拡大する国際ペット取引、熱帯林から都会に忍び寄るウイルス 次のパンデミックはすぐそこに(2)

日本でペットとして人気のヨウム。鳥類もオウム病などの感染症を媒介することがある=2013年9月、コンゴ共和国(共同)

 外から見えないようにするためのゴムのカバーの間から小屋の中に入ると、灰色の体にオレンジ色の尾羽が美しいオウムが20羽以上、身を寄せ合って小屋の上部の止まり木に止まっているのが見えた。

 アフリカ・コンゴ共和国北部を流れるコンゴ川の支流、サンガ川のほとりにある村、ボマサ。国際的な自然保護団体、野生生物保全協会(WCS)の現地事務所の敷地内にある施設を見せてもらった時のことだ。鳥の名は、英語でグレイ・パロット、和名ではヨウムという。体長が30センチを超える大型インコの一種で、灰色の体と鮮やかな色の尾羽が特徴だ。日本をはじめとする多くの先進国でペットとして人気の鳥だ。(共同通信=井田徹治)

 ▽高価で売買

 「コンゴ国内での捕獲は禁じられており、ここにいるヨウムは全て密猟者から押収されたものです」とWCSコンゴの日本人スタッフ(当時)の西原智昭さんが言う。

 アフリカの熱帯林の中から国外に持ち出され遠くの消費国に持ち込まれる多数のヨウム。これは、人々が深い熱帯の森にも容易に入り込むことができるようになったことに、グローバル化が加わって急拡大する野生生物の国際ペット取引のほんの一面に過ぎない。

 ペットとして高値で売れる野生生物を熱帯林の中などに入って捕獲、長距離を輸送して海外のペットショップで多くの顧客に売る。長いサプライチェーンを持つペット取引の拡大も動物由来感染症の大きなリスクだ。

インドネシアの北スマトラ州で、密輸業者から押収されたセンザンコウ=2017年6月(AP=共同)

 「陸上の野生動物の商業取引が、彼らの体内で進化してきた病原体が人間に移行する絶好の機会となっている」―。WCSなどは2020年4月末、インターネット上で各国政府に陸上野生動物の商取引を禁止するよう求める署名活動を始めた。「新型コロナウイルスの大流行が二度と起こらないようにするために必要な取り組みだ」と訴えている。これには世界各国の環境保護団体のほか世界動物園水族館協会(WAZA)、国際霊長類学会など100を超える組織が賛同した。

 食用目的だけでなく、ペット取引なども含めて世界各地で拡大する野生生物の取引も、野生生物と人間とが接触する機会を増やし、新たな動物由来感染症が派生するリスクを拡大させている。

 SARSはコウモリからハクビシンを経て人にスピルオーバー(流出、異種間伝播)したと疑われ、中国で食用として売られていたことが問題になった。新型コロナウイルスについては、センザンコウがコウモリと人間の間をつなぐ中間宿主となったのではないかと疑われている。

マレーシアで押収された密輸品のアフリカ産センザンコウのうろこ。中国で伝統的医薬品として珍重される=2017年(トラフィック提供)

センザンコウは、爬虫(はちゅう)類に似たうろこに覆われた哺乳類で、アジアに4種、アフリカに4種が生息する。中国で胎児から成獣までが広く食用にされるほか、うろこが伝統的医薬品として珍重されるため大量に捕獲され、8種すべてが絶滅危惧種となった。

 多くの生息国で捕獲が禁じられ、ワシントン条約で国際取引が禁止されているが、密猟や密輸が後を絶たず、今、世界で最も多く密猟されている哺乳類だといわれるほどだ。新型コロナウイルスは、まだウイルスの起源は未解明だが、野生生物の大量消費が生物多様性にも人間の健康にも大きなリスクとなり得ることをあらためて印象づけた。

 ▽取引される発展途上国の動物

 食肉や伝統的医薬品、ペットなどとして国際的に取引される野生動物の数は増加傾向にあるとされる。多くが発展途上国にいる動物だ。WCSとともに署名活動を主催した米国の保護団体、グローバル・ワイルドライフ・コンサベーションのラッセル・ミッターマイヤー博士は「各国で消費を減らし、政府が取引を禁じることは地球環境にとっても、人間の健康にとっても重要だ」と話す。

キクガシラコウモリ。新型コロナウイルスの起源とも指摘されている(中国科学院などの研究チーム提供)

 「人間が野生生物の生息地を破壊し、数を減らすことが、ウイルスが人間に感染するようになる機会を増やす」と指摘するのは米・カリフォルニア大学デービス校のクリスティン・ジョンソン教授だ。ジョンソン教授らは昨年4月、野生動物から人間に感染するようになった142種のウイルスについて、野生での宿主と考えられている動物を調べ、国際自然保護連合(IUCN)の絶滅危惧種に関するレッドリストと突き合わせた研究結果を学会誌に発表している。

 狩猟や取引、生息地破壊などの理由で個体数が減った動物が持つ人畜共通ウイルスの数は、それ以外の原因で減った動物が持つウイルスの数の2倍も多かったと報告した。

 ジョンソン教授も野生動物の取引や密輸の規制強化の重要性を強調。「野生動物と人間がもっと安全に共存していく方策を見つける必要がある」としている。

 ▽日本は一大消費国

 野生動物の国際的な取引は世界中に存在するが、アジア地域、特に東南アジアがその中心地になっている。世界最大の市場である中国向けのほか、日本などへの「エキゾチックペット」と呼ばれる珍しい動物の輸出も多く、密猟や密輸が後を絶たない。日本ではエキゾチックペットが人気になっており、ペット野生生物の一大消費国になっている。

 2020年2月に民間の野生生物取引監視団体、トラフィックがまとめた東南アジアの野生動物取引に関する大規模な調査報告書によると、東南アジアでは、象牙やトラなどのほか、アフリカからのサイの角、サイチョウなどの鳥類、ペットや食料としての需要が高いスッポンモドキなど、多種多様の生物が違法に取引されていた。カエルやヘビ、イモリなどペット向けに大量の動物が日本や米国、欧州に合法的に輸出されていた。報告書は、ペットとして人気のカワウソやマニアの間で人気の爬虫類のボルネオミミナシオオトカゲなどが日本に輸出されたことを指摘。ラオスのイボイモリが日本向けのペットとして大量に捕獲されたことにも言及している。

未知のウイルスを持っている可能性が指摘されるオオコウモリの一種=2017年11月、モルディブ(共同)

 一方で、取り締まり態勢は貧弱な上、違法に入手した動物を、人工繁殖させたものだと偽ることも頻繁に行われており、摘発は困難。押収されたのは氷山の一角で、拡大するインターネット取引も摘発を難しくしているという。トラフィックは、東南アジア各国での違法取引規制の強化と同時に、日本や中国などでの需要を減らすことの重要性も指摘した。

 ▽「過剰な消費」

 トラフィックは2020年6月、「フクロウやカメなどエキゾチックペットと呼ばれる外国原産の希少な野生動物について、2007~18年の間に計78件、1161匹が違法な輸入として日本の税関に差し止められていた」との調査結果を発表している。差し止められた1161匹の中には、新型コロナウイルスの起源とみられているコウモリや、サルといった病原体を媒介し人間に感染するリスクが高い東南アジアなどからの計195匹も含まれた。

 ペット目当ての野生動物の取引は、生息地での捕獲から輸送、展示や販売から購入まで多くの人が関与するので、動物に接触する機会が多く、しかも生きたまま、場合によっては多くの生物種が一カ所に集められて移送されるので、動物由来感染症拡大のリスクは大きい。

 トラフィックジャパンの北出智美代表は「日本は東南アジアなどからエキゾチックペットと呼ばれる多くの野生動物を大量に輸入している。その人気は高まっており、感染症のリスクは人ごとではない。合法的なものだけを取引することはもちろん、動物の由来を明確にし、安全性の高いものだけを取り扱うようにする、過剰な消費を減らすといった対策強化が望まれる」と話している。

関連の動画はこちら https://youtu.be/U-pTREkFnac

「次のパンデミックはすぐそこに」

第1回 https://nordot.app/824166788907761664

第3回 https://nordot.app/824558452128153600

第4回 https://nordot.app/824572058365935616

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