松坂大輔の言葉で“覚醒” 育成「最下位指名」から29試合に投げた西武新人右腕

西武・水上由伸【写真提供:埼玉西武ライオンズ】

四国学院大3年秋に投手再転向でプロへの道開いた

26日にレギュラーシーズンの全日程を終えた埼玉西武ライオンズ。最下位に沈んだが、1年間経験を積んだルーキーたちの来シーズン以降の活躍が楽しみだ。

2020年育成ドラフト5位で入団した水上由伸投手は、野球好きの父の影響で小学4年生から野球を始めた。山梨・帝京三高では3年夏にエースとして県大会4強入りし、プロ志望届を提出。しかし指名はなく、四国学院大に進学して外野手に転向した。

「強いところに行って埋もれるより、地方で目立ったほうが注目されると思いました。大学には4年生と3年生にピッチャーがいたので、監督から『打つほうで貢献してくれ』と言われ、外野手をやりました」

高校時代は野手を兼任し、通算15本塁打を放つなど打撃にも定評はあった。2年春のリーグ戦では首位打者を獲得したが、チーム事情により3年秋に投手に再転向することになる。

「同級生のピッチャーが怪我をして、投げられなくなってしまいました。入部した時と監督は変わっていたのですが『もともとピッチャーだったらしいな。やってみて』と言われて、ピッチャーをやることになりました。久しぶりに投げたら球速が出て『150キロ出るんじゃないかな』と手応えがありました。最初はピッチャーで野球を始めたので、最後もピッチャーをやろうと思いました」

3年秋のリーグ戦では最多勝を獲得し、投手としてプロを目指すことを決めた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で4年春のリーグ戦は中止になったが、秋のリーグ戦で最速150キロをマーク。ドラフトで西武から育成5位指名を受け、5月13日に支配下登録された。

「今年中に支配下になれると思ってやっていたので、驚きはなかったです。厳しい場面でも投げさせてもらえるようになりましたが、その方が『野球してるな』って感じがするから、楽しんでいます」

今季限りで現役を引退した松坂大輔【写真:荒川祐史】

恩人は松坂大輔、進化を呼んだ春季キャンプでの一言とは?

学生時代は投打で注目された二刀流。6月15日の敵地・広島戦でその打撃をアピールする機会が訪れるかと思われたが、叶わなかった。

「1アウト2塁で『これあるなと』と思って、呉(念庭)さんにバッティンググローブを借りて、気合入れてミラールームで素振りしていたんですけど『ないよ』って言われて。代打・中村(剛也)さんでした。その方がよかった。次、頑張ります」

強気で前向きな性格は、相手の内角へ攻め込む投球にも現れている。松井稼頭央2軍監督も気持ちの強さを評価しており「体のケア、怪我をしない身体作りをして、今年しっかり乗り切って欲しい」と話す。水上自身も1年目はスタミナ不足を感じたという。

「学生時代と違ってほぼ毎日試合をしているので、体力の面がきつかったです。ストレッチをして投球につながる柔軟性を含め、体づくりを意識してきました」

ドラフトでは西武に入団した12選手の中で“最下位”指名だったが、1軍で29試合に登板する飛躍を遂げた。その裏には、引退した松坂大輔投手に春季キャンプで掛けられた言葉があった。

「ブルペンを見ていただいたんですけど、その時に『シュートどんどん使っていきなよ』と言ってくれました。それから自信を持ってシュートを使うようになって、今がある。あの言葉がなかったら、今の自分のポジションはないと思います」

松坂が甲子園で春・夏連覇を達成した1998年生まれの23歳。「強気で攻めるのが自分の持ち味。もっとコントロールを磨いていけたらと思います」。若き右腕は、西武の新エースへなるべく成長を誓った。(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)

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