円安が進んだら、日本が弱くなったら…つみたてNISAやiDeCo、資産形成に影響がある?

2021年9月後半以降、為替レートは急激に円安に進んでいます。円安が進むことは、一概にいい・悪いと言い切れませんが、原油をはじめとする原材料高騰による円安は「悪い円安」と言われています。このような円安は、コロナからの経済再生を妨げるとの見方から「悪い」と言われる所以です。

では、円安が進み、日本が弱くなってしまったら、私たちがつみたてNISAやiDeCoなどで投資している資産は果たして大丈夫なのでしょうか。今回は、円安が進んだ場合の資産の変化、そして今後も「悪い円安」が進む場合に、どんなリスクがあるのかを紹介します。


円高・円安ってどういうこと? 基本をおさらい

日本に住む私たちは、国内で買い物するときに円(日本円)を使います。同じように、米国に住む人たちはドル(米ドル)、欧州に住む人たちはユーロという具合に、国・地域ごとに使われている通貨が異なります。

それらの通貨をそれぞれの国・地域で使っている分にはいいのですが、たとえば海外旅行や貿易などで、他の国とお金のやりとりをするときには、自分の国の通貨を相手の国の通貨に交換しなければいけません。この交換の際に用いられる交換比率を為替レートといいます。「今日の外国為替市場、1ドル=110円」などと、よくニュースで報じていますね。これは、為替レートが平日24時間、絶えず変動しているからです。

その結果、為替レートは円高になったり円安になったりします。円高・円安とは、海外の通貨から見て日本円の価値が高くなったか安くなったかを表す言葉です。

たとえば、1ドル=110円だった為替レートが1ドル=100円になった場合は、同じ1ドルで交換できる円が110円から100円に減ったので、円(の価値)が高くなった=「円高(ドル安)」です。逆に、1ドル=110円だった為替レートが1ドル=120円になったら、同じ1ドルで交換できる円が110円から120円に増えたのですから、円(の価値)が安くなった=「円安(ドル高)」となります。

為替レートは、片方の通貨が高くなれば、もう片方の通貨が安くなるという、シーソーの関係にあります。

為替レートは、異なる通貨の需給のバランスによって上下します。ごく簡単にいうと、人気投票です。「円とドル、どちらが欲しい?」と聞いて、円が欲しい人が多ければ円高(ドル安)になり、ドルが欲しい人が多ければ円安(ドル高)になる、というわけです。

円安が進んだら、資産の価値はどうなってしまう?

このところ為替レートはドルだけでなく、どの外国通貨でも円安の方向に動いています。「円が欲しい」という人が少ないのですから、なんだか寂しく感じられるかもしれませんが、資産運用の面で見れば悪いことばかりではありません。

為替レートが円安に進むと、外貨建ての資産の価値が高まります。たとえば1ドル=100円のときに、1万円を100ドルに両替して、100ドルの米国株を買ったとします(以下手数料等は考慮しません)。

仮にこの米国株がいっさい値動きしなかったとして、為替レートが1ドル=110円の円安になってから売り、ドルを円に戻すと、手元の円は1万1,000円に増えるということです。このような利益を「為替差益」といいます。

しかも、日本経済が伸び悩むなか、投資家は海外の資産に注目しています。中でも米国経済は順調で、株式市場はこの数十年間ほぼ一貫して値上がりを続けています。リーマンショック・コロナショックなどで短期的に下落することはありますが、そこからいち早く立ち直り、再び回復を見せています。また、その他の国々の中にも、日本より成長力のあるところが多くあります。

ですから、つみたてNISAやiDeCoなどで海外資産に投資しているならば、円安が進めば資産は増えますので問題ありません。そのまま、投資を続けていれば、為替差益と経済成長による値上がり益の両方を得る期待もできます。

今回の円安は「悪い円安」?

ところで、日本市場ではこれまで円安と株価上昇は同じタイミングで起こっていました。逆を言えば、株価下落と円高も同じタイミングになるわけですが、そもそも株価下落の時に円高になる理由の1つは、「円キャリー取引」と言われています。

円キャリー取引とは、日本の銀行から超低金利で円を借りて外貨に換え、高金利通貨建で投資するというものです。大きな株価下落が起きた(リスクオフ)時には、リスク回避のために運用していた海外資産を売り、円で返済する動きが発生します。こうした「巻き戻し」と呼ばれる円買いが大量に発生するので、円高になるという流れです。

つまり、リスクオンになると株価上昇が起こり、同時に日本円を持たなくなるので円安になるというわけです。しかし、今回の円安は、リスクオンではなく、原油をはじめとする原材料の高騰が主な原因と言われています。

2020年9月時点では40ドル程度だった原油価格(WTI原油先物)は、2021年10月時点で80ドルを突破。原油価格はわずか1年ほどで2倍になってしまった計算です。さらに、原油だけでなく、金属など、他のさまざまな製品を作るための原材料も値上がりしています。

ドル/円の為替レートも2020年9月時点では100円台半ばでしたが、2021年に入ると110円程度に。さらに2021年9月後半から一段と円安が進み、114円前後になっています。

今は、円安による輸入コストの増加と、原油をはじめとする原材料の高騰のダブルパンチを受けている状態なのです。円安によって、輸出企業の業績がよくなるメリットもありますが、輸入コスト増&原材料の高騰による物価高が消費低迷を招く状況が続けば、日本経済は停滞します。日本経済が停滞するということは、日本企業の儲けは減るので、日本株の成長の足かせになる可能性が高いというわけです。

今後つみたてNISA・iDeCoではどんな商品を買うのがいい?

悪い円安が続くとすれば、前述の通り、日本株の成長の足かせになる可能性が高いに加え、外国人投資家の売りによる日本株下落の可能性もあります。

というのも、日本株の売買代金シェアの約7割を占めるのは外国人投資家です。外国人投資家が日本株を買ってから円安が進むと、為替差損が発生します。外国人投資家にとって、日本株は投資先の1つであり、魅力度が下がれば資金は引き上げると考えられます。これにより日本株下落が起こるという流れです。

とはいえ、国内資産をゼロにして、全て海外資産にするというのは極端です。投資に絶対はないこと、金融資産に完璧な商品はないこと、そして何よりも日本の資産を持っていることは分散投資の観点からも重要です。

それに外国人投資家が一気に日本株を売れば、日本株下落と円高が同時に起こる可能性があります。そうなった時に海外資産しか持っていない日本人は、円高による為替差損が発生し資産が減るということが起こり得ます。何事もバランスが重要なのです。

ここまでの話から、つみたてNISAやiDeCoで国内資産にしか投資していない状況であれば、米国をはじめ海外資産にも投資することを検討してみてください。

「悪い円安」の影響を下げるためというよりも、そもそも米国をはじめとする海外資産の投資信託は、日本よりも成長力が高いうえ、円安に進んでも為替差益が得られます。なかでも投資信託であれば、1本で多数の資産に分散投資できるので、リスクを抑えつつ堅実にお金を増やす期待ができます。

たとえば、次のような商品が候補として考えられます(なお、金額などデータは2021年10月27日時点のもの)

(1)SBI・全世界株式インデックス・ファンド
(米国の株式・米国以外の日本を含む先進国の株式・新興国の株式に間接的に投資)
純資産総額:396.17億円
基準価額:15,749 円
信託報酬(税込):年0.1102%
3年トータルリターン(年率):11.69%
iDeCo、つみたてNISAで投資可能

(2)eMAXIS Slimバランス(8資産均等型)
(国内・先進国・新興国の株式と債券、国内外の不動産(リート)の合計8資産に対して、12.5%ずつ均等に投資)
純資産総額:1202.58億円
基準価額:13,622円
信託報酬(税込):年0.154%
3年トータルリターン(年率):7.10%
iDeCo、つみたてNISAで投資可能

(3)ニッセイ・インデックスバランスファンド(4資産均等型)
(国内債券・国内株式・先進国債券・先進国株式の4資産に25%ずつ均等に投資)
純資産総額:160.91億円
基準価額:14,388円
信託報酬(税込):年0.154%
3年トータルリターン(年率):6.50%
つみたてNISAで投資可能

いずれも、保有中の信託報酬0.1%台と安く、国際分散投資しています。そのうえ、純資産総額も順調に増えている投資信託です。つみたてNISA、あるいはiDeCoで購入してコツコツと積立投資することができれば、運用益非課税の恩恵を受けながらお金が増やせます。

なお、「為替ヘッジあり」の商品を選ぶと、為替レートの変動による資産の増減リスクを抑えて資産運用ができます。為替ヘッジに多少のコストはかかりますが、為替レートの変動で大きく損をすることを防げますので、リスクをとりすぎるのが怖い方は、取り入れてみるのもいいでしょう。

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