2年連続最多勝の直後に“根性論”から脱却 山本昌氏を50歳まで導いた劇的転換

現役時代は中日で活躍した山本昌氏【写真:荒川祐史】

1993年から2年連続で最多勝も…1995年は左膝の故障で2勝止まり

50歳で見るマウンドからの景色は、まだ自分しか知らない。実に32年間の現役生活は、岐路の連続だった。スポーツに様々な立場から関わる人物の経験を掘り下げる「プロフェッショナルの転機」。第5回は、数々のプロ野球最年長記録を打ち立てた元中日の山本昌氏が受けた“衝撃”を振り返る。一度も肩肘にメスを入れなかったレジェンドを作り上げた背景には、根性論から脱した意識の大転換があった。

1993年から2年連続で最多勝を獲得し、19勝を挙げた1994年には沢村賞にも輝いた。三十路を前に、成績面ではキャリアのピークを迎えたが、同時に下り坂もすぐ迫っていた。翌1995年は左膝故障の影響で2勝止まり。「多くの人が故障がきっかけでパフォーマンスが戻らなくなり、加齢とともに衰えていく。僕にもきたのかなと」。栄華を極めながらユニホームを脱いでいった大先輩たちの姿に、自らが重なる。「変わらなきゃ」と、もがいていた頃だった。

「小山先生と会ってなかったら、50歳までとてもできなかったですね」

鳥取市内のトレーニング研究施設「ワールドウィング」の小山裕史代表との出会いが、競技者としてパラダイムシフトを引き起こす。それまでは、調子が悪ければ走り込むか、投げ込むか。たとえ状態が上向いても、何が効果的だったか分からないまま。「根性論というところから、メカニズムを直していくという意識になっていく大きなきっかけが95年でした」。独自の「初動負荷理論」に基づき、筋肉や関節、神経など体の仕組みからピッチングを見つめ直した。

トレーニングは人によって合う、合わないは確かにある。ただ、山本昌氏には“どハマり”した。

「2年連続最多勝を獲った時は、ブルペンから調子が良くて『これならきょうは負けないや』って思える時が年に2、3試合はあったんです。その感覚が、初動負荷のトレーニングを始めた3日後に来たんです。3日でなったんですからね、びっくりしました」

臨時コーチ務めた阪神キャンプで宣言「答えられないことはありません」

以来、NPB史上初の50歳登板を果たして引退する2015年まで、20年間の二人三脚。「小山先生が言ってくれたことを、僕がマウンドで『こうでした』と実践できた」。試行錯誤を繰り返し、体との対話を深めていく。2006年に41歳1か月でノーヒットノーランを達成。42歳を目前にした2008年8月に通算200勝に達し、2014年には48歳4か月で史上最年長白星も挙げた。

成功体験に縛られることのなかった、学びの連続。「変わることが怖くなくなった。もっともっと良くなるという思いが大きかったと思います」。変えなかったのは、投げる際に右肩に“壁”を作る意識と、リリースの位置だけ。「この2つだけ抑えておけば、あとはなんぼでも変えられるという感じでした」。基礎があるからこそ、様々な応用が利いた。

蓄積されてきた知識と経験は、引退してもなお自らを象るアイデンティティとなっている。「どうすれば変化球が曲がるとか、コントロールが良くなるとか、僕の中では答えがあります」。2019年に臨時コーチとして阪神の春季キャンプに参加した際、投手陣にこう宣言した。

「何でも聞いてくれれば、必ず答えられると思います。答えられないことはありません」

向学に終わりはない。「小山先生からは無限に出てくると思うんで、まだまだ色々と聞きたいなと思います」。“中年の星”と呼ばれた伝説の左腕は、“探求者”として歩みを止めることはない。

○山本昌(やまもと・まさ)1965年8月11日生まれ。日大藤沢高から1983年のドラフト5位で中日に入団。現役32年、実働29年で最多勝3度、沢村賞1度。2006年には最年長記録となる41歳4か月でノーヒットノーランを達成。2008年には史上24人目となる200勝を挙げた。2015年10月に、前人未到の50歳1か月26日で公式戦登板、その年限りで現役を退いた。通算581試合に登板し、219勝165敗5セーブ。

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