衆院選:注目区を行く【神奈川16区】一騎打ち、激戦に拍車

(左から届け出順に)義家弘介氏、後藤祐一氏

 「又野村(現・相模原市緑区又野)出身の尾崎行雄の言葉を引用させていただきます」

 公示日の19日午前10時半。立憲民主党の前職・後藤が第一声の場所に選んだのは同区の津久井湖近く。支援者ら10人を前にマイクを使わず話し始めた。その後は愛川町、伊勢原市などを経て、大票田・厚木市の小田急線本厚木駅前に立ったのは午後6時を過ぎていた。

 陣営幹部は「初日いつも津久井や藤野地区に着くのは夕方や夜遅くで、批判の声をいただいていた。今回は逆から回った」。有権者数は少なくとも一票一票を大事にしようとの表れだ。

 希望の党(当時)から出馬した前回選挙では約1万4千票及ばず小選挙区での議席を失い、比例で復活した。「党設立メンバーとして党活動を優先し、東京にいることが多かった。一番大事な時に地元にいられなかった」という苦い記憶は忘れられない。

 今回、通常国会閉会以降は地元活動に専念。公示後も党名より個人名を強く打ち出し、「質問時間ナンバーワン」「提案を実現」など4年間の実績を訴え、支持拡大に努めている。

 これまで後藤の活動を支えてきたのが、母校・厚木高校の同窓生だ。同窓会関係者は「(自民党幹事長の)甘利さんも同窓生。会としては特定の候補に肩入れせず、不偏不党を貫く」と説明するが、同校出身の支援者は「党派関係なく、厚木から同校出身者を送り出すのは当然」と支援に力を入れる。

 後藤と自民党の前職・義家は16区でこれまで3度戦い、毎回勝者が入れ替わっている。義家は前回に続く連勝を狙う。

 選挙戦序盤の21日午後、本厚木駅北口には自民や連立を組む公明党の地元市議、県議らが勢ぞろい。応援に駆け付けた元首相の安倍晋三は約800人の聴衆を前に、「参院議員選挙への出馬をお願いし、政治の世界に引っ張り込んだのは私。政権奪還後には文部科学副大臣や法務副大臣を務めてもらった」と密接な関係をアピールした。接戦区を象徴するように、党広報本部長の河野太郎や内閣官房長官の松野博一らも次々来援し、てこ入れを図る。

 新東名高速道路や圏央道などのインフラ整備や19年の台風19号被害からの復旧など与党の実績を訴える義家は、「地元代表としてかけらの悔いも残さずやってきた」と自負する。

 「ヤンキー先生」としての抜群の知名度に加え、早朝の駅頭などでの活動も数多くこなしてきた。だが陣営幹部は「いまだに『落下傘』と見られ、選挙は毎回厳しい。今回はこちら側が東京との行き来が増え、地元回りの時間が減った」と胸の内を明かす。

 義家の演説は毎回こう結ぶ。「51対49の戦い。1票も取りこぼせない。小選挙区は義家、比例区は公明党で」

 どちらにも肩入れできない選挙区内のある首長は「どちらが勝つにしても、大差はつかないのでは」と見方を示し、続けた。「こちらは(比例復活して)与野党どちらもいる方がありがたい」=敬称略

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