4年目で急成長ヤクルト・塩見を見いだした「篠塚以上」と言われた男

(左)18日の巨人戦でサイクル安打を達成した塩見。ナインの祝福に笑顔。(右)斉藤スカウトは現役時代、巨人で活躍

【赤坂英一 赤ペン!!】6年ぶりの優勝が視野に入ってきたヤクルト、今年台頭してきた戦力の中でひときわ目を引くのが、4年目で1番中堅に定着した塩見泰隆外野手(28)だ。昨年まで40試合程度しか出られなかった控え選手が、今年はがっちりレギュラーをつかんで打率3割台、出塁率も3割台後半、プロ初の2桁本塁打をマーク。18日の巨人戦で史上71人目のサイクル安打も達成した。

2017年秋のドラフト4位でJX―ENEOSから入団。当時、塩見の担当だった斉藤宜之スカウトが語る。

「塩見ならこれぐらいやってくれるだろう、と思ってました。トリプル3(打率3割、30本塁打、30盗塁)もできるほどのポテンシャルを持っている選手ですからね」

しかし、1年目の18年、浦添キャンプで私が首脳陣に塩見の評価を聞くと「足は速いし、守備もうまいが、打撃はまだプロのレベルじゃないね」。そんな新人がなぜ4年目でこれほどの急成長を見せたのか、斉藤スカウトが言う。

「塩見はもともと広角に打てる技術に加えて、長打を飛ばせるパンチ力もあるんです。ただ、去年まではオープン戦で結果を出しても、開幕したらヒットが続かず、二軍へ行かされることが多かった。打てなければまた二軍だと思うと、打席の中で余裕を持てなかったんでしょう」

そのファームで、17~19年に二軍監督を務めていた高津監督に出会ったことが大きかった。

「高津監督は塩見の力を買って、二軍で打率3割打てるぐらい使っていました。今年は一軍でも塩見が少々打てなくても起用し続けている。塩見が結果を出せたのも、そういう高津監督の我慢のおかげですよ」

その斉藤スカウトも、現役時代は将来を嘱望された選手だった。1994年秋のドラフトで塩見と同じ4位指名で巨人入団。俊足巧打で、長打力も兼ね備えた外野手だったのも塩見に似ている。長嶋監督に「篠塚以上のバッター」と評価され、原監督1年目の02年に打率3割を記録し、日本シリーズで優秀選手賞も受賞した。

だが、左足ふくらはぎの肉離れで07年に戦力外通告。トライアウトを経て移籍したヤクルトで09年に引退し、スカウトに転身している。

「いつも、このまま終わってたまるか、と思っていました。控えの頃も、ケガをした時もずっと」

そういう苦労を経たスカウトだからこそ、塩見のような逸材を見いだせたのかもしれない。

☆あかさか・えいいち 1963年、広島県出身。法政大卒。「最後のクジラ 大洋ホエールズ・田代富雄の野球人生」「プロ野球二軍監督」「プロ野球第二の人生」(講談社)などノンフィクション作品電子書籍版が好評発売中。「失われた甲子園 記憶をなくしたエースと1989年の球児たち」(同)が第15回新潮ドキュメント賞ノミネート。ほかに「すごい!広島カープ」「2番打者論」(PHP研究所)など。日本文藝家協会会員。

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