【えほんのとびら】 No.222「セント・キルダの子」

岩波書店
文・絵:ベス・ウォーターズ
訳:原田 勝

 スコットランド西岸から160キロ以上沖にヒルタ島という小さな島があります。木が全く育たないほどの強風にさらされた島ですが、それでも四千年以上前から人が住んでいたといわれています。

 ノーマン・ジョンは一九二五年にこの島で生まれた実在の人物です。当時、島には16組の家族しかいませんでしたが、おとなも子どもも力を合わせて生活し、その中で彼は、幸せな子ども時代を過ごしました。

 しかし年々離島する人が増え、これ以上島で暮らしていくのは無理だと判断した島民は、全員がイギリスへの移住を決めました。ノーマンが5才のときのことです。無人の島に向かって別れの手をふるおとなたちの姿は、記憶に残るもっとも悲しい光景として彼の心に焼きつけられました。

 島の生活はノーマンにとって生涯大切な思い出で、子や孫にくり返し語って聞かせたそうです。

 この本は、作者がノーマンの子どもから直接聞いた話と、島への取材をもとに作られました。あたたかみのある版画から、ノーマンのそして作者の、この島への愛情が伝わってきます。

(ぶどうの木代表 中村 佳恵)

© 株式会社サンデー山口