金メダルに貢献の大砲と中日右腕に高評価…セイバー指標で選んだセ8月の月間MVPは?

ヤクルト・村上宗隆【写真:荒川祐史】

チーム打率も先発防御率もリーグ最下位の巨人…それでも月間首位の怪

東京五輪を終えリスタートしたセ・リーグでは、巨人、ヤクルトが8月の勝ち越しに成功。ずっと首位に君臨していた阪神に追いつき、8月終了時点で3チームが1.5ゲームにひしめく状況となった。そんな大混戦の中で活躍した選手をセイバーメトリクスの指標からあぶり出し「月間MVP」を選出してみる。

まず、8月のセ・リーグ6球団の月間成績は以下の通り。

○巨人:8勝5敗2分
打率.231、OPS.703、本塁打20、援護率2.96
先発防御率4.42、QS率26.7%、救援防御率3.92

○ヤクルト:5勝4敗2分
打率.272、OPS.766、本塁打11、援護率4.29
先発防御率2.43、QS率54.5%、救援防御率3.71

○DeNA:6勝6敗2分
打率.250、OPS.744、本塁打18、援護率3.43
先発防御率3.59、QS率50.0%、救援防御率4.37

○広島:7勝8敗0分
打率.242、OPS.701、本塁打15、援護率4.01
先発防御率4.04、QS率60.0%、救援防御率4.14

○中日:6勝7敗2分
打率.236、OPS.586、本塁打4、援護率3.16
先発防御率2.72、QS率53.3%、救援防御率1.73

○阪神:7勝9敗0分
打率.260、OPS.743、本塁打17、援護率4.60
先発防御率4.27、QS率43.8%、救援防御率4.18

巨人はデータだけを見れば、月間の打率、先発防御率、QS率がリーグ最下位ととても月間首位と思えないほどの状態だが、勝つときは接戦、負けるときは大敗という噛み合わせの妙で3つの勝ち越しを得ている。

NPB公式では今季、7月と8月の成績の合算で月間MVPを選出するが、ここではリーグ戦再開後の8月のみの成績で月間MVP選出を試みる。

OPSと長打率でリーグトップの村上宗隆、意外な快足も披露?

打者部門では評価指標として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。

各チームのwRAA上位3人は以下の通り。

○巨人:岡本和真7.10、大城卓三3.27、丸佳浩2.40
○阪神:近本光司8.94、ロハス・ジュニア3.06、サンズ1.55
○中日:ビシエド3.80、溝脇隼人1.89、堂上直倫1.69
○DeNA:牧秀悟7.01、オースティン6.92、宮崎敏郎2.40
○広島:鈴木誠也5.92、西川龍馬5.27、坂倉将吾4.83
○ヤクルト:村上宗隆9.48、中村悠平2.27、青木宣親2.18

さらに、今月のリーグOPS上位5人には、各チームの主軸が名を連ねている

1位 村上宗隆:1.376
2位 オースティン:1.218
3位 近本光司:1.102
4位 岡本和真:1.077
5位 鈴木誠也:1.028

中日でwRAAトップのビシエドのOPSは0.855でリーグ10位。その次が大島洋平の0.681(27位)とで、チーム打撃成績が月間OPS.586、本塁打4という惨状の一端を示している。

DeNAはOPS1位がオースティンとなっているが、規定打席未満を含めると牧秀悟の1.275がトップ。wRAAではチーム1位の貢献を示した。月間本塁打4はオースティンより多く、特に8月25日の阪神戦ではルーキーとして史上初のサイクルヒットを達成した。

阪神のwRAA2位となったのがロハス・ジュニア。ようやく韓国リーグ2冠王の片鱗を見せ始めたか。

広島のwRAA3位には坂倉将吾が入った。坂倉はまもなく規定打席に到達することが予想されるが、その時点で打率が1位となることが濃厚であろう。

8月のセ・リーグで最もチームに貢献したと数値が示している選手は、ヤクルトの村上宗隆だ。チームの月間打撃成績が打率、OPSともにリーグトップという中で、主砲としての役割を十分に果たした。また、盗塁にも積極的で、今月だけで3回企図し3回成功と成功率100%。8月のセ・リーグ月間MVP打撃部門には村上宗隆を推挙する。

村上宗隆:OPS1.361、本塁打5、長打率.865(いずれもリーグ1位)、出塁率0.511(同2位)、打率0.378(同4位)

中日・柳裕也【写真:荒川祐史】

投手陣の頑張りで勝ちを拾った中日…先発の中心、柳に高評価

投手部門の評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計しており、チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。

各チームのRSAA上位3人は以下の通り。

○巨人:畠世周3.09、高梨雄平2.57、戸郷翔征1.11
○阪神:青柳晃洋2.27、岩崎優1.60、岩貞祐太1.56
○中日:柳裕也4.01、福谷浩司3.36、祖父江大輔1.41
○DeNA:京山将弥2.86、伊勢大夢1.47、大貫晋一0.80
○広島:森浦大輔2.20、床田寛樹2.14、栗林良吏1.39
○ヤクルト:マクガフ1.93、今野龍太1.82、大西広樹1.35

8月の勝利数と防御率で比較すれば、3勝0敗、防御率0.90の大瀬良(広島)や2勝1敗、防御率0.00の秋山(阪神)らが公式の月間MVPの有力候補となるが、セイバーメトリクスの指標で各チームの主な投手(規定投球回数以上登板)を比較すると

○柳裕也:WHIP0.90、FIP1.30、tRA2.03、奪三振率8.57、被OPS.474
○戸郷翔征:WHIP0.70、FIP3.37、tRA3.22、奪三振率8.68、被OPS.499
○大瀬良大地:WHIP0.95、FIP2.83、tRA3.34、奪三振率6.30、被OPS.617
○秋山拓巳:WHIP1.17、FIP3.28、tRA4.36、奪三振率8.00、被OPS.669
○奥川恭伸:WHIP0.66、FIP4.83、tRA4.91、奪三振率7.90、被OPS.612
○今永昇太:WHIP0.86、FIP3.49、tRA3.48、奪三振率9.15、被OPS.609

となる。tRAや被OPSなど包括的な指標での評価により、柳裕也の優位性が見えてくる。中日の今月のチーム投手成績は、WHIP1.01、被打率.215、被OPS.593がリーグ1位で、RSAA8.85は2位のヤクルトの1.98を大きく上回る。打撃陣の低迷を補う貢献度の大きさを表している。なお救援防御率1.73は群を抜いたリーグ1位である。柳個人の成績も申し分なく、福谷、大野とともに中日投手陣を牽引してきたということで、セイバーメトリクス目線で選ぶ8月の月間MVPに柳裕也を推挙する。

柳裕也:防御率0.43(リーグ2位)、被OPS.474、QS率100%、奪三振率8.57、被本塁打0鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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