打者はオリ首位の原動力・杉本、投手は2人の右腕が競る セイバー流で選ぶ9月のパMVP

オリックス・杉本裕太郎(左)とソフトバンク・千賀滉大【写真:荒川祐史】

オリックスが7連勝で首位に浮上、2位ロッテと1.5差

パ・リーグの優勝争いが面白くなってきた。オリックスが怒涛の7連勝を飾り一気に首位に立ち、ロッテとのゲーム差は1.5に広げた。昨季の王者ソフトバンクは現在4位で3位の楽天まで3ゲーム差と苦しい状況が続いている。そんな混戦のパ・リーグのなかで9月に活躍した選手をデータで探り出し、「月間MVP」をセイバーメトリクスの指標で選出してみる。

まずは9月のパ・リーグ6球団の月間成績を振り返る。

ロッテ 12勝9敗3分
打率.210 OPS.615 本塁打14 援護率3.97
先発防御率3.24 QS率50.0% 救援防御率2.93

ソフトバンク 11勝9敗2分
打率.255 OPS.746 本塁打28 援護率5.46
先発防御率2.92 QS率45.5% 救援防御率3.67

オリックス 11勝11敗3分
打率.244 OPS.691 本塁打26 援護率2.90
先発防御率4.36 QS率41.7% 救援防御率3.50

楽天 11勝11敗1分
打率.257 OPS.710 本塁打14 援護率4.12
先発防御率3.17 QS率47.8% 救援防御率2.76

西武 10勝12敗1分
打率.240 OPS.660 本塁打17 援護率3.86
先発防御率6.56 QS率21.7% 救援防御率2.20

日本ハム 9勝12敗4分
打率.233 OPS.627 本塁打12 援護率4.20
先発防御率3.83 QS率48.0% 救援防御率2.13

優勝を争う4チームはすべて月間で勝率5割以上をキープ。月間1位のロッテの打撃成績を見ると、チーム打率.210、OPS.615とかなり厳しい状態に。やはり主砲マーティンの離脱はロッテ攻撃陣に大打撃を与えている。そんな中でも月間で3つの貯金を作った首脳陣の采配はお見事。またオリックスも吉田正尚が怪我により登録を抹消。首位打者かつチーム随一の貢献度を誇る主軸の離脱を杉本裕太郎をはじめとする他の攻撃陣がどこまでカバーできるかが鍵となるだろう。

オリ杉本は「wRAA」でトップの12.05

10月6日に公式の月間MVPが発表される予定だが、ここではセイバーメトリクスの指標による9月の月間MVPの選出を試みる。選出基準は打者の場合、得点圏打率や猛打賞回数なども加味されるが、基本はNPB公式記録が用いられる。ただ、打点や勝利数といった公式記録は、セイバーメトリクスでは個人の能力を如実に反映する指標と扱わない。そのため、セイバーメトリクス的にどれだけ個人の選手がチームに貢献したかを示す指標で選べば、公式に発表されるMVPとは異なる選手が選ばれることもある。

【打者部門】
打者評価として、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」を用いる。

各チームのwRAA上位3人は以下の通り。

ソフトバンク 柳田悠岐11.92 デスパイネ10.10 甲斐拓也2.90
ロッテ レアード5.72 荻野貴司5.11 マーティン 3.24
西武 森友哉6.32 中村剛也1.65 呉念庭1.60
楽天 島内宏明8.15 茂木栄五郎6.05 岡島豪郎2.36
日本ハム 西川遥輝5.28 近藤健介4.78 石井一成2.59
オリックス 杉本裕太郎12.05 吉田正尚6.05 宗佑磨3.93

9月のパ・リーグで月間OPSが1を超えたのは柳田、デスパイネ、杉本の3人である。

柳田悠岐 OPS1.064 打率.358 本塁打4
杉本裕太郎 OPS1.025 打率.318 本塁打7
デスパイネ OPS1.017 打率.347 本塁打4

3人の打撃成績を比較しても杉本は打率は2人に比べて劣るが、本塁打が多く、塁打数53はリーグ1位である。また、平均的な打者が同じ打席数に立ったと仮定した場合よりも、どれだけその選手が得点を増やしたかを示す「wRAA」で比較すると、杉本がリーグ1位の値を示した。オリックスの主軸である吉田正尚が抜けた打線の核としてオリックス首位争いを牽引する杉本をセイバーメトリクスによる9月の月間MVPに推す。

オリ山本は4勝0敗、防御率0.90、ホークス千賀は4勝1敗、防御率1.98も…

【投手部門】
投手評価には、平均的な投手に比べてどれだけ失点を防いだかを示す「RSAA」を用いる。ここでのRSAAは「tRA」ベースで算出。tRAとは、被本塁打、与四死球、奪三振に加え、投手が打たれたゴロ、ライナー、内野フライ、外野フライの本数も集計しており、チームの守備能力と切り離した投手個人の失点率を推定する指標となっている。

各チームのRSAA上位3人は以下の通り。

ソフトバンク 千賀滉大9.52 マルティネス3.28 松本裕樹2.00
ロッテ 佐々木朗希2.41 小島和哉2.22 益田直也1.51
西武 武隈祥太2.69 平良海馬2.27 今井達也1.07
楽天 瀧中瞭太2.36 岸孝之2.09 ブセニッツ1.91
日本ハム 伊藤大海4.68 バーヘイゲン2.43 宮西尚生3.28
オリックス 山本由伸7.35 田嶋大樹3.15 比嘉幹貴1.27

今月は山本由伸と千賀滉大が月間4勝、マルティネスと瀧中瞭太が防御率0点台となっており、公式の月間MVPの有力候補となっている。この4投手の成績を見てみると、

千賀滉大
登板5 QS5回 HQS3回 4勝1敗 防御率1.98 WHIP0.94
被OPS.478 奪三振率10.40 K/BB5.25

山本由伸
登板4 QS4回 HQS3回 4勝0敗 防御率0.90 WHIP0.90
被OPS0.445 奪三振率10.20 K/BB3.40

マルティネス
登板5 QS5回 HQS3回 2勝0敗 防御率0.55 WHIP0.97
被OPS0.456 奪三振率7.91 K/BB2.23

瀧中瞭太
登板4 QS3回 HQS1回 3勝0敗 防御率0.74 WHIP0.95
被OPS0.531 奪三振率5.92 K/BB2.67

となっている。その中で千賀のRSAAが1位となったのだが、その要因は奪三振の多さ(42はダントツ)、四死球の少なさ、ゴロ率、内野フライの多さにある。

千賀滉大 ゴロ率51.6% 内野フライ率9.9%
山本由伸 ゴロ率50.0% 内野フライ率10.0%
マルティネス ゴロ率46.5% 内野フライ率11.6%
瀧中瞭太 ゴロ率36.5% 内野フライ率12.2%

中5日登板が3回あったにもかかわらず全ての試合でQSを達成するなどチームへの多大な貢献を鑑みて、9月のセイバーメトリクスの指標による月間MVPに千賀滉大を推す。鳥越規央 プロフィール
統計学者/江戸川大学客員教授
「セイバーメトリクス」(※野球等において、選手データを統計学的見地から客観的に分析し、評価や戦略を立てる際に活用する分析方法)の日本での第一人者。野球の他にも、サッカー、ゴルフなどスポーツ統計学全般の研究を行なっている。また、テレビ・ラジオ番組の監修などエンターテインメント業界でも活躍。JAPAN MENSAの会員。一般社団法人日本セイバーメトリクス協会会長。

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