映画『アレックス STRAIGHT CUT』- 私達はみんな悪魔なのか。人間の内に潜む残虐さに恐れ慄く!

私達はみんな悪魔なのか。人間の内に潜む残虐さに恐れ慄く!

”過ぎてしまったことはもう元には戻らない” 本質的かつ至極シンプルな主題を、最も残忍な事例で訓告してくれるこの作品は、時計回りに回転するスプリンクラーの画から始まります。 2003年に日本で公開された『アレックス』。 この作品は、恋人が暴行された男の復讐を時系列を遡って描いています。 劇中の描写は強烈で、2002年のカンヌ国際映画祭でも途中退場者が続出し、大きな話題となりました。 それに対して、今回再構築された『アレックス STRAIGHT CUT』は時間軸に沿ったもの。 いわば"順行版『アレックス』"です。 『アレックス』、『アレックス STRAIGHT CUT』。 両作品に共通して、鑑賞後は大きな疲弊感が残りました。 ストーリーの重苦しさは去ることながら、上下左右にぐわんぐわんと揺れるカメラ、警告のようにチカチカと赫灼する光。 そして、トーマ・バンガルテル(ex.Daft Punk)による音楽は、観る者の鼓動を早め、ガンガンと不安を煽ってきます。 また、オリジナル版は時間の不可逆性が強調され、残酷に感じられたのに対して、ストレートカット版はストーリーが順行に進む分、感情移入もより深く、残酷を通り越して無常さえ感じました。 コロナで世の中が疲弊しきっている今、なぜこの作品を再編集して公開するのか疑問に思いましたが、この衝撃の連続に心地よさを見出している自分がいました。 思考を放棄して噪音と乱像の中を漂う90分はあっという間でした。 『アレックス STRAIGHT CUT』。 オリジナル版『アレックス』を観たことがある人はもちろん、未見の方でも見応えのある作品です。 鑑賞後には『アレックス』が観たくなり、そしてまた『アレックス STRAIGHT CUT』が観たくなるループに陥るはず。 非情な場面もあり、手放しにオススメはできませんが、忘れられない映像体験になることを約束します。 ちなみに、私は、観終えた後に子どもの頃以来の知恵熱を出しました。 (阿佐ヶ谷ロフトA:森優美子)

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