インディカーは残り3連戦のクライマックスへ。王者争いは初戦のポートランド戦がカギ

 2021年のNTTインディカー・シリーズも3レースを残すだけになっている。開幕戦からの13戦で9人ものウイナーが誕生。最多勝は4人のドライバーによる2勝。誰も決定的な優位にはなく、チャンピオン争いの行方は混沌としている。

 開幕戦でキャリア初優勝を挙げ、ダブルポイントのインディ500で2位となって先輩チームメイトのスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)からポイントトップの座を奪ったアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング)は、ロードアメリカで2勝目を記録し、24歳とは思えない安定感の高さで約3カ月に渡ってチャンピオンシップをリードし続けてきた。

 しかし、第12戦インディアナポリス/ロードコース、第13戦ゲイトウェイのショートオーバルで不運な連続リタイアを喫し、同じく2勝のパト・オワード(アロウ・マクラーレンSP)が、2018年の最終戦でデビューして以来初めてポイントリーダーとなった。

 パロウはデビュー2年目、オワードも22歳で、フルシーズン参戦は2年目。才能に恵まれた新しいジェネレーションが続々と参戦してきているインディカー・シリーズだが、まさか今年のチャンピオン争いがここまで若いドライバーたちによって展開されることになるとは、開幕前には予測できなかった。

 もっとも、まだ彼らのうちのどちらかがチャンピオンになると決まっているわけではない。ポイント3、4番手にはジョセフ・ニューガーデン(チーム・ペンスキー)と、スコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)がつけており、逆転タイトルを虎視眈々と狙っている。

 まだ30歳のニューガーデンだが、今年で参戦は10年目。ベテランの括りに入れていいだろう。この4シーズンで2回タイトルを獲得と確固たる地位を築き上げてもいる。

 41歳のディクソンは、今シーズンのテキサスでのレース1で通算勝利数を「51」に伸ばした。次の勝利で歴代2位のマリオ・アンドレッティに肩を並べる現代の最強ドライバーだ。

 タイトル獲得は6回で、こちらもあと1回でAJ・フォイトと史上最多で並ぶ。現状のランキングは若手を追う立場だが、彼らふたりの方がタイトル争いの経験が豊富という点から優位との見方もできる。

 近年のインディカー・シリーズを振り返ると、残り5戦となった時にポイントリーダーだった者が過去5シーズンで4回チャンピオンになっている。

 5レースを残してポイントリーダーだったパロウは、インディアナポリスでのレース前、「勝つ必要はない。全部2位でもチャンピオンだから。残りレースでは確実にトップ3フィニッシュを重ねて行きたい」と話していた。

ポイントをリードしランキング1位をキープしていたパロウ

 ところが、彼を待っていたのは今シーズン初の20番手以下というリザルト。エンジントラブルが原因だった。続く第13戦ゲートウェイでは、予選順位が12番手と振るわず、規定のエンジン交換回数を上回ったためのペナルティ=9グリッド降格もあって21番手スタートだったが、そんな不利を跳ね返して序盤に10番手までポジションアップしていた。

 しかし、65周目のリスタートでリナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)の引き起こした多重クラッシュに巻き込まれてクラッシュ。2戦連続リタイアと、今シーズンで最悪の状況に陥っている。チャンピオンを争っている4人の中で、最も悪い流れに嵌っているのがパロウだ。

 対するオワードは、タイトル争いからフェードアウトしそうな雰囲気にあったが、パロウのリタイアした2戦で5位、2位と上位フィニッシュを重ねて生き返り、ポイントトップの座まで手に入れることに。とはいうものの彼にはまだ一気にチャンピオンへ……というところまでの勢いはない。

 ポイントリーダーにはなったが、パロウとの差は10点しかなく、ニューガーデンが22点差、ディクソンも43点差と遠くない位置にいる。その後ろのランキング5番手につけているマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)でさえ、60点差とまだ逆転王座可能圏内だ。

 オワードの速さ、勝負強さは、すでにデトロイトでの勝ちっぷりなどで証明されている。タイトル獲得に向けた闘志や意欲の大きさが彼をこのタイミングでポイントトップに押し上げたのだろうが、不安材料もある。アロウ・マクラーレンSPというチームが、まだ強いレースとそうではないレースの間に大きな差がある点だ。移籍1年目のフェリックス・ローゼンクヴィストとの2カーという体制も、タイトルを争う相手たちの属する強豪チームと比べると弱い。

ランキング1位で3連戦に挑むパト・オワード

 パロウも間違いなく速い。そして、それ以上の強みは彼が非常にクレバーである点。若さに似合わぬ冷静さを常に保ってレースを戦うことができている。その上、彼にはチップ・ガナッシ・レーシングという最強チームがバックについている。

 ディクソンとエリクソンというチームメイトたちとの協調体制も機能しているからこそ、3人がポイントスタンディングのトップ5に入っている。彼らはどのコースでも速い。これはディクソンにも当て嵌まることだが、最終3戦で最も安定したパフォーマンスを発揮そそうなのがガナッシ勢だ。2戦連続の不運にもパロウは強い精神力で持ち堪え、ポジティブさを失っていない。

## ■カギを握る初戦のポーランド
 チャンピオン争いを行っているドライバーたちにとって、休みなしの3連戦の最初のレース、ポートランドで勝つことの持つ意味は大きい。一気に流れを引き寄せることができるからだ。

 逆に、ポートランドでの惨敗は、タイトル争いからの脱落に繋がる。ポイントを取りこぼさないこと重視で、タイトル候補たちが3連戦で一度も勝たないケースも起こり得る。

 そうした状況で優勝しそうなのは、今シーズン1勝を挙げているコルトン・ハータ(アンドレッティ・オートスポート)とウィル・パワー(チーム・ペンスキー)、リナス・ヴィーケイ(エド・カーペンター・レーシング)の3人。そして、ロマン・グロージャン(デイル・コイン・レーシング・ウィズRWR)やジャック・ハーベイ(メイヤー・シャンク・レーシング)、スコット・マクラフラン(チーム・ペンスキー)のキャリア初勝利が見られるかもしれない。

 佐藤琢磨(レイホール・レターマン・ラニガン・レーシング)は、残り3戦のうちのポートランドとロングビーチで優勝経験があるし、アレクサンダー・ロッシ(アンドレッティ・オートスポート)は、キャンセルになった昨シーズンの前2年連続でロングビーチを制している。彼が地元カリフォルニアで復活優勝を遂げる可能性も十分に考えられる。

 ニューガーデンはシーズンが後半戦に入ってから2勝を挙げており、勢いはある。開幕から苦戦を続けたチームも、ここへ来て状態が良くなってきている。彼が3度目のタイトル獲得を果たす可能性は、若く、チャンピオンになった経験を持たないふたりより高いのではないか。

今季初勝利を掴むのに苦労したニューガーデン。3度目のチャンピオンを射程圏内に捉える

 ディクソンの7度目のタイトルが実現する可能性も十分にある。突出した存在がいない状況下、彼のしぶとさ、経験の豊富さは非常に大きな武器になる。現状では、今年のチャンピオンの座を争っている4人の中でランキングが最後尾だが、3戦すべてで上位フィニッシュをする能力を考えると、ディクソンがそれは最も高い。

 ということで、今年のチャンピオン争いは、残り3戦でランキング3、4番手というポジションにはいるが、タイトル獲得歴を持つニューガーデンとディクソンがイニシアティブを持っていると見る。

現役最強ドライバーのディクソン。久々にチームメイトがライバルに

 ランキング1、2番手で初タイトル獲得にチャレンジしているオーワードとパロウが、プレッシャーを跳ね除けて王座に就く可能性はもちろんある。そして、それが実現したら、来年以降、若い力の台頭は更に勢いづくだろう。

 彼らとほぼ同等の力を備えたドライバーが、すでにインディカーシリーズには数多く存在し、さらに若い世代も、アメリカだけでなく、ヨーロッパのF1予備軍からもこれまで以上に流入してくる勢いとなっているからだ。

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