「好き」原動力に怪獣作り ソフビアーティスト ユーキデイドリーマーさん

自ら手掛けたソフビに囲まれて仕事をするユーキデイドリーマーさん=波佐見町村木郷の工房

 たこつぼにすみついたタコの化身「タコツボン」、幸福をもたらす怪獣「ダルマサンダ」、タツノオトシゴから進化した「タツノサウルス」-。懐かしいようで、一度も見たことがない独創的な怪獣のソフトビニール人形(ソフビ)が、所狭しと並ぶ。手掛けたのは、長崎県東彼波佐見町のソフビアーティスト、ユーキデイドリーマー(本名・永田勇騎)さん(38)だ。

 日本の玩具店で売られていたソフビが、海外に輸出されると、デザイン性や造形美を評価されるようになり「アートトイ」というジャンルが生まれた。現在は国内にも多くのアーティストやコレクターがいるという。「日本の浮世絵とか、波佐見町のコンプラ瓶と同じ経過。国内では誰も価値を認めなかったものが、海外でアートとして評価された」。ソフビアーティストという耳慣れない職業について、ユーキさんが自ら解説してくれた。
 そんなユーキさんも、新作は即完売となる人気作家だ。台湾や米国など海外からの注文もある。これまで「ウルトラマン」「仮面ライダー」「北斗の拳」など誰もが知る作品とのコラボレーションや大手玩具メーカーからのカプセルトイ発売も企画された。

カプセルトイとして発売する新作のタコツボン

 同町出身。幼いころから絵を描くのが好きで、ノートの隅にガンダムやゴジラのイラストを描きまくった。高校で一度運動部に入ったが、どうしても絵を描きたくて美術部に転身。ファッション雑誌で偶然、アートトイの世界を知った。好きだったストリートアートのかっこよさとポップカルチャーの楽しさの融合。「こんな世界があるのか」と衝撃を受けた。
 高校卒業後、中国留学を経て、米ロサンゼルスへ。アルバイト先のアニメショップで、専門誌を読んだり、映画関係者だった同僚に聞いたりして、造形の基本を学んだ。24歳で帰国し、福岡市でアーティスト活動を開始。当初はライブペインティングなどイラストの仕事をメインにしながら、比較的安価なレジン製の人形作りで腕を磨いた。
 数年後、知人が工場を立ち上げ、念願のソフビ制作がかなった。一度作ると夢中になり、次々と制作。会員制交流サイト(SNS)やインターネット通販の浸透で、地方での作家活動が可能になり、約10年前に地元波佐見に拠点を移した。
 なかなか芽が出ずに悩んだ時期もあった。「売れるモノより、好きなモノを作れ。あなたは良いモノを作ってるんだから」。作家仲間の言葉に励まされ「作りたいモノを作る」にこだわり続けた。数年前、SNSで公開したタコツボンの写真が拡散され、売れ行きが伸びた。「タコツボンに感謝。でも一番感謝しているのは妻です」。地元で知り合った妻の小織さんは美容師として働きながら、活動をサポートしてくれた。
 ソフビの制作工程は実は焼き物と似ている。原型から型を取り、原料を流し込んで成形し、表面を塗装する。若いころ飛び出した地元に結局戻ったのは、「ものづくりの町」が、なんだかんだで落ち着くからかもしれない。
 「『これ売れんの?』とか言ってくる人は今もいる。でも『もうかる』とか『役立つ』とか、そういう考えで作ってない。他人には無駄に見えても、自分が好きなら大事にできる。それがアートだし、結局は人を豊かにしてくれると思うから」。「好き」を原動力に、メード・イン・波佐見の怪獣がまた生み出される。

SNSから人気に火が付いた代表作「タコツボン」(右)と「ダルマサンダ」

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