投資初心者「暴落が怖い。預金で残すべき金額は?」FPが教える長期・積立・分散の極意

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、27歳・会社員の女性。今年6月から給与の残りを全額投資に回している相談者。預金との比率がアンバランスになり、暴落が怖いといいます。最低限預金として残したほうがいい金額は? FPの秋山芳生氏がお答えします。

27歳会社員、独身です。

投資信託の利回りが順調だったため2021年6月頃から給与の残りを毎月投資信託の買付に回していましたが、投資と預金の比率がアンバランスになってしまいました。

投資元手が大きい分、含み益も膨らみ恩恵を受けている一方で、いつかやって来る暴落の前に一部売却した方がいいのかもと思います。リスクを取っても積極的に投資したいスタンスですが、最低限現金預金として残した方がいい目安を教えてください。

【相談者プロフィール】

・女性、27歳、会社員、独身

・住居の形態:賃貸(東京都)

・毎月の世帯の手取り金額:25万円

・年間の世帯の手取りボーナス額:60万円

・毎月の世帯の支出の目安:20万円

【毎月の支出の内訳】

・住居費:8万7,000円

・食費:3万6,000円

・水道光熱費:1万円

・教育費:3,000円

・通信費:1万円

・お小遣い:2万円

・その他:3万円

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:6万円(全て投資に回している)

・ボーナスからの年間貯蓄額:60万円

・現在の貯金総額(投資分は含まない):43万円

・現在の投資総額:516万円

・現在の負債総額:0円


秋山:ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナー兼FP YouTuberの秋山芳生です。2020年はコロナショックがありましたが、年間を通じてみると株価は大きく上昇しました。また、2021年前半も成長したところから高止まりして、2021年後半はテーパリング(米国の中央銀行FRBが超金融緩和状態から、量的緩和策による資産買い入れ額を徐々に減らしていくこと)を見据えた様子見の相場になっています。

ご相談者さまはこの期間投資をしており大きく資産を伸ばしたとのこと。また、2021年6月から投資信託を定期的に買い始めたとのことですが、現在の現金比率と投資総額のバランスで良いのかを悩んでいらっしゃいます。不安なく長期投資ができるようにするにはどうすれば良いか一緒に考えていきたいと思います。

リスクへの不安に対応するためには?

投資を行うと資産が増減するリスクが発生します。このリスクとは、運用資産の振れ幅のことです。また、将来どうなるかわからない不確実性のことを指す場合もあります。市場の株価は上がったり下がったりを繰り返しますが、時に急上昇したり、大きく値を下げて暴落することもあります。

暴落時に狼狽して資産を投げ売ってしまうと損が確定してしまい、暴落後の株価回復を得られなかったりします。投資対象への理解、投資に対するマインドセット、投資のルールや仕組みが整っていないと、株価が大きく下がる時は不安になってしまいます。

このリスクをコントロールして、平常心で投資を成功させていく方法として、「長期」「積立」「分散」を心がけることが大事だと言われます。この言葉はあらゆるメディアや専門家から語られているため、投資をしている人であれば、「知っている・聞いたことがある」という人は多いですが、一方「深く理解していないし、実行できていない」人も多いのが実情です。

「長期」投資の意味を改めてチェック

ひとつひとつ見ていきましょう。

【長期】
長期で全世界の株式のインデックスをみると、10年以上の運用をすれば元本割れする可能性が極めて少なくなることがわかります。逆にいうと、短期では上がったり下がったりしながら元本を割る可能性も高いということです。「そうか、長期が重要か。では私も10年以上の長期で運用しよう」と思っていても、いざ自分の資産が値崩れして下がった時には怖くなって売ってしまう人は多いです。これに対応するには、大きく3つのポイントがあります。

「長期」投資の3つのポイント

1)万が一の状態でも対応できる生活防衛費は運用に回さない。
生活防衛費は毎月の生活費の6カ月が目安と言われます。万が一仕事を無くしたり、収入が得られないような環境になっても6カ月分の生活費があれば慌てずに立て直す時間が持てます。このお金を運用に回してしまっていると、市況が悪いときと仕事を無くすことが重なった場合に運用資産を取り崩さなければならなくなります。安定的な生活を送るためにも、生活防衛費は運用資産と分けて確保することが重要です。

2)直近数年で想定されるライフイベントの費用は現金で用意し、10年以上使わないお金だけを投資に回す。
上記の生活防衛費以外にも、貯金で使うのがわかっているお金を運用に回してしまうと損切りしないと支払えないといったこともあります。例えば、「3カ月後に引っ越しがある」「半年後に結婚式をする」などのライフイベントの費用を運用していて、いざ使おうとした時に株価が下がっていたら損をしてしまいます。短期ではリターンが出るかどうかわからないので、使う予定があるお金は現金で持ちましょう。

3)株価の増減に一喜一憂しないように値動きを頻繁に見ない。
長期投資の鉄則としては、こまめに売り買いをしないで、バイ・アンド・ホールドで長期的に「複利」によるリターンを目指すものです。複利はリターンを再投資するので、長期で持ち続けることでその力を発揮します。「投資の握力」とも言いますが、買ったものを簡単に手放さない力が重要です。また、運用成績が良いのは、「口座を持ったまま亡くなっている人」「運用しているのを忘れている人」という話もあります。株価の動きに一喜一憂しないで、バイ・アンド・“フォゲット”を目指してみるのも良いかもしれません。

「積立」投資の意味を改めてチェック

【積立】
ドルコスト平均法は、毎月一定額を積み立てていくことで、リスクを抑える方法です。株価が高いときも、低い時も一定額を投資することで、安い時には沢山買うことができ、高い時には少量の購入で済むので、全体的なリスクが抑えられ、リターンがよくなりやすいのです。

重要なのは、「買うか買わないかを都度判断しない」ことです。毎月「今月は高いから少なくしよう」とか、「今月は安いからいっぱい買おう」などと考えると失敗しやすくなると言われています。すでに高値と思って買わなかったが、翌日から大きく値を上げて成長することもあります。そんな時に「早く買っておけばよかった……よし、今から買おう」と購入額を増やせば、その直後に値下がることも往々にしてあります。また、「買った瞬間に株価が下がったから、平均購入単価を下げる為にさらに買い増す」ような、「ナンピン(難平)買い」を繰り返した結果、株価が下がり続けて手元資金が無くなってしまうこともあります。このようにならないように、2つのポイントが重要になります。

「積立」投資の2つのポイント

1)「買う・買わない」の判断をせずに自動積立を仕組み化する
証券会社で自動積立設定にして、毎月一定額を購入するように設定をしてしまいましょう。買ったことも忘れているぐらい、購入に判断がない状態が理想です。

2)毎月一定額を運用に回せるよう家計の収支を整える
毎月投資に回すお金は、基本的に毎月の収入から拠出することになると思います。家計の収支の中から、生活に必要な支出と、生活防衛費として貯める現金を除いた余剰資金を運用に回していくので、「支出コントロール」が資産形成の基盤になります。支出をしっかりと把握してコントロールし、運用に回す余剰資金が無理なく生み出せるようにすることが重要です。

また、投資の中級者・上級者になると、ある程度チャートの動きを見ながら下げ止まりを意識した「押し目買い」ができるようになりますが、確実ではありません。まずは、継続して積み立てられる仕組みを作っていくことが、投資成功のポイントになります。

「分散」投資の意味を改めてチェック

【分散】
分散には複数の分散があります。

(1)エリアの分散
先進国、新興国、日本など、経済成長性の異なるエリアに分散することで、どこかの市況が悪くても全滅しづらくなります。

(2)アセットクラスの分散
株だけでなく、債券、コモディティ、現金など値動きの違うものを組み合わせてポートフォリを形成していくことが重要です。「投資は一つのカゴに盛るな」という格言は有名ですが、値動きが違うものがあることで、一気に資産が減るようなリスクを減らすことができます。

(3)時間分散
市況が良い時・悪い時も買うことで平均値をとりながら価格変動リスクを分散することができます。先に説明したドルコスト平均法で積立投資をすることが時間分散投資になります。

長期・積立・分散を知っていてもできていない状態

このような、長期・積立・分散をしっかりと意識した投資ができると投資に対する不安が減り、多少の暴落が来てもリスクをさげて対応が可能になり、長期視点で投資を成功させやすくなります。

ご相談者さまの状態をみると、市況が比較的良い時に、現金と投資のバランスを崩してしまっていることがわかります。また、長期・積立・分散について、「知っているけどできていない」状態ではないでしょうか?

資産の状況をみると、貯金総額が43万円に対して、投資総額が516万円と、現金比率が約7.7%の状態です。毎月収入25万円から6万円が貯蓄できているので、生活費を19万円と考えると、生活防衛費は6倍の114万円。そのくらいのお金は手元におくことを考えていただければと思います。

また、パソコンやスマートフォンを購入したり、旅行に行ったり、引っ越しをする費用など大きな金額の特別費が発生すると思いますので、その分も生活防衛費とは別に現金で貯めて置けると良いでしょう。

生活防衛費を確保してからやるべきこと

まずは生活防衛費分を現金で確保しましょう。そして運用資産も利益がでているようであれば一部を売却しても良いでしょう。ただし、NISAやつみたてNISAなどの税制優遇枠を利用している場合は、売却によって非課税で運用出来る年数を少なくしてしまうのはもったいないので、毎月投資に回す金額を減らして現金貯蓄と投資のバランスをコントロールしていくと良いでしょう。

投資は、資産が増加しているときは強気になって「もっと投資したい」と、現金比率が少なくなりがちです。そして現金比率が少ないと、日々の生活で必要な支出や、万が一の時に必要な支出の対応ができず、運用資産を売却せざるを得なくなることがあります。市況が下がっているタイミングで損切りをしなければならないので、そうならないよう冷静に自分の中で投資のルールを持ちましょう。そして、長期・積立・分散を意識することと、現金を一定量しっかりと持って心とお金をコントロール出来ると安心して長期投資を成功させられると思います。

どこか参考になれば幸いです。

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