逆境から脱出なるか。平川「2~3日違和感あった」。3戦不運の大湯「お参りに3日連続で行きました」【JAF鈴鹿GPプレビュー】

 2021年のスーパーフォーミュラ(SF)最終戦、JAF鈴鹿グランプリが今週末、鈴鹿サーキットを舞台に開催される。ドライバーズチャンピオンは野尻智紀(TEAM MUGEN)がすでに決めているが、チームタイトル、そして新人王争いはこの最終戦で決まる。そして当然、タイトル争い以外でも、2022年につなげるために、どのドライバーも今季最終戦での有終の美を狙っている。そのなかでも敢えて、スーパーGTを含めてここ数戦、不運やアクシデントに見舞われて逆境のなかにある、ふたりのドライバーに聞いた。

 今回の優勝候補は、第2戦の鈴鹿で速さを見せた福住仁嶺(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)、そしてチャンピオンの野尻が中心になるのは間違いないが、前回のもてぎでアクシデントに見舞われた平川亮(carenex TEAM IMPUL)、大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)に注目してみたい。

 平川は前回、予選では2秒足りずにアタックラップに入れず、決勝では無線がつながらないことからタイヤ交換のチャンスを逃し、最後は山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)から接触を受ける形で(山本に黒白旗)ガードレールにクラッシュ。ドクターヘリでサーキットを去るという、まさに災難に見舞われてしまった。レース直後の平川は軽い脳震とうとの情報が流れたが、どんな状況だったのか。

「脳震とうではなくて、頭痛です。ガードレールにぶつかったときの衝撃というよりも、その後に頭が揺さぶられたことですね。それで左右に頭を(コクピット内のヘッドレスト)に打って、結構な頭痛が続きました」と、JAF鈴鹿GPの搬入日に話す平川。

「ドクターヘリに乗ったのも念のための検査で、その後にレースも続いていて検査を勧められたので宇都宮の病院に行きました。頭がくらくらするというよりも、頭痛がすごくて違和感があったので、不安が残るのも嫌でしたので念のためにです。ドクターへリーでは横になっていて(まわりの状況や景色は)何も分からなかった。病院に着いてすぐ検査をして、帰って大丈夫とのことだったので、チームの方にクルマを持って来てもらって、その日中にクルマで帰りました。2~3日は違和感が残っていたのですけど、先週のスーパーGTでも問題なかったですし、今も大丈夫です」と平川。

 もう痛みはないようだが、それでも一度、頭を強く打ったことには変わりない。心配されるのは、レースだけでなく、ラグビーやアメフトなどと同じように、短い期間での脳震とうの再発には大きなリスクが伴うことだ。セカンドインパクト症候群とも呼ばれる合併症の可能性もあり、期間が空いたとはいえ、平川も当然、今回のレースには細心の注意を払っている。

「また大きなクラッシュで頭を打ってしまったら、2回目の方が怖い。脳震とうは検査では分からなくて、もし脳震とうだった場合(完治には)3~4週間は掛かるので、今回もそこは気をつけないといけないと思っています」

 そのため、今回の平川はヘルメットへの衝撃を少しでも緩和できるよう、ヘッドレストの内側に衝撃吸収剤のパッドを装着。金曜の搬入日には入念にメカニックとヘッドレスト内の場所や感触を確かめていた。

「何かあったときのリスクを避けたいですので。乗り心地が替わるほど付けているわけではないですので、パフォーマンスには問題ないです」と平川。

21周目のアクシデントでリタイアとなった山本尚貴、平川亮、坪井翔

 前回のSF第6戦もてぎだけでなく、その前のスーパーGT第5戦SUGO、そして先週のスーパーGTオートポリスと結果が良くなく、流れが悪いようにも見える。だが、平川は明確にその考えを否定した。

「GTのオートポリスではタイヤに苦しみましたけど、流れが悪いという感じはないですね。去年に比べたら全然いいですし、不安はないです。今シーズンは勝てていないので、今回の最終戦で勝って終わりたいですし、チームチャンピオンも懸かっている。来年のピットの順番も掛かっているので、今年のオートポリスの雨ではピット順が重要でしたし、来季は一番先頭のピットでレースしたいです。チームも一生懸命、頑張って作業してくれているので、ドライバーズチャンピオンにはなれませんでしたけど、チームチャンピオンという形で今季を終えたいですし、最後に優勝できれば気持ちよくシーズンを終えられると思います」と平川。

 チームタイトル争いはトップのcarenex TEAM IMPUL(有効ポイントで73点)、2位TEAM MUGEN(71点)、3位DOCOMO TEAM DANDELION RACING(69点)と4点差で競っている状況。この最終戦の鈴鹿でタイトルが決まることになる。

●SF、スーパーGTと3戦連続で不運に見舞われる大湯都史樹「今回はタイヤを撫でて、おまじないをしてから乗り込みたい」

 また、その平川以上にここ数戦、不運に見舞われているのが大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)だ。前回のSF第6戦もてぎでは2周目に坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)と接触してホイールが割れてタイヤ交換を余儀なくされ、その後はリスタート時の追い越し違反でドライブスルーペナルティ。

 そして周回遅れになった終盤には、セーフティカーのリスタートでポジションを譲ろうとラインを変えた直後、結果的にマルチクラッシュが起きてしまい、その際の映像がなかったことで戦犯扱いを受けてしまうという(後にレースダイレクターがコメントを発表)、完全に負のスパイラルに陥ってしまった。

2021スーパーフォーミュラ第6戦もてぎ 大湯都史樹(TCS NAKAJIMA RACING)

 さらにはその後、先週のスーパーGT第6戦オートポリスでは、トップ走行中に右リヤタイヤのホイールナットが外れてタイヤが脱輪してリタイア。まさに今、大湯は日本で一番ツイていないドライバーと言っても過言ではない。

「その前の(第5戦)もてぎの時も思ったようにいかなくて、ピットのタイヤ交換でロスがあって作戦がうまく行かなかった。2回目(第6戦)のもてぎの時も全然、予選から流れが来なくて良くなくて、しかも決勝での接触の当たりどころが悪かったようでホイールが割れてしまって、タイヤのアクシデントにつながった。そしてこの前のGTオートポリスもトップで走っているときにタイヤが外れてしまって、ここ3戦連続でタイヤにまつわるアクシデントに遭っています。今回の鈴鹿もタイヤには高負荷なサーキットですし、第2戦の時には福住(仁嶺)選手にタイヤのアクシデントが起きているので、不安な部分はあります。レース前にはタイヤを撫でて、おまじないをしてから乗り込むルーティンにしたいと思っています(苦笑)」と、自虐的に笑う大湯。

 そのGTオートポリスでは、マシンを降りてガードレールに長時間、寄りかかって虚空を見つめていた姿がまだまだ記憶に新しい。

「ストレートでおかしいという感触があって、1コーナーでのブレーキングも手前にしてなんとかコースに留まったのですが、その後にタイヤが取れてしまいました。タイヤが外れたあともピットに戻ってきたかったのですが、リヤタイヤが空転して前に進まなかった。クルマを降りてからは『どうしてこんなに流れが悪いのかな』とか、『神様は味方してくれないのかな』とか、『このタイミングじゃなくてもいいでしょ』とか、いろいろ考えました。チーム、ダンロップさん、(笹原)右京選手もすごく細かく準備をしてサーキットに乗り込んできていたので、その想いをつなげられなかった無念というか、むなしさがずっとありました」と、GTオートポリスを振り返る大湯。

スーパーGT第6戦オートポリス。ポールスタートから、まさかのタイヤ脱輪アクシデントでリタイアとなった16号車の大湯都史樹

 SF、GTと不運が続いた大湯は、流れを変えるためにオートポリスのレース後、懇意にしている神社に向かった。

「SFも流れが悪いし、GTも残念な結果に終わったので、お祓いに行ってきました。いつも行っている、縁のある神社に3日連続で行きました。3日間、毎日お参りして今回のレースに臨んで来ています。最近はレースが続いて過密スケジュールだったのですけど、今回のレースに向けて、できる限りゆっくりして、気持ちも身体も切り替えて来ています」

「悪い流れになってしまっていますけど、GTもSFも予選は悪くはなくて、良い結果を残せる兆しはある。起死回生の一発をお見せしたいなと思います。僕はSFの予選で2番手、3番手は多いのですけどポールポジションを獲ったことがないので、今季最終戦でポールを決めて、そしてレースを勝って終わりたいですね」と大湯。

 去年、逆境のなかで初優勝を飾った第6戦鈴鹿の時のように、今回のJAF鈴鹿GPでもこれまでの鬱憤を晴らすようなパフォーマンスが見せられるか。チャンピオンが決まったとはいえ、チームタイトル争い、そして新人王が掛かる3人、阪口晴南(P.MU/CERUMO・INGING)、大津弘樹(Red Bull MUGEN Team Goh)、宮田莉朋(Kuo VANTELIN TEAM TOM’S)の戦いを含め、見どころの多い今週末の鈴鹿サーキット。果たして、有終の美を飾れるのが、どのドライバーになるのだろう。

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