週末はベルネイ制覇も、悲劇から復活のエクストロームが初代“キング・オブ・ザ・シーズン”に/ETCR最終戦

 第4戦ハンガロリンクに続き、WTCR世界ツーリングカー・カップとの併催で争われた電動ツーリングカー選手権『PURE ETCR(ピュアETCR)』の初年度シーズン最終戦、ポー-アルノー“E-サーキット”での1戦は、地元フランス出身のジャン-カール・ベルネイ(ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCR/ヒュンダイ・モータースポーツN)が週末を制し“キング・オブ・ザ・ウイークエンド”を獲得したものの、ランキング首位で臨んだマティアス・エクストローム(セアト・クプラ e-Racer/ゼングー・モータースポーツXクプラ)が優位を守り抜き、見事に初代ピュアETCR“キング・オブ・ザ・シーズン”の称号を獲得している。

 今季が初年度の“シーズン1”としてスタートが切られた、TCR規定をベースとした世界初の電動ツーリングカー選手権は、後輪を駆動する各陣営2台のマシンを組み分けされた4名のドライバーでシェアし、A、Bの各プールから3台ずつのバトルであるラウンド1、直接対決のラウンド2、そして1台でのタイムアタックを経て、日曜6台で争うスーパーファイナルのグリッドが確定する独自フォーマットで争われる。

 前戦に続きこの週末もWTCRとの併催となった1戦は、初日プラクティスこそオリバー・ウェブ、フィリップ・エング(アルファロメオ・ジュリアETCR/ロメオ・フェラーリ-M1RA)のアルファ勢が最速をマークしたものの、プールAのラウンド1ではミケル・アズコナ(セアト・クプラ e-Racer)とアウグスト・ファルファス(ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCR/ヒュンダイ・モータースポーツN)が、プールBではエクストロームとその僚友ジョルディ・ジェネ(セアト・クプラ e-Racer)が、それぞれ4ラップのバトルで勝利を得るなど、この時点でクプラvsヒュンダイの構図が見える展開となった。

 このうち、同ラウンドに5名のタイトル候補の一角として臨んだ地元ベルネイは、オープニングこそエクストロームの後塵を拝したものの、ホームでもある起伏に富んだポー-アルノーの地の利も活かし、土曜の朝にはTCRサウスアメリカで選手権首位に立つロドリゴ・バプティスタ(アルファロメオ・ジュリアETCR/ロメオ・フェラーリ-M1RA)を撃破。順当にチャンピオン獲得の権利を持ったまま日曜スーパーファイナルへと駒を進めることになった。

 一方、ここで敗れたバプティスタと、もうひとりのタイトル候補だったジェネは、最初の2ラウンドを終えた時点で惜しくも初代王者の権利を失う結果に。これにより“3ウェイ・ファイト”と化した争いに向け、唯一のプールAで奮闘したアズコナも、ラウンド1と2の勝利で週末獲得ポイントこそ中間リザルトでライバルたちに並ぶ戦果としたが、土曜最後のタイムトライアルではターン3でワイドになりグラベルを駆け抜ける失態を犯し、日曜スーパーファイナルは5番手スタートという厳しい条件となった。

「タイムトライアルラップの早い段階でをミスしたから、最後のふたつのセクターでさらに強くプッシュしたが、失われた時間を埋め合わせることができなかった」と、常時300kW(約408PS)設定に抑えられている後輪駆動電動マシンのパフォーマンスを、唯一最大500kW(約680PS)に解き放つセッションで合わせ込みきれなかった難しさを吐露するアズコナ。

「でもクルマの感触は良いし、ドライブは楽しい。5番手発進でも500kWを最長40秒間の“ブースト”として利用可能な規定を活用すれば、イン側4番グリッドより(レコードライン上の5番グリッドの方が)ましだと思う。多分、序盤にブーストを多用して、残りは賢く戦う必要がある。そして何より(マシンをプールBでシェアする)マティアスのために、壊さずに返さないとね!」

起伏に富んだポー-アルノーのトラック。初日プラクティスではアルファロメオ・ジュリアETCR/Romeo Ferraris-M1RA勢が最速をマークする
プールAのラウンド1ではミケル・アズコナ(セアト・クプラ e-Racer)とアウグスト・ファルファス(ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCR/Hyundai Motorsport N)が勝利
初日の結果により、初代王者争いはジャン-カール・ベルネイ(ヒュンダイ・ヴェロスターN ETCR/Hyundai Motorsport N)、マティアス・エクストローム(セアト・クプラ e-Racer/Zengő Motorsport X CUPRA)、そしてアズコナの3名で争われることに

■ファイナルでまさかの窮地に陥ったエクストローム

 明けた日曜スーパーファイナルAで挽回を狙ったアズコナだったが、7ラップの短期決戦では首位にチャレンジする状況まで持っていくことは叶わず。ヒュンダイのファルファスがトップチェッカーを受け、2位ルカ・フィリピ(アルファロメオ・ジュリアETCR/ロメオ・フェラーリ-M1RA)に続き、アズコナは3位でフィニッシュラインへ。

 これでベルネイとの直接対決の舞台が整ったスーパーファイナルB“ポールシッター”のエクストロームは、ドライバーズタイトルを確保するためには「トップ5でフィニッシュすればOK」という俄然有利な状況でスタートを迎えた。

 しかしフロントロウに並んだエングのアルファとサイド・バイ・サイドで超高速ダウンヒルのターン1に向かったエクストロームは、アルファのフロントに接触してトラックを横切り、幾度もスピンを喫するするまさかのアクシデントに見舞われてしまう。

 なんとかコントロールを尽くしてマシンの姿勢を立て直し、どこにもヒットすることなく奇跡的にトラック復帰を果たしたエクストロームだったが、彼のe-Racerはパンクとフロアの損傷に苦しみ、修復のためピットに戻ることを余儀なくされ、タイトル獲得へのタスク達成は不可能に思われた。

 左リヤを交換してラップダウンの最下位6番手でコース復帰を果たしたエクストロームだが、ここで接触の相手だったエングのアルファロメオもリタイアを選択したことから、フィニッシュさえすれば自動的に5位以上とタイトル獲得条件が転がり込む展開となり、エクストロームはたった4ポイント差で見事、電動ツーリングカーの初代タイトルを手にすることとなった。

「勝負の前から5位でタイトル獲得が可能だと分かっていたが、5位でフィニッシュする理由が見当たらないから、できる限りレースをするつもりだった」と明かした初代キング・オブ・ザ・シーズンのエクストローム。

「最初のコーナーで競り合ったエングは、その素晴らしい才能を披露してターンインまでに僕を『抜けない』と判断し、わずかに引いてくれていたが、バックオフが充分でなく右後輪にノーズが軽くヒットした。フィリップがそうするとは思っていなかったし、彼には理由があると確信している」と“まさか”の窮地を説明したエクストローム。

「その後もチームは非常に良い情報を与えてくれ、自分がどのペースで走らなければならないか把握できた。ハンドルが真っ直ぐでなく、右前のタイヤがリムから外れていたせいで大きな振動があって本当にドキドキした(笑)。でも自分が開発に携わったクルマで成し遂げた成果に心から満足しているよ」

 その前方ではベルネイが僚友のトム・チルトンを従えて勝利し、ヒュンダイはプールAのファルファスと合わせて初の1-2と両プール勝利の週末完全制覇を達成。ランキングでも2位にベルネイ、3位アズコナの最終結果となった。

 これで初年度の全日程を終えた電動ツーリングカー選手権ピュアETCRは、来季2022年から『FIA eTouring Car World Cup(eツーリングカー・ワールドカップ)』へと進化し、2年目のシーズンを迎える。

週末を通じてエクストロームとのバトルを繰り広げたフィリップ・エング(アルファロメオ・ジュリアETCR/Romeo Ferraris-M1RA)は、ファイナルで波乱の引き金に
ポール発進から5位完走で戴冠という優位な条件でスタートを切ったエクストロームだったが、ターン1でまさかの事態に
逆境からの復活劇で初代“PURE ETCR King of the Season”の称号を獲得したエクストローム。CUPRAはメーカータイトルも獲得している

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