宿敵ジロラミは予選トラブルに沈む。曲芸“1Day”参戦のアズコナが2度目の王者に/TCRヨーロッパ最終戦

 2021年の天王山を迎えたTCRヨーロッパ・シリーズ最終戦が10月8~10日にスペインのバルセロナで開催され、WTCR世界ツーリングカー・カップとのバッティングにより“土曜ぶっつけ本番”の強行軍を強いられたボルケーノ・モータースポーツのミケル・アズコナ(クプラ・レオン・コンペティションTCR)が、ポールポジション獲得からレース1で“ライト・トゥ・フラッグ”を決め、見事2018年以来自身2度目のドライバーズチャンピオン獲得を決めている。

 第6戦となった高速トラックのイタリア・モンツァでは、タイトルを争う宿敵フランコ・ジロラミ(FK8ホンダ・シビック・タイプR TCR/PSSレーシング)のドライビングに対し「このスポーツの理念や規制に違反しており、共有することはできない」と、そのシビアなディフェンス行為に厳しい言葉を投げかけていたアズコナ。

 そんな因縁の対決に決着をつけるべく望んだ舞台は地元のスペインとなったものの、チェコ共和国で開催されるWTCRの第5戦と日程重複となったことで、金曜プラクティス欠席というビハインドを背負い込むこととなった。

 しかし、そのWTCRでもキャリア初ポールポジションを確保し、意気揚々と乗り込んできたアズコナは、TCRヨーロッパ最終ラウンドの予選でも堂々たる速さを披露。

 グリーンフラッグ前には瞬間にトラック上に雨が降り注いだにもかかわらず、トラック制限違反をものともせず、スリックタイヤ装着のままQ2で最速タイムを記録し、前日2度の公式練習で最速をシェアしていたサミ・タウフィクやニールス・ラングフェルド(ヒュンダイ・エラントラN TCR/セバスチャン・ローブ・レーシング)らも退け、最前列を確保する結果となった。

「タイトルを獲得にはポイント加算が重要であることを知っているから、クールに取り組んで、クレイジーなことは何もしなかったよ」と余裕のコメントを残したアズコナ。

 一方、悲運が降りかかったのはアルゼンチン出身の挑戦者ジロラミの方で、予選Q1の段階でWTCRレギュラーの兄と同じモデルをドライブする弟は、ウォーターポンプに問題を抱えるというまさかの事態で競争力あるタイムを刻むことなくセッションを終えることとなった。

WTCR同様、ポールポジションを獲得したミケル・アズコナ(CUPRA Leon Competición TCR)
予選でウォーターポンプに問題を抱えるというまさかの事態で、苦戦を強いられたフランコ・ジロラミ(FK8ホンダ・シビック・タイプR TCR/PSS Racing)
レース1では3位表彰台、日曜のレース2でも4位を得たサミ・タウフィク(ヒュンダイ・エラントラN TCR/Sebastien Loeb Racing)

■「今はひとつ肩の荷が降りたような気分」と新チャンピオンのアズコナ

 そのまま土曜15時40分にスタートを迎えたレース1は、アズコナの背後でタウフィクのヒュンダイを仕留めた予選3番手のテディ・クレーレ(プジョー308 TCR/チーム・クレーレ・スポーツ)が2番手に浮上したものの、アズコナはクリーンにターン1へと向かいホールショット。

 さらに背後では、フェリーチェ・ジェルミニ(ヒュンダイ・エラントラN TCR/セバスチャン・ローブ・レーシング)が“遠征組”トム・コロネル(アウディRS3 LMS/コムトゥユー・レーシング)に追突し、もう1台がグラベルに捕まったため、ここでセーフティカーが導入される。

 トラブル車両の回収に5周を費やし、14周まで延長されたレースが再開されると、上位勢に大きなポジション変動が起こることなくチェッカーフラッグに。テディのプジョーとタウフィクのヒュンダイを従えたアズコナが、地元で自身2度目のシリーズチャンピオン獲得を決めてみせた。

「とてもとても幸せな気分だ。レースは最初のうちテディが激しくプッシュしてきたけど、終始快適にドライブすることができたよ」と、パルクフェルメで喜びを爆発させたアズコナ。

「ミスをしないように、縁石を越えないように、技術的な失敗を避けるように集中し続けた結果、落ち着いて勝利を収めることができた。勝つ必要がなく10位フィニッシュでOKだったけれど、静かなレースを勝利で飾ることができた。今はひとつ肩の荷が降りたような気分だ」と、2018年の初タイトル時には未勝利での戴冠だった新チャンピオン。

 一方、後方グリッドから巻き返しを期したジロラミは、15番グリッドまで挽回したところで接触を喫する結果に。タイトル挑戦の夢は実質的に予選トラブル時点で散っていたものの「今季と今週末の自分の仕事を誇りに思う」と、ランキング2位でシーズンを終えている。

 そしてチャンピオンがチェコ共和国へと戻った日曜レース2には、このレースからボルケーノ・モータースポーツに移籍し、アズコナの僚友としてクプラ・レオン・コンペティションTCRにスイッチした『FIA Motorsport Games(モータースポーツ・ゲームス)』初代TCR王者、ロシア出身のクリム・ガブリロフがシリーズ初勝利を飾っている。

「チェコ共和国でのポールに続き、ここでのポールと勝利、そしてタイトル……最高の気分だ」と新王者アズコナ
レース2では、VRC-TeamのアウディRS3 LMSからVolcano Motorsport(ボルケーノ・モータースポーツ)に移籍したクリム・ガブリロフがシリーズ初勝利を飾っている

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