【レースフォーカス】優勝か、転倒か……トップ走行中に転倒もタイトルへの可能性に懸けたバニャイア/MotoGP第16戦エミリア・ロマーニャGP

 MotoGP第16戦エミリア・ロマーニャGPではファビオ・クアルタラロ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)がチャンピオンを獲得したその一方で、このレースではフランセスコ・バニャイア(ドゥカティ・レノボ・チーム)の転倒、そしてレプソル・ホンダ・チームのワン・ツーフィニッシュというトピックスがあった。ここではその二つに触れていきたい。

■タイトルの可能性に挑んだバニャイア。

 チャンピオンシップでランキング2番手につけていたバニャイアは、ポールポジションから決勝レースに挑んでいた。バニャイアは23周にわたってレースをけん引。2番手に続くマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)との差は0.1秒から0.3秒とわずかで、しかしバニャイアはその差を保ったまま安定したペースを刻み、16周目にはファステストラップのこれまでのレコードを更新するラップタイムを記録した。終盤の22周目に入って、少しずつ2番手のマルケスとの差を拡大し始めた、そのときに転倒は起こった。
 
 23周目、15コーナーでのクラッシュ。たとえクアルタラロが転倒を喫したとしても(実際にはクアルタラロは4位フィニッシュを果たした)、ポイント差は52のままとなり、残り2戦で獲得できる最大ポイント数が50ポイントであることから、この瞬間にバニャイアはタイトル獲得の可能性を失ったのだった。転倒したあと、バニャイアは憤懣やるかたないといったようにグラベルに右こぶしを打ちつけた。
 
「今日は、勝つか転倒するかのどちらかだった」と、レース後の取材のなかで、バニャイアは語った。少なくとも、そのとき、その表情は気持ちの整理をつけたように穏やかに見えた。

「勝つためにあらゆることをしたけれど、転倒してしまった。タイヤ選択は正しかったと思う。ブレーキングを考えたら、このタイヤしかなかった」

 バニャイアはフロントにハードタイヤ、リヤにミディアムタイヤを選択していた。タイヤ選択は「正しかった」とバニャイアは言う。ただ、タイヤが機能する温度を保つために、すべての周で攻め続けなければならなかった。「あの周は、8コーナーでちょっと早めにブレーキをしてしまったのかもしれない」。バニャイアはそう、15コーナーの転倒について振り返っている。
 
 すぐ後方には、マルケスがいた。それも、序盤から終盤までほとんど差は変わらなかった。しかし、バニャイアはマルケスの影響はなかったと述べている。マルケスはフロントにミディアムタイヤ、リヤにソフトタイヤを履いており、レース後半では自身に有利だとわかっていたからだ。
 
「僕はただ、できるだけ一定のペースで走るようにしていた。(マルケスが選択した)ミディアムタイヤに対し、終盤には僕の方に分があるとわかっていたからね。僕はただ攻めていたし、マルクが後ろにいるのはわかっていた。でも、僕にポテンシャルがあることも知っていたんだ」

 今季、特にシーズン後半に入って強さを発揮してきたバニャイア。特に第13戦アラゴンGP、第14戦サンマリノGPで2連勝を飾り、ランキングトップをひた走るクアルタラロをおびやかす存在になっていた。

「(チャンピオンシップについては)ムジェロ(第6戦イタリアGP)でチャンピオンを失ったと思っている。先頭を走っていてクラッシュした。オーストリア(第10戦スティリアGP)では、選んだタイヤが機能しなかった。シルバーストン(第12戦イギリスGP)でも。この3レースでチャンピオンシップを失ったと思う。これらのミスから学んでいるよ」

 バニャイアは「ファビオはチャンピオンにふさわしい」と称え、そしてまた、こうも語っている。
 
「来年にはもっと(チャンピオン争いの)準備ができていると思う」

 そして、バニャイアのチームメイトであり、2番グリッドからスタートしたジャック・ミラー(ドゥカティ・レノボ・チーム)もまた、2番手走行中のレース序盤、4周目に転倒でレースを終えている。バニャイア同様のタイヤを選択し、同じく15コーナーでの転倒だった。
 
「タイヤ選択に問題があったのだと思う。僕たちは、ハードタイヤをフロントに選択した。フィーリングはよかったんだ。13時ごろ、それは素晴らしいアイデアだと思っていたんだけど、グリッド(14時前)に着くと、雲が出始めた。それで路面温度は(タイヤが機能する)ボーダーラインくらいだった。たぶん、温度が低かったんだ。8コーナーでペッコ(※フランセスコ・バニャイアの愛称)に接近したものだから、ブレーキングが緩んだ。それがタイヤの温度に影響したのかもしれない」

「今日は、(バニャイアと後方のライダーとの)壁になろうと思っていた。ペッコも僕も、序盤はすごくいいペースで、ペッコはその後もさらにトップを維持していたけれど……、そう簡単じゃなかったね」

■ホンダが達成したワン・ツーフィニッシュ

 クアルタラロがチャンピオンを獲得したこのエミリア・ロマーニャGPで、優勝を飾ったのはマルケスだった。マルケスはバニャイアの後方で2番手を維持し、バニャイアが転倒するとトップに立ってアメリカズGPに続く優勝を飾った。そしてまた、バニャイアとマルケスには引き離されたものの、4番グリッドからスタートしたポル・エスパルガロ(レプソル・ホンダ・チーム)が2位でフィニッシュを果たしている。苦戦が続くホンダにとって、今季のワン・ツーフィニッシュは初。ホンダとしては2019年第17戦オーストラリアGP以来となった。
 
「僕としてもレプソル・ホンダ・チームにとってもうれしい結果だ。HRCにとって、ワン・ツーフィニッシュを果たしたことは重要だ。特にここが右回りのサーキットであるということだね。右回りのサーキットで優勝することは、一つの目標だったんだ」

 マルケスは2021年シーズン、第8戦ドイツGPと第15戦アメリカズGPで優勝を飾っている。そのどちらもが、左回りのサーキットで、これまで右回りのサーキットでは優勝できずにいた。その背景には、いまだ完全ではない右腕の状態がある。
 
 このレースウイークは金曜日から土曜日にかけてほとんどのセッションがウエット、または濡れた部分が残る路面状況で行われていた。決勝日は、このレースウイークで初めて訪れた完全なドライコンディションだった。ライダーとしては、フリー走行で決勝レースを想定した走行ができず、難しいレースウイークとなるが、マルケスにとってはこの状況が一つ、彼の手助けとなっていた。ウエットコンディションでは通常よりも体の負担が少ないためだ。

「今週はほとんどウエットコンディションでの走行だった。筋力をさほど使わずにすんだ。だから、今日は体がぴんぴんしている状態だったわけなんだ。レース前に右腕に痛みがあまりなかった。だから、いい感じで走れたんだ。体がこういう状態なら、このレベルで走れる。つまり、問題は、金曜日にスタートして、決勝レースが日曜日ということだ。まだ万全というわけじゃないんだ」

 そして、レプソル・ホンダ・チームに移籍した今季、ついに表彰台を獲得したエスパルガロ。ホンダでの初表彰台獲得に「僕というライダーにとっても大事な結果だ。MotoGPではベストポジション。KTMでは3位が最高だったわけだからね。もちろん、自分のキャリアにとっても大事だったよ」と語ってから、「でも、ホンダに対する安堵の方が大きい」とも述べている。
 
「ホンダにとってこのワン・ツーフィニッシュは重要だよ。難しいシーズンを過ごしてきたんだからね」

 エスパルガロは、2020年までKTMに所属していたことを踏まえ、現状の新型コロナウイルス感染症の状況下における、ホンダの苦境に言及した。

「(ホンダは)これまでにすごくがんばってくれている。コロナの状況下で、僕はヨーロッパのメーカーにいた。彼らがどう動くのか知っている。ヨーロッパでは、コロナの状況が襲っていても全力で進んでいた。でも、ご存知のように、日本人はヨーロッパ人よりも安全でとても慎重だ。だから、確かにこのコロナの状況で、彼らがヨーロッパのメーカーよりも苦戦しているという点はある。この状況の中で、ヨーロッパのメーカーに対し、日本のメーカーは少し苦戦を強いられている。だから、今日の結果は僕にとって重要だ」

 ともあれ、エミリア・ロマーニャGPの結果がレプソル・ホンダ・チーム、ホンダにとって、大きな意味を持つワン・ツーフィニッシュだったことは間違いないだろう。2021年のシーズンは残り2戦。あと2戦の結果につなげることができるだろうか。

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