【大学野球】「電子物質化学科」と「機械工学科」 ドラフト待つ異色の国立大理系頭脳派右腕2人

静岡大・石田雄大【写真:間淳】

石田雄大は静岡大工学部の電子物質科学科に在籍、太陽電池を主に研究

ともに国立大の工学部に在籍し、ストレートの最速は148キロ。静岡大の石田雄大(いしだ・ゆうた)投手と、井手駿(いで・はやお)投手の2人が大学史上2人目のプロ入りを目指し、ドラフトに備えている。異色の両右腕は果たして指名されるのか。野球界だけでなく、国立大や理系の野球部員も注目している。【間淳】

「工学部電子物質科学科」。文系の方なら拒否反応を起こしそうな言葉。プロ志望届を提出した石田は、この学科でスマートフォンやテレビ、冷蔵庫、自動車などあらゆる製品に使われている半導体や光デバイスを学んでいる。その中でも、太陽電池を主に研究しているという。

「勉強はあまり好きではなかったですが、数学と物理ははっきりとした答えがあるので得意でした。半導体に関連した仕事に就こうかなと思って大学に入りました」

大学入学当初はプロ野球をイメージしていなかった。愛知の刈谷高で内野手から投手に転向したのは2年生の時。「チーム事情と、自分自身がやってみたい気持ちもあって挑戦しました」。身長は現在も174センチと決して高くはない。それでも、石田はストレートにこだわった。下半身のバネと強い踏み込みで躍動感のある投球フォームを目指し、元阪神・藤川球児氏や楽天・則本昂大を手本にした。

理系の頭脳で一流選手を分析して、自分に合った要素を取り入れる。身長は5センチほど低いが、石田のフォームは則本とよく似ている。大学入学時に140キロだったストレートの最速は148キロにアップ。目標の150キロまで、あと2キロに迫っている。「体が小さくてもスピードのあるボールを投げられれば、投手としての特徴になる」。研究と努力でプロのスカウトから注目される存在にまでなった。

静岡大・井手駿【写真提供:静岡大学】

井手駿は工学部の機械工学科で「材料力学」を研究する

もう1人のドラフト候補、井手は石田と同じ工学部の「機械工学科」に進んでいる。建物などの材料に力が加わった時の強度や、どのくらい変形するかを解析する「材料力学」を研究している。「高校3年生で進路を考えた時に自分の夢がなかったので、夢がある分野の勉強をしたいと思いました。宇宙、航空系は、まだ解明されていないことがたくさんあるので興味がありました」。宇宙に関する研究をできる静岡大の工学部を選んだ。同じ授業を受ける同級生にはJAXA(宇宙航空研究開発機構)に就職する人もいるという。

愛知の高蔵寺高時代、井手のストレートは最速133キロと平凡だった。しかし、学業同様に野球も研究熱心で、大学4年間で球速は15キロも速くなった。決め球にしているカットボールは大学で習得。他にも、カーブやチェンジアップなど、5種類の変化球を操る。

日本球界を代表する投手のオリックス・山本由伸や、メジャーの剛腕、メッツのジェイコブ・デグロムの映像を解析。ボールに力を伝えるコツをつかんだ。182センチの身長を生かした投球フォームで球速がどんどん上がり「研究でも失敗した時に何が悪かったか原因を考える。それが野球にも生きたと思う」と成長を感じている。そして、「プロに入って一流の選手を見れば、まだ自分の伸びしろがあると思っている」と自信を口にした。

静岡大の選手では、外野手の奥山皓太が2019年ドラフト会議で阪神の育成2位指名を受けたのが初めて。奥山は教育学部出身。石田と井手がドラフトで指名されれば、理系出身者で初となる。半導体や宇宙に関わる仕事を思い描いて大学に入った2人が、プロ野球選手になる日が来るかもしれない。(間淳 / Jun Aida)

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