次世代被害者

 カネミ油症検診を報じた先月の本紙記事で30、40代の男女が“当事者”としての不安を語っていた。53年前に発覚した事件だが今も続いており、被害規模はさらに大きいのではないかと思っている▲市販の食用油に混じった有害化学物質ポリ塩化ビフェニール(PCB)やダイオキシン類は、摂取した母親の胎盤から胎児へ、母乳から乳児へ移行した可能性がある。生まれた子どもたち(次世代被害者)は、多様な体調不良を抱えたりしながら成長し大人になったが、現時点で救済策はない▲油症の差別、偏見にさらされた母親らには汚染油を食べた自責の念もあり、また子どもに重荷を背負わせたくないという思いから口を閉ざしてきたケースが少なくない▲油症認定の手続きでは既存の厳しい基準が当てはめられる点を含め、社会全体が次世代被害について沈黙を強いてきた側面がある▲高度成長期、国が規制をせず大企業が有害物質を大量生産、販売し、消費者の口に入り、国は被害拡大を食い止めなかった。この負の歴史を次世代は今、少しずつ知り始めている▲全国油症治療研究班(事務局・九州大)は次世代調査に乗り出した。世代を超えた被害状況を明らかにし救済策が講じられることを願う。油症に狂わされた人生を、何もなかったことにしてはならない。(貴)

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