最速114キロ、天才女子小学生を育てた父の奮闘「1球受ければ調子がわかる」

114キロを投げる女子小学生の濱嶋葵さん【写真:川村虎大】

濱嶋葵さんの父・翼さん「今頑張っていることを応援したい」

小学6年生にして最速114キロを誇る濱嶋葵さんは、年末の「NPB12球団ジュニアトーナメント2021」に出場するジャイアンツジュニアに女子で史上初めて選出された逸材だ。ダイナミックなフォームから、ノビのある直球を投げ込む姿は周囲を圧倒する。天才少女はいかにして成長を遂げてきたのか。そこには父・翼さんとの親子二人三脚による練習漬けの日々があった。【川村虎大】

「1球受ければ、やる気があるのかないのか、調子がすぐにわかりますね」と、自信に満ちた口調で翼さんは話す。4歳の頃から葵さんのボールを受け始め、1年生で地元の軟式野球チームに入り本格的に野球を始めた後も、平日は近所の公園で練習する日々を過ごしている。定期的に夜勤のある仕事で多忙なため、練習は夜勤の前後や休みの日だけ。取材した日も、夜勤明けで睡眠時間はわずか1時間だった。

翼さん自身に、部活動に所属した経験はない。小学3年生の頃、転校と同時に所属していた少年野球チームを辞め、中学、高校では野球部に入らなかった。それでも、好きな気持ちは変わらない。18歳頃に草野球を始めると、一時は4チームを掛け持ちするなど“野球漬け”の日々を送った。そんな父の姿を見て、葵さんも自然と野球に興味を持つようになった。

葵さんが1年生でチームに入った時、最初に課したのは「6年間やり続けること」だった。その目標が大きく発展したのは、「女子プロ野球選手になりたい」という一言だ。

女子プロ野球は現在、事実上の解散状態にある。それでも「プロを目指す」と愛娘が口にした以上、応援するのが親の役目だと感じた。「先が見えないというのはありますけど、とりあえず今、葵が頑張っていることを応援したいというのがありますね」。葵さんに「やるからには人の2倍、3倍以上練習しないといけないよ」と言い聞かせ、厳しい練習をスタートさせた。

濱嶋葵さんの父・翼さん【写真:川村虎大】

体験練習で感じた中学生との差、下半身の強化に着手

まず始めたのは、自分自身の勉強だ。YouTubeやインスタグラムなどを通して得た知識をもとに練習メニューを作成。インスタグラムでは、交流の中から成長へのヒントを得ようと努めてきた。フォロワーは現在、8000人を超える。

苦手なプレーや、チームでの練習を反復するなど、葵さんの成長に合わせてメニューを組んでいった。そんな中、トレーニングを変えるきっかけになる出来事があった。中学生の女子軟式野球チームの練習に参加した時だ。

当時4年生だった葵さんは、レベルを知るために飛び込みで練習を体験した。そのチームは、午前9時から午後4時までの練習を終えると、最後の1時間をランニングやフィジカルトレーニングに費やしていた。

体力や筋力の“差”は顕著で、葵さんはその時初めて筋肉痛になったという。「このまま中学校に入ると絶対に遅れをとってしまう」と感じた翼さんは、すぐに葵さんの下半身強化に着手。走り込みや、3キロのメディシンボールで毎日100回のスクワットをノルマとした。他にも最近ではチューブを用いたトレーニングを取り入れている。

114キロを投げる女子小学生の濱嶋葵さん【写真:川村虎大】

「体が動くうちは力になりたい、やりたいことをやらせてあげたい」

結果はすぐに現れた。「打撃、投球ともに体がぶれなくなりました。投げた後に左足1本だけで立てるようになりましたし、体の軸がしっかりしてきたと思います」。球速は4年生で97キロ、6年生の現在は最速114キロを計測するまでに成長した。

睡眠時間を削り、野球用品にはお金を惜しまない。その理由を問うと「成長が本当に嬉しいんですよね」と笑顔で語る。2年生で投手を任された当初、葵さんは制球が定まらず、1死も取れずにマウンドを降りたことがあった。それが今では、チームのエースで4番。女子選手として、史上初めてジャイアンツジュニアに選ばれるまでに成長した。

娘が三振を奪う姿に「今まで助けてもらっていた先輩投手がピンチの時に、(葵さんが)マウンドを任されてビシッと抑えたとか、そういうエピソードを聞くのが嬉しい」と目を細める。

葵さんは将来、女子高校球界の強豪で、今夏初めて甲子園球場で実施された「全国高校女子硬式野球選手権」決勝を制した神戸弘陵高(兵庫)への進学を希望している。さらに、高卒でプロの女子野球選手となるのが目標だ。「体が動くうちは力になりたいです。(神戸)弘陵に行きたいなら寮に入れますし、やりたいことをやらせてあげたい」。父は夢に向かって邁進する娘を、これからも全力でサポートするつもりだ。(記事提供:First-Pitch編集部)

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