衆院選 長崎県内「世襲」候補は4人 批判受け止め、メリット生かす

 19日公示の衆院選。長崎県内4選挙区で出馬を準備している11人のうち現職1人、新人3人の計4人は父や祖父が国会議員という「世襲」候補だ。世襲は幅広い人材の参入を妨げるとも言われ、各陣営は批判を受け止めつつ、メリットを生かした前哨戦を展開している。
 9月5日、長崎市内であった自民党県連の選挙対策委員会。引退を表明した衆院議員加藤寛治(75)=長崎2区、3期目=の後任候補の選出方法について議論が交わされた。県連執行部は公募方針だったが、加藤の支持者からは「話し合い」で長男竜祥(41)に決めるよう求める意見が強まっていた。
 そんな中、大村市で「松本党」と呼ばれる祖父の代からの根強い支持基盤がある県議、松本洋介(45)は「党員や県民の理解と応援をいただけるよう、公募が望ましい」と訴えた。
 松本には苦い経験がある。2015年11月、通算6期市長を務めた父崇の死去に伴い、県議を辞職し市長選に出馬。だが世襲批判にもさらされ、現市長の園田裕史(44)との一騎打ちに敗れた。松本は「身内は世襲を悪く言わないが、世間の受け止めは違う。県連の選対では、しっかりと後任候補選出のプロセスを示す必要がある、と言いたかった」と振り返る。
 政治家が歳月をかけて築いた地盤(支援組織)、看板(知名度)、かばん(資金)の「3バン」は、いわば「財産」。それを子や孫に引き継ごうとすると、有権者には既得権益を守ろうとしていると映り、批判を浴びる。
 長崎2区の後任候補は公募で竜祥が選ばれたが、選考委員は県議ら父寛治の支持者が中心だったため、県連内には事前に「他の応募者は選ばれない」との指摘があった。竜祥も世間の反応を意識してか、「世襲は事実なので批判は真摯(しんし)に受け止めたい」とだけ述べ、多くを語らない。
 「だが地盤も看板もない新人が一から名前を覚えてもらうのは大変」。こう話すのは長崎1区で出馬予定の国民民主党現職、西岡秀子(57)の後援会関係者。西岡の父は参院議長を務めた武夫、祖父は元知事の竹次郎。今月2日、長崎市中心部で西岡が街頭演説する際、開始30分ほど前から古参の支援者が続々と集まってきた。後援会関係者は「2世、3世の政治家には、先代の支援者やその子どもが『お世話になったから』と票を入れてくれる」と言う。
 長崎3区で自民現職の谷川弥一(80)=6期目=に挑む立憲民主党新人の山田勝彦(42)も、かつて谷川としのぎを削った父で元農相の正彦の知名度を活用する。親子が写った立て看板を置いて街頭に立ったり、動画投稿サイト「ユーチューブ」で父の人となりを紹介したり。後援会関係者は「まだ正彦の支持者も一定いるため、力を借りることは必要だろう」と話す。
 一方、長崎1区の自民新人、初村滝一郎(42)は祖父が元参院議員、父も元衆院議員だが、地元は2区内の諫早市。しかも父が政界を引退して25年になる。陣営によると、父の支援組織がかつてあったが、当時のメンバーは高齢化し人数も少ないという。「初村はいわゆる『世襲』には当たらない」と地元県議。県議や市議が知名度アップにフル回転している。
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