後継者難倒産が9年間で最多の181件、事業承継が急務に【2021年度上半期】

 2021年度上半期(4-9月)の『後継者難』の倒産は181件(前年同期比4.6%増)で、2年連続で前年同期を上回った。年度上半期では2020年同期の173件を上回り、2013年以降の9年間で最多を記録した。また、倒産全体(2,937件)に占める構成比は6.1%で、前年同期(4.4%)を1.7ポイント上回り、年度上半期で最高となった。
 産業別は、建設業(前年同期36件)とサービス業他(同31件)が38件で最も多かった。次いで、卸売業30件(同30件)、製造業29件(同26件)と続く。
 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)が96件(前年同期比3.2%増)で、構成比は53.0%と半数以上を占めた。
 負債額別では、1億円未満が128件(同2.4%増)で、7割(構成比70.7%)を占めた。1億円以上5億円未満(43→45件)、5億円以上10億円未満(2→5件)も増加し、小・零細企業だけでなく、中堅規模でも事業承継の問題が深刻となりつつある。
 『後継者難』倒産の181件のうち、「死亡」は100件(構成比55.2%)と、年度上半期で初めて100件に乗せた。また、「体調不良」は52件(同28.7%)で、この2要因で『後継者難』倒産の8割以上(同83.9%)に達した。多くの中小企業は、代表者が経営全般を担っており、代表者が不測の事態に直面した場合、事業の存続が難しい。業績回復が遅れた企業ほど、後継者育成が先送りされ、代表者の高齢化も顕著だけに、事業承継問題も経営課題の一つとなっている。

  • ※本調査は「人手不足」関連倒産(後継者難・求人難・従業員退職・人件費高騰)から、2021年度上半期(4-9月)の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)を抽出し、分析した。

『後継者難』倒産181件、倒産全体の6.1%を占める

 2021年度上半期の『後継者難』倒産は181件(前年同期比4.6%増、前年同期173件)で、2年連続で前年同期を上回った。負債1,000万円以上の倒産(2021年度上半期2,937件)はコロナ禍の資金繰り支援策により低水準で推移しているが、『後継者難』倒産は全体の6.1%(前年同期4.4%)と、1.7ポイント上昇した。
 ここ数年の金融機関の貸出審査は、財務内容に基づくスコアリングから、事業の将来性などを判断材料とした「事業性評価」に移行している。そのため、事業の持続性を見る上で、後継者の有無も重要な判断材料となっている。
 代表者が、経理や営業など経営全般を担っている中小企業は多い。コロナ禍で業績回復も遅れ、後継者育成や事業承継への準備まで手が回っていない。代表者の高齢化は深刻で、事業へのリスクが高まっている。中小企業の後継者不足は、個別企業の問題だけでなく、地域経済の衰退を招く恐れもあり、外部の協力も必要になっている。

後継者難

【要因別】「死亡」と「体調不良」で8割

 『後継者難』倒産の要因別の最多は、代表者などの「死亡」の100件(前年同期比28.2%増、前年同期78件)。2年連続で前年同期を上回り、調査を開始した2013年以降、年度上半期では初めて100件に乗せ、最多件数を更新した。
 『後継者難』倒産に占める構成比は55.2%で、前年同期(45.0%)より10.2ポイント上昇した。構成比が50%台は、2019年同期(55.6%)以来、2年ぶり。
 また、「体調不良」は52件(前年同期比18.7%減、構成比28.7%)で、2年ぶりに減少した。
 「高齢」は19件(同11.7%増、同10.4%)で、3年連続で前年同期を上回り、最多件数を更新した。
 代表者などの「死亡」と「体調不良」は合計152件(前年同期比7.0%増、前年同期142件)で、2年連続で前年同期を上回った。
 『後継者難』倒産に占める構成比は83.9%(前年同期82.0%)と、前年同期より1.9ポイント上昇した。

後継者難

【産業別】10産業のうち、4産業で増加

 産業別では、10産業のうち、増加が4産業、減少は4産業、2産業が前年同期と同件数だった。
 最多は、建設業(前年同期比5.5%増)とサービス業他(同22.5%増)の38件。
 建設業は2年連続で前年同期を上回り、建築工事業(9→10件)、木造建築工事業(2→5件)、内装工事業(4→5件)などで増加した。
 サービス業他は2年ぶりに増加し、最多件数を記録した。建築設計業と美容業が各4件(前年同期ゼロ)、広告業と旅行業、歯科診療所が各2件(同ゼロ)などで増加した。
 そのほか、製造業29件(同26件)が2年連続、不動産業13件(同7件)が2年ぶりに、それぞれ前年同期を上回った。不動産業は、調査を開始した2013年以降で、年度上半期では初めて10件以上となった。
 一方、減少は、農・林・漁・鉱業2件(同4件)と小売業22件(同26件)が3年ぶり、運輸業5件(同7件)と情報通信業4件(同6件)が2年ぶりに、それぞれ減少した。
 卸売業は前年同期と同件数の30件。
 金融・保険業は2018年同期以降、発生がない。

後継者難

【形態別】破産の構成比が初めて90%台に

 形態別では、最多が「破産」の164件(前年同期比6.4%増、前年同期154件)で、『後継者難』倒産に占める構成比は90.6%(前年同期89.0%)で、調査を開始した2013年以降、年度上半期では初めて90%台になった。「特別清算」は9件(前年同期比125.0%増、前年同期4件)。
 「破産」と「特別清算」は合計173件(前年同期比9.4%増)で、構成比は95.5%(前年同期91.3%)に達し、『後継者難』倒産はほとんどが消滅型の倒産だった。
 一方、再建型の民事再生法は1件で、2年ぶりに発生。会社更生法は、調査を開始した2013年以降、年度上半期では発生がない。

【資本金別】1千万円未満が半数以上

 資本金別では、1千万円未満(個人企業他を含む)が96件(前年同期比3.2%増、前年同期93件)。『後継者難』倒産に占める構成比は53.0%(前年同期53.7%)と、5割を超えた。
 一方、1億円以上は前年同期と同件数の1件だった。

【負債額別】中堅規模での増加が目立つ

 負債額別では、1億円未満が128件(前年同期比2.4%増、前年同期125件)。『後継者難』倒産に占める構成比は70.7%(前年同期72.2%)で、小規模倒産を主体とした推移が続いている。
 ただ、1億円以上5億円未満は45件(前年同期比4.6%増、前年同期43件)で2年連続、5億円以上10億円未満は5件(前年同期2件)4年ぶりに、それぞれ増加した。小・零細企業だけでなく、中堅企業でも事業承継の問題が深刻になりつつある。

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