介護疲れで夫殺害…73歳妻に異例の実刑破棄 高裁那覇支部「量刑不当」執行猶予5年に

 長年介護をした夫=当時(76)=と無理心中しようとし、沖縄県南風原町の自宅で首を絞めて窒息死させたとして殺人の罪に問われた女性被告(73)の控訴審で、福岡高裁那覇支部は14日、懲役2年6月の実刑判決とした一審那覇地裁判決を破棄し、懲役3年、執行猶予5年を言い渡した。谷口豊裁判長は「一審判決の量刑判断は不当だ」と述べた。

 弁護人の釜井景介弁護士によると、一審判決後に量刑に影響を及ぼすような事情が生じたわけではないケースで、控訴審で執行猶予が付けられるのは全国的にも珍しい。

 判決理由で谷口裁判長は、同種事案の量刑傾向として一審判決が参考にした過去の量刑データの検索条件が「殺人、単独犯、心中または介護疲れ」で、介護疲れに比べて同情の余地が乏しい事案も相当含まれていると指摘。介護疲れで、心中が動機に含まれる事案に限定すると、5割に執行猶予が付いているとした。

 2003年ごろから17年間にわたり夫の介護に当たっていたことにも言及。夫は18年12月には要介護4に認定され、認知症が進み、日常生活全般に介助が必要となったとし「被告が介護の負担に相当追い詰められていたことは明らかだ」と述べた。被告がうつ状態から自殺を考えるようになり、周囲に積極的に相談せずに「夫を残せば子どもたちの迷惑になる」と無理心中を図った点について「ことさら強く責めることはできない」とした。

 判決後、釜井弁護士は「一審判決後の新たな事情がないので、執行猶予のハードルは高いと思っていた。非常にほっとしている」と述べた。福岡高検那覇支部の平光信隆支部長は「判決内容を十分に検討した上、適切に対応したい」とコメントした。

© 株式会社琉球新報社