10月以降の居酒屋業態の現状は?クレジットカード消費データから経済を読み解く

度重なる緊急事態宣言の発出により、経済の先行き不透明感がぬぐえない日本経済でしたが、10月以降は行動制限も大幅に緩和され、明るい兆しが見えて来ました。

10月以降の全面的な緊急事態宣言の解除は、4月以来約半年ぶりであることに加え、現在は新型コロナワクチンが国民に幅広く普及している状態であり、安心感から消費の強い回復も期待されています。

今回は、クレジットカードの決済情報を基にJCBとナウキャストが算出している、消費動向指数「JCB消費NOW」を用いて、9月後半までの国内消費状況を振り返りつつ、特に打撃の大きかった居酒屋業態に着目して今後の先行きを展望していきたいと思います。


国内消費は8月後半を底に9月以降回復傾向に

まずは2021年1月以降の全体の消費動向を新型コロナ前と比較して見ていきましょう。グラフを見ると、小売業が堅調に推移している一方で、行動抑制の影響を直接的に受けるサービス業はマイナス圏での推移が続いています。

消費指数の推移と合わせて全国の新型コロナ新規感染者数の半月ごとのデータも載せていますが、特にサービス業において、感染状況が悪化すると消費が控えられていることもわかります。

しかし、感染状況が大幅に悪化した8月後半期を境に、総合、小売総合、サービス総合すべての指数が上向きとなっており、回復の兆しが見えてきていることがわかります。

続いてはサービス業の中でも営業自粛等の強い制限を強いられた飲食業にフォーカスした指数を見てみましょう。喫茶店・カフェ、ファミレス、居酒屋と3つに分けて見てみると、明暗が分かれています。

テレワークなど多様な働き方が進んだことなどから、利用用途が増えたことにより喫茶店・カフェは一貫して堅調に推移しています。一方で、家族など複数人での利用ケースが多いファミレスや、夜間の営業が基本かつ酒類を提供する居酒屋においては、コロナ前と比較するとまだまだ厳しい状況が続いています。

居酒屋の復活にも感染者数の抑制がカギ?

先のグラフから、飲食業の中でも居酒屋が特に打撃を受けていることがわかりました。では、居酒屋が復調していくにはどのような点がポイントとなるのでしょうか。

ここからは、「JCB消費NOW」が提供する、消費情報と人流情報を掛け合わせたFrom to指数を用いて、2大都市である東京都、大阪府の居酒屋消費を見ていきましょう。

まずは消費人数と感染者数の関係性について見ていきます。新型コロナ禍においては、緊急事態宣言による行動制限が消費に影響を与えたと考えられていますが、新規感染者数による影響も大きいのではないかとも言われています。

そこで居酒屋消費と新規感染者数のデータを見てみると、興味深い関係性がわかります。ここでは、人々は新型コロナの感染状況を踏まえて、少し先の将来の行動を決定していたと仮定し、新規感染者数のデータを半月前にずらし、居酒屋での消費人数のそれぞれの期間での2年前比のデータと重ねています。

グラフを見てわかるように、新規感染者数が増加した2月、5月、8月頃は居酒屋での消費が減速し、新規感染者数が減少していた3月後半、7月後半にかけては居酒屋での消費が回復基調となっています。

加えて居酒屋の消費人数の2年前比と新規感染者数のデータの相関係数をそれぞれ計算してみると、東京都で-0.42、大阪府で-0.58となっております。つまり、一定程度の負の相関を示しており、新規感染者数が減少すると居酒屋の消費も回復するという関係性がデータから見て取れます。

もちろん、新型コロナの感染状況はあくまで1つのファクターに過ぎないため、これだけで先行きを判断するのは危うい部分がありますが、全国の新規感染者数を見ると10月前半(1日~15日)の累計で12,000人台まで減少しており、急速に改善しています。

新規感染者数が全国で30万人を超えた8月後半と比べると事態は一変しており、この状態が続くのであれば、10月後半以降は夜の街にも活気が戻ることが期待されます。

10月以降は1人当たりの単価アップに注目

これまで見てきた通り、消費人数の大幅減少が消費への大きな打撃となっておりますが、飲食業に更なる追い打ちをかけたのは、感染予防のための酒類の提供自粛要請です。酒類はソフトドリンクと比べると単価の高い商品群であり、とりわけ酒類を扱う居酒屋業態にとっては1人当たり単価の減少となり大きな打撃でした。

ここでは東京都と大阪府の居酒屋の1人当たりの消費金額について見ていきます。グラフから新型コロナ前と比較して低水準が続いていることがわかります。

特に全国でも感染状況が厳しかった東京都と大阪府では、緊急事態宣言が発令された期間中、営業・酒類提供自粛要請や店舗見回りなどが行われ、その結果として来訪者の滞在時間の短縮化や酒類の売上がなくなったことにより、1人当たり単価が減少しました。とりわけ1月後半や4月後半など、緊急事態宣言発出直後の期間で顕著に下落していることが見て取れます。

ところが10月後半以降からは制限が大幅に解除されます。東京都・大阪府においても、時短要請、酒類提供の制限が撤廃される議論が進んでおり、1人当たりの単価が急速に回復する可能性が期待されます。

これまで苦境に立たされてきた居酒屋業態ですが、ワクチン接種を背景とした人々の新型コロナ警戒感の後退、行政による供給制約の解消などが後押しし、10月後半以降は消費人数、1人当たりの単価の両面で回復が期待できる状態と言えるのではないでしょうか。

投資家にとっても、先行きを見ていく中で消費者の行動がどれだけ回復していくかは関心が高く、重要なポイントと言えます。またこれまで自粛を余儀なくされていた領域では”リベンジ消費”が強く出てくる可能性にも期待が持てます。

年後半にかけては、全体の消費者マインドの改善に加え、日々の生活にも密接している飲食業の回復を意識的にウォッチしてみてはいかがでしょうか。

<文・Finatextグループ アナリスト 菅原良介>

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