれたモダンな大窓電車

 

パンタグラフの上には架線が張られ、台車もきれいにレストアされたデハ230形は、今にも走りだしそうだ

 【汐留鉄道俱楽部】びっくりするほど窓が大きい電車、といえば最近では西武鉄道の001系特急ラビューがすぐ思い浮かぶ。ぐっと時代をさかのぼって昭和初期、神奈川県の三浦半島に大窓のインパクトを与えて登場したのが、現在の京浜急行電鉄につながる湘南電気鉄道のデ1形、後の京急デハ230形だ。コロナ禍の緊急事態宣言で遠出がままならない中、横浜市西区に昨年1月にオープンした「京急ミュージアム」で歴史的名車をじっくり観察した。

 展示されているのはデハ236号。1929(昭和4)年に製造され、翌年デビューした。さっそうとした外見から、当時最先端の若者につけられた「モダンガール」「モダンボーイ」になぞらえて「モダン電車」「モ電」と呼ばれたそうだ。軽量、高速電車の草分けで、78年に引退後は埼玉県川口市に保存されていたが、2年の修復を経て鮮やかな深紅のボディーがよみがえった。

 正面に立つと、高さ1メートル超の窓が3枚並んだ「顔」に圧倒される。側面には二つの扉を挟んで正面と同じ高さの窓がずらりと13枚。通常の車両は窓が車体の上半分に収まっている印象だが、窓枠が明らかに下半分に〝はみ出して〟いる。鉄道車両というより、大きな窓が目立つ角張った建築物のようだ。

 昨年出版された「京急230形」(佐藤良介著)には「一説によると軍縮で艦船用鋼板の需要が減り、その余剰による鋼材の転用ともいわれ、デ1形の窓の大きい設計も無駄のない鋼板の採寸が影響している」との記述がある。窓下の板(腰板)の寸法がまず決まり、結果として窓が大きくなったとは意外だった。

 70年代を再現したというホームから車内に入ると、一気に昭和にタイムスリップする。ロングシートの一部には、古い切符やパンフレットなどの貴重な資料を納めたガラスケースが置かれている。「さようなら230形 電車部品即売会」を告知する中づり広告も。運転席と反対側の車端部では、京急の歴史をわかりやすく解説する5分ほどの映像が流れている。

 天井の扇風機が回り、照明も点灯。それだけでも関係者の復元への意気込みが伝わってくるが、もっとすごいのはドアが開閉し、屋根上の大型のパンタグラフが昇降することだ。車両の外にあるスイッチを操作すると「プシュー」という音とともに片開きのドアが動いた。別のスイッチでパンタグラフの上げ下げが体験できるのはイベント時とのことで、少し残念だった。

ことでん移籍後は30形となり、塗装も変更。一部の車両は写真のように正面中央に貫通扉が設置されて少し顔が変わった

 京急線から姿を消したデハ230形は、計14両が香川県の高松琴平電気鉄道(ことでん)に譲渡され、最後の1編成2両が2007年夏まで活躍した。筆者は同年春の大阪出張後に四国まで足を伸ばし、大きな窓も誇らしげに志度湾沿いを快走する勇姿をカメラに収めることができた。

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 ミュージアムには京急の沿線を再現したジオラマや運転シミュレーターのほか、車両の工作体験ができる「マイ車両工場」のコーナーも。目と鼻の先にある「原鉄道模型博物館」もぜひ訪れたい。

☆共同通信・藤戸浩一

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