どうなるパ・リーグ最多勝争い 大混戦を演じる4人の投手の特徴と強みは?

オリックス・宮城、西武・高橋、オリックス・山本、ロッテ・岩下(左上から時計回り)【写真:荒川祐史】

11勝の宮城を山本、高橋、岩下が追いかける展開

今季のパ・リーグ最多勝争いは、かなりの混戦模様となっている。オリックスの宮城大弥投手が11勝、山本由伸投手が10勝、西武の高橋光成投手が9勝、ロッテの岩下大輝投手が8勝、そして、7勝を挙げている投手が6人と先の展開が読めない状態が続いている。

宮城、山本、高橋、岩下の4人では、2019年に10勝を挙げた高橋を除き、2桁勝利の経験はない。今回はこの最多勝争いを引っ張る4投手の特徴や、各投手の好調さを支えている要素について紹介。各種の指標を用いて投球内容をより詳しく見ていくことによって、今季の最多勝争いをリードする投手たちの活躍を、あらためて確認していきたい。(以下、成績は8月25日終了時点)

・宮城大弥投手(オリックス)

宮城は高卒1年目の2020年に、早くも1軍デビューを果たしてプロ初勝利も記録。2年目の今季はさらに進歩を遂げ、オリックス躍進の立役者の1人となっている。今季は開幕から先発ローテーションの一角に加わり、5月末の段階で5勝目を記録するなど序盤から順調なペースで白星を積み重ねた。その後も状態を落とすことなく投げ続け、8月13日のロッテで10勝目をマーク。両リーグを通じて最も早く、2桁勝利に到達した投手となった。

6月9日の巨人戦から現在に至るまで自身5連勝中で、今季喫した黒星は交流戦での阪神相手の1つのみ。高卒2年目の若さながら、最多勝と最高勝率の2冠も狙える位置につけている。140キロ台の速球に加え、横滑りするスライダー、鋭く縦に落ちるチェンジアップ、大きな変化を描く緩いカーブと、緩急をつけられる上に質も非常に高い変化球を3つも備えている点が大きな長所といえる。

昨季まで味方の援護に恵まれなかった山本は自身初の2桁勝利を達成

・山本由伸投手(オリックス)

山本は2019年に防御率リーグ1位、2020年は同2位と、先発転向後は抜群の安定感を発揮してきた。だが、勝ち星は2年続けて8勝止まりと、打線とかみ合わずに2桁勝利には手が届かなかった。昨季は故障もありながら最多奪三振のタイトルを活躍するなど、投球内容はより良化していただけに、足りないのは白星だけ、という状態が続いていた。

今季は開幕から例年通りの安定した投球を見せているだけでなく、しっかりと白星もついてきている。前半戦終了時点で自己最多を上回る9勝をマークし、8月20日の西武戦で自身初の2桁勝利を達成。東京五輪でも先発陣の一角として金メダル獲得に貢献する活躍を見せており、キャリアハイのシーズンとなりそうな気配も漂わせている。

最速で150キロ後半に到達する速球に加えて、フォーク、スライダー、カットボールといった各種の変化球も140キロを上回る。ブレーキの利いたカーブを交えて緩急をつけられる点も特徴だ。1つ1つの球種のレベルが非常に高く、いずれの球も空振りを奪えるだけの精度を備えているため、当然ながら打者にとっては的を絞りづらい。現在のNPBでも屈指の先発投手だ。

高橋は自身2度目の2桁勝利へあと1勝、岩下も好投続ける

・高橋光成投手(西武)

高卒1年目の2015年に5勝を挙げ、8月には史上最年少で月間MVPに輝く快挙も達成した高橋。プロ5年目の2019年に再び台頭し、自身初の10勝を記録する活躍を見せたが、防御率4.51と安定感に課題を残してもいた。2020年はシーズンが120試合に短縮されたこともあって8勝止まりだったが、防御率3.74と安定感が増し、自身初の規定投球回にも到達した。

さらなる活躍が期待された今季は8月24日時点で9勝を挙げ、防御率3.06と投球内容はさらに向上。最速で150キロを超える速球と、好調時には140キロ台中盤に達する高速フォークが大きな武器。それに加え、フォークに近い球速帯から微妙に変化するカットボール、鋭く縦に曲がるスライダー、110キロ台のカーブと球種も多彩で、打たせて取ることができる点も長所だ。年を経るごとにその投球の完成度は高まりつつあり、今年はさらなるステップアップの気配も感じさせている。

・岩下大輝投手(ロッテ)

プロ1年目の2015年オフに右肘のトミー・ジョン手術を受けた岩下。長期のリハビリを乗り越え、2018年に1軍デビューを果たした。当初は中継ぎが主戦場だったが、2019年以降は先発として登板を重ねた。2019年は故障、2020年は新型コロナウイルス感染と、2年連続で不運に見舞われて離脱する期間もあったが、貴重な本格派として奮闘していた。

2021年も開幕ローテ入りを果たすと、前半戦だけで自己最多の8勝をマークした。7月13日と8月17日にいずれも5失点以上を喫し、防御率は1点近く悪化してしまったが、自身初となる2桁勝利、さらにその先に向けて、ここから状態を戻していけるかに注目だ。

最速150キロの速球と、130キロ台後半から140キロ台に達する切れ味鋭いフォークが投球の軸に。今季はそれに加えて、縦気味の変化ながらフォークとは球速も変化も異なるスライダーと、大きく曲がる緩いカーブも効果的に使えるようになり、投球の幅がより広がっている。先発投手に必要な引き出しも増えつつあるだけに、今季の活躍を通じて、先発陣の中心としての立ち位置を確立したいところだ。

オリックス・宮城と山本、西武・高橋、ロッテ・岩下の各種指標【画像:パ・リーグ インサイト】

奪三振率やK/BBで優れる宮城と山本、打たせて取る高橋と岩下

では、今回取り上げた4投手をセイバーメトリクスの分野で用いられる指標をもとに分析していきたい。

山本と宮城は奪三振率と与四球率だけでなく、3.50を超えれば優秀とされるK/BBにおいても優れた数字を残している。制球力と奪三振率の双方が優れているという両投手の特徴が表れていると言える。とりわけ、山本はイニング数を上回る奪三振を記録しており、与四球率も2.00を下回るという、素晴らしい水準の投球を見せている。

それに対して、高橋と岩下は奪三振率とK/BBはそこまで高くはなく、打たせて取る投球を主体としていることがわかる。与四球率がやや高くなっている点は少し気がかりではあるが、速球とフォークを武器とする本格派の2投手が、いずれも三振を狙いに行くのではなく、打たせて取って結果を残しているという点は興味深いところだ。

昨季は短縮シーズンということもあり、2桁勝利を挙げたのはリーグ全体で4人のみ。最多勝は11勝の3投手で分け合うという、過去に類を見ないシーズンとなった。今季は宮城が既に10勝を挙げているように、数字の面でも昨季とは趣の異なる争いとなることは間違いなさそう。果たして、シーズンが終わった時に最多勝のタイトルに輝いているのは、どの投手になるのだろうか。

【動画】驚異の19歳… 投手2冠も狙えるオリックス宮城大弥のキレキレ奪三振集

驚異の19歳… 投手2冠も狙えるオリックス宮城大弥のキレキレ奪三振集【動画:パーソル パリーグTV】 signature

(「パ・リーグ インサイト」望月遼太)

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

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