【独占インタビュー】ジャズ・ヴォーカリスト、ホセ・ジェイムズが初のクリスマス・アルバムを語る

Photo by Janette Beckman

現代ジャズ・シーンの最前線を走り続けるヴォーカリスト、ホセ・ジェイムズのキャリア初となるクリスマス・アルバム『ホセ・ジェイムズのクリスマス・タイム』。、雪深いミネアポリスで家族と過ごした、少年時代のクリスマスの温かな記憶を胸に制作されたアルバムについて、ホセにインタビューを敢行した。

<動画:José James (feat. Marcus Strickland) - My Favorite Things (Official Audio)

インタビュー/文:原田和典
写真:Janette Beckman

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去る4月に国内リリースされたライヴ作品『New York 2020』が“心に火をつける一作”ならば、この新作は“心をそっと温める一作”である。

トップ・ヴォーカリスト、ホセ・ジェイムズが10月20日に最新作『ホセ・ジェイムズのクリスマス・タイム』を世界先行リリースした。アーロン・パークス(ピアノ)、ベン・ウィリアムス(ベース、アレンジ)、ジャリス・ヨークリー(ドラムス)という凄腕の気鋭たちを軸に、曲によってマーカス・ストリックランド(ソプラノ・サックス)、ターリことタリア・ビリグ(ヴォーカル)、愛娘のアナイス・ジャルディーナ・ジェイムズ(ヴォーカル)を起用した、アットホームな仕上がりだ。

フランク・シナトラやナット・キング・コールなどに通じるトラディショナルな魅力と、スティーヴィー・ワンダーやダニー・ハサウェイなどソウル・ミュージックの先人への敬愛が見事に溶け合って、彼ならではのクリスマス・アルバムに仕上がっている。

オランダのアムステルダムに移り住む前、ニューヨークで行った最後の催しがアーロンとのストリーミング・ライヴだった(2020年12月22日、ニューヨークのロックウッド・ミュージック・ホールにて)。

彼は子供が生まれたばかりだったし、ちょっとクリスマス・ショーみたいな内容にしたところ、見てくれた世界中の方から“パンデミックの時期に心が癒された” “クリスマス・ソングがジャズ風になっていて楽しかった”など、すごくいい反応が返ってきた。次はアルバムとして、このプロジェクトを発展させてみようと思ったんだ。

レコーディングは、基本的に“全員同時録音によるテープ収録”で行われた。まさにキング・コールやシナトラの全盛時に採用されていた方法だ。

今回のアルバムのために、ブライアン・ベンダー(共同プロデューサー、ミキシング・エンジニア)と僕は何百枚ものレコードを一緒に聴いた。1950~60年代の、ひとつのスタジオに演奏家みんなが集まって、テープにそのまま録音していた時期の作品ばかりをね。

この時代に、こうしたサウンドを創ることができるだろうか? それに対応するスタジオを探しに探したところ、ドリームランド・スタジオがふさわしいと思えた。今では失われたアートになってしまったようなヴィンテージの機材もたっぷりあるからね。

ブライアンと僕が、このアルバムで指針にしようと思ったサウンドは、マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』、デイヴ・ブルーベックの「テイク・ファイヴ」の入ったアルバム『タイム・アウト』、そしてオリヴァー・ネルソンの『ブルースの真実』のような音作りだ。

Photo by Janette Beckman

ニューヨーク州ウッドストック近郊の町、ハーレイにあるドリームランド・レコーディング・スタジオは、1896年に設立された教会を改装し、1986年に録音スタジオとして営業を始めた。ジャズ関連ではジャック・ディジョネット『ダンシング・ウィズ・ネイチャー・スピリッツ』、レベッカ・マーティン『ミドルホープ』、ボカンテ『ストレンジ・サークルズ』なども収録されている。そういえば、『カインド・オブ・ブルー』や『タイム・アウト』が吹き込まれたマンハッタン30丁目のコロムビア・スタジオ(1981年閉鎖)も、もともとはギリシャ正教の教会だった。

レコーディングに入る前から、ピアノやドラムスの音をどのチャンネルにパンニングするか、そのあたりもよく考えた。ミュージシャンがスタジオにやってきて、良いパフォーマンスをすればいいだけの状態にした。リハーサルはほとんどなかったね。譜面も、ないに等しかった。ベストのミュージシャンを集めたから可能になったレコーディングだよ。

ひとつのスタジオに集まって、極力ワン・テイクでという、伝統的なジャズらしいやり方に取り組んだ結果がこのアルバムだ。「マイ・フェイヴァリット・シングス」は2テイク録ったけど。久しぶりに皆で集まったということもあるし、一緒に音楽に取り組む喜びに溢れた内容になっているとも思う。

レコーディングに取りかかった当初、いちばん気負っていたのは自分かもしれない、とも語る。

ミュージシャンやスタッフのことは信頼していたけれど、正直に言うと、僕は最初、すごく緊張していたんだ。でも、プレイバックを聴いてホッとした。これなら大丈夫だと思った。ミキシングに関して、アーロンもすごく喜んでいたしね。彼は天才肌で、こだわりがあって、すごくはっきりした意見を持っている。“ブライアンのミキシングは絶対変えないでくれ。これでパーフェクトだ”と言われたときに、彼のテストに合格したんだなと思ったよ。

今回は僕の11作目のアルバムになるけれど、ここに来てようやく、自分がアルバムをどう創るべきか分かってきた気がする。ソングライターとしても、パフォーマーとしても、プロデューサーとしてもね。

Photo by Janette Beckman

収録されているのは計10トラック。「ホワイト・クリスマス」のような大有名曲、オリジナル・ナンバー、「ザ・クリスマス・ワルツ」など知る人ぞ知るアメリカン・スタンダード・チューンが絶妙なバランスで並ぶ。

ブライアンとは、先に触れた50~60年代ジャズのレコードと同じくらい、とても多くのクリスマス・レコードも一緒に聴いた。ナット・キング・コール、メル・トーメ、ジュディ・ガーランド、ビング・クロスビー…。アメリカでは「クリスマス・スペシャル」のような、エンターテイナーが出るテレビ番組もあるから、その映像も見たよ。

そのなかから楽曲を厳選して、このアルバムの制作にたどり着いた。気持ちがリラックスできて、一家団欒で、犬もいる、そんなアメリカの典型的なクリスマスの歓びが伝わればいいなと思っている。

まるでアメリカの古典的スタンダード・ソングブックから飛び出してきたかのような「クリスマス・イン・ニューヨーク」、グル―ヴ感たっぷりのR&B調「クリスマス・デイ」が、ホセのオリジナル曲だ。

「クリスマス・イン・ニューヨーク」は3年前にロサンゼルスでターリと一緒に書いた。クリスマスの曲は夏に作られることもあって、この曲も例外ではない(注:メル・トーメの大定番「ザ・クリスマス・ソング」は真夏のカリフォルニアで作られた)。ピアノに向かってあれこれメロディを試していたら、“これってクリスマス・ソングぽいね”と彼女が言って、そのおかげで、ちょっと行き詰っていた歌詞づくりも進んで完成したんだ。

どのアルバムに入れるべきか、どのライヴで歌うべきかを探したまま歳月が経っていたけれど、ようやくこの新作に入れることができた。アルバムの中でもとくに重要な一曲だと思っているよ。

「クリスマス・デイ」は今回のアルバムのために書いたソウル・ミュージック風のナンバーで、僕の以前の曲では「ドゥ・ユー・フィール」(『ノー・ビギニング・ノー・エンド』、『New York 2020』に収録)のような雰囲気に近いかな。

歌詞の内容には、娘を持つ父親になった身として、子供時代に故郷のミネソタ州ミネアポリス(注:1888年に最低気温マイナス40.6度を記録した極寒の地)で過ごしたクリスマスのこと、自分が子どもだった頃を振り返っているところもある。

実はこの曲には、ブリッジ(サビ)が2種類あって、ひとつはトラディショナルなタイプで、もうひとつはスティーヴィー・ワンダー風。“どっちがいい?”とバンド・メンバーにきいて、スティーヴィー風のブリッジを歌うことになったんだ。

Photo by Janette Beckman

ダニー・ハサウェイの名曲「ジス・クリスマス」のホセ流解釈も、印象的なリズム・パターンと共に大きな聴きどころとなっている。

この曲はいわゆるブラック・クリスマス・スタンダードだと思う。娘のアナイスもここでヴォーカル・デビューを果たしたし、本当の意味でのファミリー・アフェアというのかな、家族みんなで作ったトラックといっていいだろうね。あとはベン・ウィリアムスの歌声にも注目してほしいね。

ベンはベーシスト、アレンジャーとしても大きく貢献している。彼の存在なくして当アルバムの完成はなかった、とホセはいう。

クリスマス・アルバムだからといって、クリシェ的な、ありきたりの、ノスタルジックなだけの作品にはしたくなかった。そのためには質の高いミュージシャンとアレンジャーが必要不可欠だった。とくにアレンジャーに関しては、十分に即興演奏が行えるスペースを保つことと同時に、コンテンポラリーなハーモニーを取り込み、受け入れることのできる人材が求められた。

それを見事にこなしてくれたのがベンだった。「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」の、モダンなハーモニーを聴いてみてほしい。伝統的な要素と新鮮な要素を、きちんとひとつの世界にまとめてくれるのがベンなんだ。もちろん最高峰のベーシストであることは言うまでもないよ。

10月からヨーロッパ、11月下旬からアメリカでリリース・ツアーを開催。日本公演も待ち遠しいところだ。

家族みんなで集まることのできない2度目のクリスマスがもうすぐやってくる。僕もおばあちゃんには2年間、会えていないんだ。愛する人たちとまた一緒に過ごせる日が来るように、そんな思いを込めて僕はこのクリスマス・アルバムを作った。そして同時に、この作品が皆さんにとって、単純に良いジャズ・アルバムとして感じてもらえたら最高だとも思っている。

日本のファンの持つ音楽への深い愛嬌、知識には脱帽するばかりだ。この素晴らしいバンドと共に、また日本に戻る時が訪れることを今から楽しみにしているよ!

■リリース情報

『ホセ・ジェイムズのクリスマス・タイム』

2021. 10. 20 ON SALE
UCCU-1654  \2,750 (tax in)
Rainbow Blonde/ユニバーサルミュージック
購入・試聴はこちら→Jose-James.lnk.to/Merry_Christmas
 
収録曲
1. クリスマス・イン・ニューヨーク
2. ジス・クリスマス
3. ザ・クリスマス・ソング
4. 恋に寒さを忘れ
5. ザ・クリスマス・ワルツ
6. ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス
7. レット・イット・スノウ
8. クリスマス・デイ
9. マイ・フェイヴァリット・シングス
10. ホワイト・クリスマス

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