衆院選:注目区を行く【神奈川3区】大物引退後の行方は

(左から届け出順に)中西健治氏、小林丈人氏、藤村晃子氏、木佐木忠晶氏

 「横浜市長選のてん末にびっくりした人もいると思う。結果が出せなかった」

 公示日19日に同市鶴見区で行われた自民党の中西の出陣式。マイクを使わず、大きな声であいさつする元衆院議員の小此木八郎の姿があった。

 3区を地盤とし、8度の当選を重ね、国家公安委員長を務めたベテラン。8月の市長選に突如、無所属で立候補を表明し、後継候補には中西を指名した。

 自民が進めてきたカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の横浜誘致に反対の声を上げた波紋は大きく、市長選で自民が分裂した一因となった。落選し、政界を引退した小此木は「みなさん複雑な思いをされていると思う。だが、中西さんを一緒に応援してほしい」と声を振り絞った。

 小此木を長年支援してきた男性は「市長選で自民党内が大混乱した。勝てば良かったが、結果は完敗。頑張った支援者ほど『しばらく選挙はやりたくない』と思っている」と話し、自民の牙城が揺らいでいると感じている。

 今回の選挙戦では「小此木が立候補した」と勘違いされないよう、小此木は街頭では中西と一緒に立つことはない。しかし、数多くの支援者を紹介するなど顔をつないできた。それでも、3代にわたり横浜で築いた「小此木ブランド」の票が、中西に受け継がれるかは未知数だ。

 中西は神奈川選挙区選出の参院議員2期の実績があるとはいえ、3区の支部長になったのはわずか2カ月前。「準備期間が短く、名前が浸透していない」と陣営は危機感を募らせる。有権者から「小此木先生の後は誰が出るの」と目の前の中西自身が尋ねられることもあるという。

 一方、野党など候補3人は小此木の引退を絶好の好機と捉える。選挙戦序盤の20日、鶴見駅前で演説する立憲民主党の小林は、有権者の反応が良くなっていると感じていた。「引退は大きな転機で、『頑張れ』と声を掛けられることが多くなった。政治に変化を求めている人が増えているのでは」と期待する。

 神奈川区内で保護猫カフェを経営する無所属の藤村も選挙の構図に大きな変化があったことを出馬理由の一つに挙げた。

 好機と捉える一方、野党陣営は歯がゆい思いも抱いている。野党共闘による候補者の一本化が進み、県内18選挙区のうち7選挙区で一騎打ちの構図が生まれた。しかし、3区では立民と共産が競合したからだ。

 共産の木佐木は鶴見区選出の元県議で、小選挙区では横浜市内唯一の共産候補。共産の県委員会が神奈川区に本拠を置くなど共産が比較的強い地域ということもあり、立民との一本化が実現できなかった。

 野党陣営の幹部の一人は声を落とし気味に言う。「自民候補を倒す大きなチャンスが巡ってきたが野党共闘ができなかった。政権交代を実現させるという強い思いを有権者に伝えたいのだが」=敬称略

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