翔平ロス

 〈…グループ思考や協調性を重んじ、何事にも努力を求め、年長者を敬い、面子(めんつ)にこだわる日本人の生活観がこのスポーツに独特の性質をもたせるようになった〉▲日本の野球をこう書いた比較文化論の名著「菊とバット」(1977年)の著者、ロバート・ホワイティング氏は7月、エンゼルスの大谷翔平選手を絶賛して〈日本はついに米国と野球で目指していた場所に到達した。150年に及んだ魂の遍歴が終わる〉と記した▲故障と無縁で無事に二刀流を貫いた1年。打撃では本塁打46本、100打点、26盗塁、投げては9勝、156奪三振。オールスター戦ではリーグの先頭打者として登場し、裏の守りで先発のマウンドに。もちろん史上初▲打って、投げて、走って。ファンと笑顔で交流し、見つけたゴミは自然に拾って、四球攻めに遭っても相手の野手と笑い交わす。ウイルス禍に沈む社会に爽やかな風を吹かせた▲46号の弾丸ライナーが飛び込んだのは敵のファンで埋まった右翼席。「そんなボール、グラウンドに投げ返せ」と声が上がった。でもホームランボールをゲットした40歳の男性は聞こえないふりだ。「家宝に決まってるだろ」▲シーズン閉幕。今日は打ったかな…楽しみが減った。間違いなく相当な人数が今、深刻な喪失感と戦っている。(智)


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