高齢化で空き家目立つ 国見・神代小路の風情守るため ”若手”住民ら動く 芸術交流拠点、宿泊施設化など

今村邸で演奏する「コウジロコネクト」の山口さん(左)と佐々木さん=雲仙市国見町神代小路

 閑静な環境が代々守り継がれてきた長崎県雲仙市国見町の神代小路(こうじろくうじ)地区。近年、高齢化で空き家が目立ち始めたため、「何とかしよう」と“若手”の50~60代の住民やゆかりのある人たちが動き始めた。古民家を適切に管理したり、宿泊施設として生まれ変わらせたり。静かな「武家町」がにわかに活気づいている。
 通りに並ぶ武家屋敷や古民家が風情を漂わせ、鳥のさえずりが心地よい。「閑静」という言葉がしっくりくる神代小路。住民が求めているのはイベントなどによるにぎわいの創出ではなく、静かなたたずまいに魅力を感じる人たちが集える環境づくりだ。その先には移住者の受け入れを見据えている。
 小路は旧佐賀藩神代鍋島領で江戸初期から続く武家町(約9.8ヘクタール)。国の重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)となっており、国の重要文化財「旧鍋島家住宅(鍋島邸)」が有名。ヒカンザクラの名所として知られ、毎年2月下旬には大勢の花見客が訪れる。
 地区内には店も、自動販売機もない。2000年に発足した住民団体「神代小路まちなみ保存会」(山中凱和(よしかず)会長)が景観保全と静かな住環境づくりに取り組んできた成果と言える。ただ、高齢化が進み、地区内にある伝建指定の屋敷約20軒のうち約半数が空き家か、親族が定期的に管理している状態だ。
 「空き家を放置すれば、どんどん廃れていく」。こうした危機感から、同保存会の50~60代の住民らが昨年4月、NPO法人神代小路ネットワークを結成。市が住民から譲り受けた築約300年の旧永松家住宅(永松邸)の管理を請け負っている。
 空き家になっている古民家の親族から依頼を受け、家屋の換気や清掃にも取り組んでいる。昨年10月には近くの神代商店街と連携して「神代町小さな文化まつり」も開催。商店街から神代小路への人の流れづくりを模索している。
 今年に入ってから動きは加速。5月、改修した古民家を1棟貸しする宿泊施設「TOKITOKI(トキトキ)」がオープンし、武家町の風情を体感できる環境が整った。7月末には地区中心部にある古民家、今村邸を芸術を通した交流の場にするグループ「アートネット コウジロコネクト」が誕生。活動の第1弾として、オランダ・デルフト陶器の絵付け作家の作品展を開き、好評だった。
 同グループは、同保存会前会長の谷守隆さん(88)の長女で、オカリナ奏者の山口伊緒里さん(57)=諫早市在住=とギター奏者の佐々木博行さん(63)=同=が共同代表を務める。2人は共に演奏活動を続け、山口さんは今村邸でオカリナ教室を主催してきた。グループ名の「コネクト」には「活動を通じて人と人をつなぎたい」という思いが込められている。
 長年まちづくりに取り組む父の姿を間近に見てきた山口さん。「小路は今のままでは誰もいなくなってしまう」と現実を直視し、「古民家を交流の場にして人を招きたい。静かなたたずまいを気に入り、住んでみたいと思ってくれる人が現れればうれしい」と張り切っている。
 同保存会の山中会長(81)はこうした動きを「地域住民で担えなくなってしまったのは残念」と複雑な心境で見守りながらも、今後については「小路にゆかりのある人たちや、培った伝統に共感していただける人たちの力も借りながら、景観と生活の場を守り続けたい」と話している。

NPO法人神代小路ネットワークが管理を引き受けている永松邸=雲仙市国見町神代小路

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