米同時テロ20年

 読み終えるのに4時間かかるという。崩れ去った世界貿易センタービルの跡地、グラウンド・ゼロでの追悼式では、米中枢同時テロで亡くなった全員の名前が読み上げられてきた▲そうすることで人々は、「犠牲者は約3千人」というだけでは言い尽くせない、失われた命の重さを胸に刻んできたに違いない。一人一人に人生があり、家族や友人がいた▲その深い悲しみと表裏一体だったろう。激しい怒りと、愛国心と、テロとの戦いに打ち勝つ決意が米国を覆った。テロの中心人物の拠点、アフガニスタンで米軍が攻撃に乗り出すと、米国民の9割が当時は支持に回っている▲短い間にアフガンのタリバン政権を崩壊させ、その時はテロを封じ込めたように見えた。それから先はどうだろう。怒り、愛国心、決意に代わり、米国と世界を覆ったのは「こんなはずではなかった」というため息ではなかったかと、同時テロから20年の日に顧みる▲米軍がアフガンにとどまって国力はそがれ、世界的にはテロ組織が勢力を強めている。対テロ戦争の20年は、アフガンからのむなしい撤収で幕を閉じた▲そのアフガンでは民主国家が育つどころかタリバンが復権し、「こんなはずでは」という嘆きの局面がなおも続く。困難と危険にさらされる人々の命の重さも忘れてはなるまい。(徹)

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