Vol.49 DXとドローンの関係[春原久徳のドローントレンドウォッチング]

各分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が図られているが、実態が見えにくいことも事実だ。 それはDX、そのものの概念が不透明な部分もあるし、また、各業態によっても、内容やレベルが異なっているということにも起因しているだろう。

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

(経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」より、太字は筆者)

何となく理解ができるが要は「IT技術やデータの活用によって、製品・サービス・ビジネスモデルを変革し、競争力を高めていくこと」ということになるだろう。 これは今までのIT化やデジタル化とどこが違うのか?

一番は、「製品・サービス・ビジネスモデルを変革」という部分にあると思うが、この変革というもののイメージがわかりにくい。 それは、業態や業種によって、その内容が大きく異なるからだ。 DXの推進というときには、この変革という部分と競争力強化という部分に明確なイメージを持つことが重要になってくる。

ドローンとDX

ドローンの役割は、大きく分けて2つある。 1つが作業代替であり、これは物資搬送、農薬散布、散水などとなる。もう1つが情報収集となる。これはドローンに搭載したカメラやセンサーなどでデータを収集することで、通常の空撮も広義な意味で情報収集といえよう。ドローンの活用に関して、物資搬送などのニュースが多いが、現状、多く使われているのは、この情報収集となっている。 今まで、ドローンの産業利用の中で貢献してきた部分は、この情報収集の役割が大きい。

ドローンの情報収集という観点でいえば、ドローンの導入で2つの大きな進化があった。 1つは人が行きにくい場所や危険が伴う場所のデータの取得が可能になったということ。これは高所や狭隘部などである。もう1つは、今まで取得しにくかった野外のデジタルデータ、特に広域のデジタルデータが取得しやすくなったし、ドローンといった移動体が収集するオルソ画像合成に関してもPix4D社のソリューションを初めとして、技術が進歩し、手軽なものになった。

では、そんな役割を持ったドローンとDXはどんな関連があるのか? 具体的に建設DXの例を挙げて、説明したい。(建設の分野は、従来からConstruction4.0ということで検討が重ねてこられており、BIM<Building Information Modeling>/CIM<Construction Information Modeling>という形で、日本国内では2012年ぐらいより建設業務の効率化を目的に業界の中で推進してきている項目であるが、i-Constructionを経て、これが建設DXということで集約されてきている。 以下が建設DXの概略図となる。

各レイヤーにおける説明をしたい。

  • Application Layer/アプリケーションレイヤー
    設計から施工、維持管理に至る建設プロジェクト全体で、建設プロジェクトに関する様々なデータを3 次元モデルとともに集約、統合し、IoTデータを効率的に活用する。次世代BIM/CIMを活用し、設計、現場の工程管理や作業員の管理などを含めた発注者、設計者、施工者、点検管理者などが利用するアプリケーションを提供するレイヤー。 デジタルデータを管理・活用するレイヤーとなり、ここからの視点が基本となっていく。 デジタル台帳の部分とそれを引き出すためのアプリケーションから成っている。
  • Data Collection & Control Layer/データ収集・蓄積・制御レイヤー
    現場の様々な情報を収集・蓄積・管理し、蓄積や建設のモデルなどにマッピングする領域と、上位のアプリケーションからの指示に応じて、各種デバイスに情報を提供し、また、ICT建機や搬送用ドローンなどのスマートマシンの制御を行うレイヤー。 このレイヤーは、関連する大量のデータ、モデルを蓄積・管理するデータ蓄積レイヤーとこれを利用者が設定、反映するアプリケーションレイヤーの両方の側面があるため、両レイヤーにまたがっている。 このレイヤーに関しては、どのシステムからも情報を同様に蓄積し、また、各デバイスに対しても、同一な動きが求められるので、ここの共通基盤をいかに作るかということが、DXの鍵にもなってくる。
  • Sensing Layer/センシングレイヤー
    情報収集ドローンや現場に設置するセンサー、人が身に着けるウエアラブルデバイスなどのセンシングデバイスを管理するレイヤー。 4のデバイスレイヤーのデバイスと兼ねる場合もある。 ここがIoTデバイスや動くIoTデバイスであるドローンなどの自律移動体が重要になってくるポジションだ。適切な方法と適切なタイミングが必要とされる。
  • Device Layer/デバイスレイヤー
    現場にあるICT建機や電動工具、搬送用ドローンなどのスマートマシン、スマートフォンやタブレットを管理するレイヤー。 ここが作業支援や、より進んでくると作業の自動化に直結してくる部分だ。 結果的に、ここのレイヤーの使えるシーンや頻度、精度が高くなると、建設業務の効率化につながってくる部分となる。
  • Communication Layer/通信レイヤー
    センシングレイヤーやデバイスレイヤーと、サーバーやクラウドとの間の情報通信を行うレイヤーであり、有線、近距離・広域無線通信技術などを含むレイヤー。 通常は、なかなか有線の活用は難しいので、近距離・広域無線通信技術と連動してくる部分、ローカル5Gなどもテーマになってくる。

こういったレイヤーの中で、1のレイヤーでの管理・活用の視点から、その内容をきちんとつなげていく必要がある。

また、特に建設現場といった野外や屋内の現場において、3のレイヤーでのデジタル情報の収集というものが、そのスタートになっていくが、 状態把握のためには、その状態の状況だけでなく、その場所のX.Y.Zの位置というのも重要になっており、特にドローンなどの移動体での情報収集に関しては、その機体制御だけでなく、その取得データの自己位置推定ということもポイントになってくる。

4のレイヤーは、一番実現のための技術を要するところであり、最初にあまり全自動化といったことを求めるのではなく、現状の技術に合わせて、作業支援から徐々に進めていくことが結果的に、ゴールに近づくことにつながるだろう。 特に建設現場には他のDX案件に比べて、以下のような課題がある。

  • 非量産性(属地生産、注文生産、一品生産)
    それぞれ異なる土地で、顧客の注文に基づき、一品ごとに異なる形状の構造物を構築する。
  • 自然依存性(様々な天候条件や自然条件の中での作業)
  • 作業環境の一過性(作業環境の変化、実地での作りながらの検証)
  • 社会環境依存性(工期も長く、社会環境やクライアントの経済状況の変化などによる計画変更や中断)
  • 複合専門性(各業務の専門性、細分化された分業制、投入資源の柔軟な調整)
  • 労働集約性(手作業、成形後の寸法や品質のばらつきへの対応)

こういった点からも、現在、製造業で行われている生産性向上策(設計製造の垂直統合、材料供給の効率化、機械化、ライン化、機械生産による24 時間稼働など)が適用しにくいところがある。 こういった課題を克服していくというのが、今回のDXにおける経営側での変革であり、業務の効率化や生産性の向上というゴールにむけて、既存のやり方を変えながら、推進していくことも重要であろう。

また、この建設DXの流れの中に、点検DXといわれるようなメインテナンスも存している。 以下のi-Constructionの測量・設計・施工までが建設DXだとすると、維持管理といったところが点検DXとなってくる。

この測量・設計・施工までの建設DXで推進されたものは、その中で比較的スムーズに点検DXにのりやすいが、点検DXの難しさは、その多くがこの建設DXの流れにはないということである。該当する構造物のデータが紙のデータ(アナログデータ)であり、また、それをデジタル化するのも大変だが、管理するには3次元データにする必要があるということだ。 ただ、現在、ドローンで取得したデータを3次元化する技術は向上してきており、まだ、建造物の設計を行うまでの精度には至っていないが、既存の構造物の点検においては、手を加える必要はまだあるものの使える技術になってきているので、そういった技術を活用しながら、デジタルデータによる3次元台帳づくりをしていくことも、点検DXにとっては非常に重要なところになっている。

今回は建設DXを例に挙げたが、その他の業種や業態においても、同様なフレームワークの構築とそこにおける課題や技術の推進ということを進めていく必要がある。 先にも記したように、今までデジタルデータを取得することが難しかった野外の工事現場や農場や圃場といったところにおいては、ドローンの効果が見込まれる部分である。 現に欧米においても、工事進捗や農地管理といった分野では、各ビジネスレイヤーにおいて、その活用が進んできており、例えば、SCM(Supply Chain Management)といった領域においては、効果を発して、コスト削減や業務改善につながっている事例も多くみられるようになってきた。 重要なのは、DXというお題目の推進でなく、各企業体や団体において、そのDXを活用して、いかに変革につなげていくかという姿勢が問われている。 そして、ドローンはその一端を担う道具としては、かなり有力で有用な道具であるし、その技術は既にだいぶ整いつつある。

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