自分に合ったFIREとは?達成時におこりうる“FIREの落とし穴”

空前のFIREムーブメントが到来し、「具体的に自分の場合はどうしたらよいのだろうか?」と早期リタイアメントを考えてライフプランを立てはじめた方も多いのではないでしょうか。FIREといってもさまざまな種類があります。そしてFIREは達成したら終わりではなく、意外な部分でその後の生活に影響していきます。今回は5種類のFIREと達成時の注意点について解説します。


FIREとは?

FIREについては、さまざまな記事や本で紹介されているので知っている人も多いかもしれません。基本的な考え方は、日々の生活費をできるだけ減らして余剰資金を資産運用にまわしていきます。年間生活費の25倍の資産がつくれたら株式と債券で運用益の一部を切り崩し生活していきます。米国の場合、S&P500と債券を50%づつで運用しながら、総資産の4%を切り崩していけば、将来に渡って資産が無くなる可能性が極めて低いと言われ、目指す人が増えています。

このアメリカの20代・30代のミレニアル世代を中心に始まったアーリーリタイアメントのムーブメントは、経済的に自立(Financial Indipendence)し、早期に退職する(Retire Early)と訳されるため、さまざまな誤解も受けています。

・早期リタイアなんて、仕事が楽しくないのか?
・早期にリタイアして、毎日漫画やNetflixで見るつもり?それを続けて楽しいのか?
・引退して社会性をなくしたら人間としての存在意義や、生きがいがなくなるのでは?
・お金を使わず、霞を食べるような生活をして楽しいのか?
・結婚をする気が無い人が多いように感じる、子どもや家族はいないままでいいのか?
などの声です。

これは Retire Earlyという言葉の「リタイア」というイメージが、働かない老後をイメージさせるからでしょう。

一方、実際のFIRE達成者たちをみると、労働をしている人が圧倒的に多いように思います。むしろ、「経済的には仕事をしなくても大丈夫なので、何も怖がることなく仕事ができる。」「やりたいことを、やりたい時にやりたいだけ。無理な強制はされない。」という「働いても働か無くても良い自由」を得ながら自分の選択で働いている人が多くいます。

5つの種類のFIRE、自分に合ったのはどれか?

FIREには諸説ありますが、大きく5つの区分にわかれます。

Fat FIRE (ファット・ファイア)
Lean FIER (リーン・ファイア)
Coast FIRE (コースト・ファイア)
Side FIRE (サイド・ファイア)
Barista FIRE (バリスタ・ファイア)

Fat FIRE

Fat FIREは、文字通り豊かに太ったという意味で、「贅沢な生活」をしても資産がつきないようなFIREの状態をさします。仮に年間支出が1,000万円以上の生活を送っても問題ないとすると、数億円の資産が必要になります。節約するだけでは達成が難しいので、収入を大幅にあげて、資産運用や事業投資に成功するなどが必要になります。

Lean FIRE

Lean FIREは、現役時代も質素倹約とミニマリストな生活をし、収入の大半を貯蓄・投資にまわしながら資産をためて、FIRE達成後も倹約成約を続けることになります。
Leanとは、「やせた・引き締まった・効率的な」という意味で使われるので、Fatとは真逆の意味。最低限の生活が保障されるので、精神的に自由になることが最大の醍醐味といえるでしょう。

Coast FIRE

Coast FIREは、経済的にはFIREが達成できている状態になっても仕事へのやりがいからやめる必要がなく続けている状態です。多いのは医者や弁護士、実業家など、成功し資産的にはいつでも早期リタイアできるが、仕事へやりがいをもち、辞めずに働いている人をイメージすると良いでしょう。Coastは「惰性で進んでいる状態、楽に進んでいる状態」を表しており、無理をせず楽しみながら仕事を前進させていると考えられます。

Side FIRE

Side FIREのSideは、「Side hustle=副業」を語源とします。つまり、自分のやりがいを感じ、楽しみながら頑張れる副業や個人事業主の仕事を続けながら、資産運用から得られる収益と合わせて経済的な自由をつくることです。仕事が楽しいと、趣味と仕事の境界線がなくなり、自分のやりたいことをやりたいだけ行い、経済的な心配は少なくなります。

Barista FIRE

Barista FIREは、バリスタの文字の通りスターバックスなどでアルバイトを週に2、3回行って収入を得ながら資産運用による収益と合わせて、働くことを強制されないで自由にいられる状態です。もちろんバリスタの仕事でなければならないわけではなく、週に2、3回の勤務労働を通じてストレスが少ない働き方をしていくというものです。

Side FIREとBarista FIREは、どちらも資産運用による収入と、労働を組み合わせた経済的自由なので、どちらか一つの名称を使って一つにくくっている場合もあります。突き詰めて考えるとSide FIREが個人事業主や自営業として働くことに対して、Barista FIREは雇用されるという違いがあります。(諸説ありますが、著者の解釈)

どのFIREにしても、共通するのが「やりたく無いことはしない」ということです。最低限の生活は資産から生まれる利益や配当でまかなえるので、生活に困窮することはありません。「働かない」のではなく、「働いてもよいし、働かなくてもよい」ので極めて自由な選択が可能で、実際はFatFIREした人も、Lean FIREした人も何らか働いている人が多く、楽しみながら収入を得られています。結果、Side FIREに近いような状態になっている人が多く見られます。

FIRE達成時の落とし穴

日本でFIREを達成するには、確認しておいた方がいいことがあります。FPとして何人ものFIRE計画を診断して行く中で、見落としがちなポイントをまとめました。

1)米国と運用益に対する税率が違う為、3%ルールがそのまま適用できない

米国では、株式の利益や配当利益に対して10%の税率が課せられますますが、日本は20.315%となりそもそもの税率が異なります。インフレ率も異なるため、一概に日本が不利とは言えませんが、そもそもの状況が異なるので、FIREの基本的な考え方である年間生活費の25倍の資産を作って、株と債券で運用し4%で取り崩すというだけでは危険が伴います。

2)収入が少なくなると年金が少なくなる。

FIREによって労働収入が少なくなった場合、標準報酬月額が少なくなるため年金が減少する可能性があります。また、年金については今後支給される金額が少なくなっていくことも想定されますので、「現状の年金支給額が、今後も変わらない前提になったFIREプラン」は危険です。

3)会社員をやめても国民健康保険などの支払いがある。

公的年金や国民健康保険の支払いは、働いていなくても支払いが発生します。国民年金の保険料は令和3年では1万6,610円/月となります。つまり夫婦だと年間40万円ほどが発生します。国民健康保険は、市区町村ごとに状況が異なります。公的年金も、国民健康保険も収入が低い場合は支払いが減額や免除されることがあるので個々人の状況にあわせて調べてみるとよいでしょう。

4)住民税は前年度の所得によって決まるので、退職した翌年の支払いが厳しくなる。

住民税は、前年の所得をもとに計算されますので、会社員勤めで収入が合った状態から、急に収入を減らしたり無くしたりすると、税金の支払いが遅れてやってくるので想定外の支払いを請求されることがあります。事前に金額を備えておくとよいでしょう。

5)運用し、確定した利益に税金がかかる

現在、株式などの運用益については、NISA口座やiDeCoなどの非課税枠以外で運用した場合は利益に対して20.315%の税金が発生します。生活費の為に取り崩し、利益確定した時の税金を正確に把握するのは難しいでしょう。

6)将来の増税により、計算が狂う可能性

株式などの運用益に対して、現在の約20%の税金を30%に増税するべきという国会議員もいます。その他、一定の資産を持つ人からは、資産税などを徴収するべきなどの考えもあるため、将来計算が狂う可能性もあります。

7)自由な時間ができたがやりたいことがない

働かない自由を手にし、いざ「やりたいことをやろう」と思っても実はそれほどやりたいことが無い場合もあります。労働によって貢献ができないと、社会から必要とされない感覚を持ってしまう人もおり、一定の働かない期間を経て、「やっぱり会社員が良かった」と復職する人もいます。

8)身内の理解が得られない

「いざFIRE」と、貯蓄を貯め、資産を築いて年間生活費の25倍の資産を築いても、パートナーの理解を得られずに会社を辞められないケースもあります。夫婦でFIREする場合は事前によく話し合っておくことが重要です。

9)ライフプランを組んでいない

ある程度の資産ができて「FIRE」をすると決めても、いざ退職をする時に不安になって辞められない場合があります。将来にわたって、さまざまなライフイベントを加味し綿密なライフプランを組んでおくとや、前述の見落としがちな増税や年金の縮小なども想定しても大丈夫か考えて置く必要があります。

10)想定外のライフイベントが発生

FIRE後に子どもが一人増えた。
FIRE後に引っ越しせざるを得なくなり、家賃が増えた。
FIRE後に子どもの進路がかなりお金のかかるものになった。
など、想定外のことが起こるのが人生です。この辺りのライフステージの変化やライフイベントに対しても柔軟に対応できるような収入源を確保することや、余剰の資産を持っておくことなどが重要になります。

最後に

FIREは、「働いても良いし、働かなくても良い自由」を手にすることです。「絶対に働かない」ということではありません。

今回は5種類のFIREを紹介しましたが、「こうでなければFIREではない」というものではないので、自分に合った自分らしいリタイアメントを考えてみると良いでしょう。

また、人生の変化や想定外のことが起こった場合に、柔軟に受け止めて新たな収入を働いて稼ぐなどの選択肢があったほうが、人生を謳歌することに繋がります。

自由であるということは、固執せず、しなやかに変化に対応することでもあります。生き抜く力は常に持っていたいので、FIREで勝ち得た時間を元手に、さらなる柔軟な人生を得るための自己投資が重要になると思います。

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