”シャギリ”の音、来秋こそ 長崎くんち 2年連続延期 技術向上へ稽古励む

長崎くんちの再開に向け、月1回の稽古に励む頭領の上戸さん(右端)や次男翼さん(左端)ら戸石班のメンバー=長崎市上戸石町

 諏訪の森には今年も、シャギリの音が響かない。新型コロナウイルス禍の影響で、2年連続で奉納踊りが延期となった諏訪神社(長崎市上西山町)の秋の大祭「長崎くんち」。主役となる踊町の傍らで、くんちに欠かせないシャギリの笛や太鼓を奏で続けてきた熟練のメンバーたちもまた、悔しさや寂しさ、そして「来年こそ」との決意を抱く。

■伝 統

 シャギリは、長崎くんちで踊町の行列が移動する際や傘鉾(かさぼこ)の奉納中、「モッテコーイ」の掛け声の時などに演奏されるはやし。笛や太鼓を基調とする「浮立」が伝わる東長崎地区の住民らが毎年担い、伝統を受け継ぐ。シャギリを聞くと血が騒ぐ-と表現する“長崎っ子”も少なくない。
 9月下旬の夜。同市上戸石町の山あいにある集会所に、甲高い笛と力強い太鼓の音が響いた。東長崎地区に6班あるシャギリ集団の一つ、「戸石班」のメンバーが月1回の稽古に臨んでいた。場を仕切るのは、4年前から頭領を務める上戸信幸さん(56)。父の家系は地元浮立の大太鼓を代々担い、母方の祖父は長崎くんちのシャギリを担当。幼い頃から笛や太鼓に慣れ親しみ、長崎くんちには約30年前から出演している。

■制 限

 だからこそ、出番のない2年間は「めりはりや季節が感じられず寂しい」と打ち明ける。例年は春先から自主練を始め、10月の本番に向け、全員で週1回ほどの音合わせを繰り返す。
 中でも、踊町の稽古始めとなる6月1日の「小屋入り」は、街を練り歩いて演奏を続ける過酷な1日。くんちの3日間も1回十数分は笛を吹きっぱなしで、ベテランでも耳がまひし、指がしびれるほど。上戸さんは稽古を積み重ね、本番で場数を踏むことで「技量や耐久力を上げてきた」との自負がある。
 一方で昨年からのコロナ禍で、集うことすら制限された。昨年の春から夏にかけ全員での稽古ができず、自主練のみ。昨秋以降、ようやく月に1回の合同稽古を再開できた。

■活 力

 シャギリの技量を磨くのは、くんちだけではない。東長崎地区の各組織を束ねる「長崎シャギリ組合保存会」(69人)の山田運三(うんざぶ)組合長(71)によると、同地区では結婚祝いや新築祝いの場でシャギリを演奏する習慣があるが、コロナ禍で軒並み中止に。「呼ばれて演奏するまでに何度も音合わせをして、くんち並みの緊張感があった。その機会もなく、技術の維持や継承に不安がある」と危機感を抱く。
 こうした中、上戸さんの次男翼さん(29)は技術や体力が落ちないよう、1人で笛を十数分吹き続ける「耐久練習」などに取り組む。「コロナ禍で2年間休みになった分、レベルを上げる期間になった」と手応えを感じている。
 翼さんは「シャギリを生きる活力と思ってくれる人もいる。来年に向け、自分たちは一生懸命に練習を重ねるだけ」と意欲を燃やす。より遠くまで響く音を-。来年の秋が待ち遠しい。

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