衆院選:注目区を行く【神奈川1区】銀座問題で激戦に

(左から届け出順に)浅川義治氏、松本純氏、篠原豪氏

 31日投開票の衆院選で、激戦が展開されていたり、顔触れが変わったりした県内小選挙区の注目区を紹介する。

 「国民の皆さんがコロナで我慢を強いられる中、私松本純は軽率な行動によって、大きなご心配、ご迷惑をお掛けしてしまった」

 公示日の19日、横浜市中区末吉町の一角。8期目を目指すベテランは時折声を詰まらせながら、深々と頭を下げた。

 松本は横浜市議から国政に転じ、国家公安委員長などの要職を歴任した身ながら、緊急事態宣言中の深夜に東京・銀座のクラブを訪問。「30年の政治活動で初めての大失敗」(松本)に批判はやまず、2月に自民党を離党に追い込まれた。

 今回の選挙では「もう議員をやめるべきか真剣に考えたが、薬剤師として皆さんの命を守るためにもう一度、挑戦の一歩を踏み出したい」と再出発を図る。選挙前の復党も探ったが、「党に迷惑を掛けたくないので、無所属として有権者のみそぎを受けたい」と決意。自民は「池に落ちた犬を棒でたたくようなことはしない」と対抗馬の擁立を見送り、1区内の同党市議、県議全員が支援に回った。

 銀座問題から8カ月がたったものの、公示後も街頭演説中に「銀座でやっとけ」と通行人から暴言を吐かれることもある。松本は街頭で「比例は自民か公明に」と呼び掛けるが、公明党は同様の問題で所属議員が辞職。公明関係者の一人は「これまでのように松本さんをやるよう支援者に頼むのは難しい」と複雑な表情で明かす。

 与党支持層の票を固められるかが課題となる中、21日は元首相の安倍晋三が桜木町駅前に「友情」で駆け付け、「松本さんにとって正念場だ。もう一回、力を与えてほしい」と声を張り上げた。今後は側近として仕えた党副総裁の麻生太郎らも入る予定で、自民公認さながらの「大物」来援が情勢の厳しさを物語る。松本は「小選挙区で失敗したら政治生命は終了する」と背水の陣だ。

 一方、過去2回の当選がいずれも比例復活だった立憲民主党の篠原は「小選挙区で勝利して皆さんの声を届けたい」と攻勢をかける。ただ篠原も足元に不安材料がある。9月にあった磯子区の市議補選では立民候補と共産党候補、国民民主党の実質的な支援を受けた無所属候補らが競合。今月の金沢区の同補選は立民候補と国民の実質的支援を受けた無所属候補の一騎打ちとなり、野党間に「しこり」が残った。国民関係者は「すぐに篠原さんを応援しようという雰囲気にはならない」と距離を置く。

 日本維新の会の浅川は「国の形を変えたい」と訴え、自民の公認候補がいない中、“第三の男”として保守層の取り込みを図る。

 松本の「失策」により、激戦となった1区。永田町関係者は「松本氏以外の候補が積極的な支持を広げられているわけではない。失った信頼を松本氏がどこまで回復できるかで勝敗が決まるだろう」と指摘する。=敬称略

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