12球団で“過小評価”されている投手とは… 勝利数や防御率では計れない力を分析

阪神のジョー・ガンケル(左)とオリックス・山本由伸【写真:荒川祐史】

守備から独立した失点率を示す「tRA」で見ると…

野球を客観的に分析する手法の1つとして、球界でも広く知られるようになってきたセイバーメトリクス。様々なデータを活用し、科学的かつ合理的に分析しようとするもので、メジャーリーグのみならず、今では日本のプロ野球でも広く活用されるようになっている。

その指標の中に「tRA」というものがある。これは守備から独立した投手の失点率を示す指標だ。セイバーメトリクスでは、フィールド上に飛んだ打球は野手の守備力や運の影響が大きくなるため、これを除いて投手の能力を評価する手法が定着している。勝利数や防御率は味方の援護や守備、運に左右される部分が大きい。

そこでこの「tRA」を用い、勝利数や防御率に優れていなくとも、評価すべき投手を見ていきたい。セイバーメトリクスの指標で分析を行う株式会社DELTAのデータを参照した。

最多勝を争う阪神・青柳、広島・九里が「tRA」では…

・先発投手の「tRA」上位10選手(70投球回以上)

○セ・リーグ
1 J・ガンケル(阪神)3.00
2 奥川恭伸(ヤクルト)3.03
3 柳裕也(中日)3.05
4 大野雄大(中日)3.24
5 大貫晋一(DeNA)3.27
6 大瀬良大地(広島)3.29
7 CC・メルセデス(巨人)3.30
8 床田寛樹(広島)3.44
9 高橋奎二(ヤクルト)3.55
10 今永昇太(DeNA)3.56

セ・リーグの上位を見てみると、意外なことに気付く。最多勝を争う阪神の青柳晃洋、広島の九里亜蓮が上位10人に入ってこない。青柳は防御率でも柳に次ぐ2位だが、「tRA」は3.60で12位。九里は4.36で29位。2人は奪三振が少なく“打たせて取る”タイプであることも関係している。

1位になったのは阪神のガンケル。ここまで9勝、防御率2.95だが、「tRA」における力はセ・リーグでトップとなる。2位にはヤクルトの若き右腕・奥川がランクイン。4位には7勝止まりの中日・大野雄、5位には6勝のDeNA・大貫と勝ち星に恵まれていない面々が並ぶ。9位の高橋奎はわずか3勝ながら、指標では上位に位置しており、能力の高さが伺える。

日本ハムの右腕は実はリーグ屈指の力の持ち主

○パ・リーグ
1 山本由伸(オリックス)1.75
2 千賀滉大(ソフトバンク)2.07
3 N・マルティネス(ソフトバンク)2.52
4 D・バーヘイゲン(日本ハム)2.93
5 早川隆久(楽天)2.99
6 伊藤大海(日本ハム)2.99
7 上沢直之(日本ハム)3.05
8 宮城大弥(オリックス)3.13
9 田嶋大樹(オリックス)3.18
10 則本昂大(楽天)3.27

パ・リーグでは最多勝を確定させ“投手4冠”に近づくオリックスの山本が群を抜く。「tRA」1.75は驚異的な数値だ。これに続くのが、ソフトバンクの千賀、さらにマルティネスとなる。千賀はほぼ後半戦だけで9勝、マルティネスも9勝ながら防御率1.60となっており、成績を反映した指標になっている。

驚きなのが4位のバーヘイゲンか。今季は5勝8敗、防御率3.84と一見すると、ぱっとしない成績だが、「tRA」はリーグ4位の2.93。守備から切り離された部分での失点率で考えると、リーグでも屈指の力のある投手だということになる。また、ルーキーの楽天・早川、日本ハム・伊藤も上位に顔を見せており、この2人の能力の高さも窺い知れる。

上位10人には入っていないものの、ここまで5勝止まりの日本ハム・加藤貴之投手が「tRA」3.60で13位、4勝に止まっている楽天・田中将大投手も3.78で14位に位置している。2人よりも勝利数、防御率で上回っている投手は数多くいるものの、「tRA」で測ると、2人はまずまずの数値に。味方の援護の少なさなどが勝ち星に恵まれない要因となっている。

山本由伸のような球界屈指の好投手は勝利数や防御率といった成績面に優れ、なおかつ、指標で見ても秀でていることが分かる。ただ、山本も昨季までは指標に優れていながら、白星には恵まれない時期が続いた。様々な外的要因に影響される勝利数や防御率だけではなく、こういった視点から投手の能力や貢献度は測ってみるのも重要だろう。(Full-Count編集部)

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