阪神・佐藤輝「不名誉記録」樹立でも心配無用 中田翔、村上も通ってきた〝道〟

佐藤輝の苦しみは〝強打者への道〟だという

阪神のドラフト1位新人・佐藤輝明内野手(22)が、29日の広島戦(甲子園)で54打席連続無安打という不名誉なプロ野球ワースト記録を樹立した。スタメン落ちしたこの日は代打で登場も凡退。長いトンネルを脱出することはかなわず、ルーキーイヤーで思わぬ屈辱となった。だからと言って「悲観する必要はなし」と球界関係者たちは一様に口にする。なぜならそれは、リーグを代表する強打者たちもみんな通ってきた道だからだ。

23日の昇格以降、この日は初のスタメン落ち。出番は2点を追いかけた5回無死三塁での代打起用だった。しかし、結果は広島先発・九里の前に浅い左飛に倒れ好機を生かせなかった。この凡退で連続無安打記録は1993年のトーベ(オリックス)を抜き54打席に。不名誉なプロ野球新記録を樹立した。悔しさを押し殺し、その後は追いかける展開となったチームを必死にベンチから鼓舞し続け、敗戦とともに屈辱の一日を終えた。

8月までルーキーながら23本塁打と球界の話題をさらってきた佐藤輝に、再び忍び寄る「再降格」の可能性…。それでも球界関係者からは「このまま上(一軍)で」の声は多い。快音から見放された日々を自力で抜け出す作業は、将来の中軸を期待する長距離砲には「必要な要素」でもあるからだ。

その一例が現在は巨人に移籍した中田翔内野手(32)。日本ハムOBが現在の佐藤輝と、日本ハムで初めて4番に座った2012年の中田を引き合いに出して指摘したのが、不振にあえいでいるなかでも一切、表情に出ていないという点だ。

中田もその年、開幕から25打席連続無安打と不振に陥り、4番の重圧と戦っていた。

「当時の翔はベンチにいる間もうつむきがちだったし、顔に噴き出ものは出るわ、口のなかには口内炎ができたり。見ているこっちも気の毒になるぐらい。それに比べたら、佐藤輝は常に毅然としている。もちろん胸中は穏やかじゃないだろうけど、それが表に出るような雰囲気は一切感じない」

苦悩の胸の内を周囲に悟られることなく、たとえ不振が続く中でも堂々とした姿勢はやはりプロ向き。ただ者ではないハートを持っているというわけだ。

今やヤクルトの4番に成長した村上宗隆内野手(21)にも起用に〝痛み〟を伴った時期があった。日本人野手最多の184三振を喫した一方で36本塁打を放ち頭角を現した19年だ。

ヤクルト関係者も「あの年、ムネ(村上)は一塁、三塁でかなりエラーをした(15)し、記録に表れないものも含めれば『村上の守備で落とした』試合もそれなりの数があったと思う。そんな守備も年々上達して、打つほうがさらにすごみを増してきてっていうのが去年とか、今年。要は弱点を年々克服して、長所は伸ばしてっていう理想的に成長する姿を毎年、見せてくれている」と述懐する。チームを挙げて、忍耐の積み重ねで花開いた成功例は虎の怪物にもリンクする。

華々しくスタートを切ったプロ1年目の終盤、分厚い壁にブチ当たった佐藤輝。球史に残るこの屈辱は、チームの看板を背負って立つために必要な〝肥やし〟だった。そう振り返るためにも、今の佐藤輝に求められるのは、とにかく振り続けることなのかもしれない。

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