楽天ドラ1吉野創士にも備わっていた 昌平高・黒坂監督が説く“伸びる選手”の共通点

昌平高を指導する黒坂洋介監督【写真:川村虎大】

「全てを自主性に任せていたらチーム(組織)は成り立たなくなる」

First-Pitch編集部では少年野球の「指導」をテーマにした連載「ひきだすヒミツ」をお届けします。今回は近年急激に力を付けている埼玉・昌平高を指導する黒坂洋介監督。同校は昨年秋に埼玉大会を初めて制覇し、今年のドラフト会議では1位指名選手も誕生しました。元ヤクルトの名将・野村克也氏から指導を受けたことのある黒坂監督が説く、選手に必要な心とは。

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スマートフォンとパソコンの中に保存されている大量のファイル。内容は野球の戦術戦略、成功哲学、「心技体“知”」という言葉など、びっしり書き込まれている。指導の原点は、野村克也氏から受け継いだものだ。ミーティングを通じて、考えることを選手に徹底させている。

「大それた言い方になってしまうんですけど、アマチュア球界にもノムラの教えを広めたいんですよね」

同校出身の黒坂監督は、駒大を経て社会人野球・シダックスに所属。当時監督を務めていた野村克也氏の元で約3年間プレーした。選手を引退した後、2005年春から母校・昌平で4年間監督を務め、一般企業に就職。2017年秋に再び昌平の監督に就任した。そして昨年秋に同校を初の埼玉大会制覇に導き、今年10月11日に行われたドラフト会議では吉野創士外野手が楽天からドラフト1位指名を受けた。

確実にチームを強くしている1つの要因として、自主性と規律のバランスがある。部員は皆、自由な髪型をしている一方で、練習前のウォーミングアップでは、歩幅に一寸の狂いもない。「自主性が謳われる時代ですけど、全て選手の自主性に任せていたらチーム(組織)は成り立たなくなるんです」と話す。

意識しているのは、選手が納得する指導をすること。「全員で足並み揃えてウォーミングアップすることを『ルールだからやれ』と言っても今の子は納得しないんです」。野球は1人では勝てない。団体競技の協調性を養い、みんなが同じベクトルに向けて行う1つの手段なんだと、昔は当たり前だったことも選手に丁寧に説明する。

成長する選手に共通する“素直な心”

甲子園は多くの高校球児の憧れる聖地。しかし、黒坂監督は決して「甲子園に行こう」という指導はしない。「選手自身が行きたいかどうかです。自ら行きたいと思わないと意味がないじゃないですか」。それには理由がある。

「高校野球は人格形成の一環。あくまで教育なんです」

甲子園で活躍すれば、ドラフトで上位指名されれば――。普通の高校生が一躍スターになる。しかし、それはごく一部で、多くの球児は別の道に進む。社会に出て必要なのは人格であり、自ら考えて決断する力が求められる。「部活動というのは人間的成長を促すのが、僕らが本来やるべきことだと思います」。黒坂監督にとって野球は人格形成のための“ツール”だ。

伸びる選手に共通して備わっているのは、“素直な心”だと話す。ミスをした時にそれを認めて、次のミスを防ぐことを考える。それが成長につながるからだ。吉野もその心を持っていたという。2年秋には不調で苦しみ、背番号返納を申し出たこともあったが、チームメート、黒坂監督に促され翻意。自身が結果を残せなくてもベンチからの声や練習態度でチームを鼓舞するようになった。「自分の間違いに気づいたというのも、素直な心があったからだと思うんですよね。それが結果にもつながっていると思います」と振り返る。

「失敗やミスをごまかして、それがうまくいっても、そこに何も残らないんです」。精神力や技術、体力もそうだが、社会に出る準備、心技体“知”の部分を鍛えるのも高校野球だ。

○黒坂 洋介(くろさか・ようすけ)1975年6月15日、東京都生まれ。昌平高の前身である東和大昌平高卒業後、駒大に進学。社会人野球のシダックスでは野村克也監督から指導を受けた。2005年から2008年まで母校の昌平高で監督を務める。その後、一般企業を経て、2017年秋に同校の監督に復帰した。2020年秋に同校初の埼玉大会優勝。今秋、吉野創士外野手が楽天からドラフト1位指名を受けた。(記事提供:First-Pitch編集部)

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