待宵の月

 手元の歳時記で「月」を引いてみる。〈そのさやけさは秋にきわまるので、俳句で単に月といえば秋の月をさす〉。さやけさは「明けさ」「澄けさ」と書き、今時分の月はとりわけ明るく、澄んでいる▲上弦または下弦の月を「弓張月」、月が出ようとして空が白むのを「月白(つきしろ)」と呼ぶらしい。あすは中秋の名月で、その前夜、きょうの月を「待宵(まつよい)の月」という。月にまつわるきれいな言葉は多い▲〈皆ひとの昼寝のたねや秋の月〉。みんな月見で夜更かしをして、翌日の昼間はうとうとしている、と古人は詠んだ。うたげに興じたり、句会や歌会を開いたりと、多くの人が楽しい一夜を過ごしたのだろう▲皆が集まって名月をめでることも今ではあまりないが、今年はことの外、見上げるに値するらしい。中秋の名月が満月とは限らないのだが、あすは8年ぶりに満月と重なり、ひときわ明るく輝くという▲さやけき光が降り注ぐといいが、天気予報によれば西日本は雲が広がりやすい。見えないなら見えないで、夜空を仰いで心に明るい月を映してみたい▲今夜の「待宵」には「来るはずの人を待つ宵」という意味もある。遠方との往来や帰省に慎重さが求められる昨今、会えずにいる人、やがて会うはずの人の姿をこよいの月に重ねれば、輝きをいっそう増すだろう。(徹)

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