チャンピオン王手も「そんなに甘くはない」。STANLEYとAstemoの対称的なレース展開と展望【第7戦もてぎGT500プレビュー】

 2021年シーズンのスーパーGTも残り2戦。いよいよクライマックスとなる最初の1戦、第7戦が今週末のツインリンクもてぎで開催される。GT500クラスは昨年チャンピオンの1号車STANLEY NSX-GTがドライバーズランキングで実質の2位に16ポイント差を付けて独走しており、この第7戦の結果次第では最終戦を前にタイトルを決める可能性があるが、STANLEYのふたりはその考えを否定。ライバル陣営のコメントとともに、チャンピオン争いの意気込みを聞いた。

 前戦の第6戦オートポリスで、もっとも重い100kgのサクセスウエイト(SW)を搭載しながら、タイトルを争うライバルを先行して、6位入賞を果たしたSTANLEY NSX-GT。この時点でチャンピオン争いで独走状態になったわけだが、レース後のSTANLEY山本尚貴は、この第7戦でのタイトル決着については「今のスーパーGTは僅差の戦い。そんなに甘くはない」と、展望を語っていた。

 STANLEYは第4戦のもてぎ戦では一度もトップを奪われることなくポール・トゥ・ウインを果たしており、もてぎでの実績は十分。だが、今回の第7戦のもてぎ戦では、SWが半減されることになるとはいえ60kgのSWを搭載し、GT500車両のなかで唯一、燃料リストリクター(燃リス)が入る状態になる。

 つまりは、ストップ&ゴーの特性を持つもてぎでストレートが厳しくなることは間違いなく、優勝争いはかなり厳しい状態とも言える。同じくSTANLEYの牧野任祐が話す。

「今回、第4戦のときと同じように『ポールを獲って優勝して、1戦残してチャンピオン』という報道をよく見ますけど、ポール・トゥ・ウインは相当難しいと思います。頑張って、どうQ1を突破するのかですよね」と牧野任祐。

 STANLEYの星学文エンジニアも、「現実的にはどうQ1を突破するのか。奇跡とかは一切信じないタイプなので、現実的に考えています」と、同調する。

 今季のSTANLEYは予選で上位を逃しても、レースではスタートを務める牧野任祐が順位を守りつつ燃費走行でガソリンの消費を抑え、ミニマム周回数でピットインしてインラップの時間、少ない給油時間でタイムを稼ぎ、素早いピット作業と山本のアウトラップの頑張りで、ライバルがピットインを終えた時には順位を上げている、いわゆるアンダーカットするパターンで上位進出を可能にしてきた。

 この戦略では、まずはスタートを務める牧野の燃費走行が重要だ。地味ながらも我慢の走りを続けている牧野だが、今回はさらに厳しい戦いになることを覚悟している。

「今年はもう、我慢の1年です(苦笑)。しかも今回こそ、一番の我慢のレースになると思います。僕らのクルマだけ燃リスが入っているので、いろいろな意味で我慢しなければいけないと思います」と牧野。

 前回、6位入賞を果たした時以上に、厳しい状況を想定しているようだ。

「今回、SWが半分になっていますが、ギャップが縮まったわけではなくて、相対的には分からない。(このもてぎでのチャンピオン決定は)現実的には厳しいと思いますけど、今回で絶対チャンピオンを決めに行くというのではなくて、僕らのパターンではないですけど、普段どおりのレースができればと思っています。(タイトル獲得は)そんなに甘くはないと思っています」と牧野。

 厳しい展開を予想しているかのように、もてぎの搬入日の昼過ぎからSTANLEYはドライバーふたりと合わせて、何度もドライバー交代の練習を繰り返していたのが印象的だった。

 一方、実質のドライバーズランキング2位でSTANLEYを追う、17号車Astemo NSX-GT。今回17号車のはなんとしても1号車とのギャップを大きく縮めることが使命になる。Astemoの塚越広大が話す。

「この2戦に関しては、予選で上位に行けているし、いいレースはできていたと思うのですけど、レース中にいろいろ動きがあるなかで、僕らはそれをうまく味方につけられなかったりがありました。今回はそれをはね除ける速さを強さを見せて、まずは予選で前に行かなければいけないし、たとえ相手が速かったとしても、それを上回るように速く走る。本当に、あまり複雑に考えるよりも、シンプルに速く強く、前に行くしかないと思っています」と塚越。

 当然、1号車STANLEYへの意識は高い。

「直接、近くで走っているような展開になると、チャンピオンシップとしては僕らは不利になる。当然、1号車の前にいなければいけないし、言葉は悪いかもしれませんが、1号車に対して大きなリードをとって、遙か前でレースをしていないと僕らにとっては厳しいことになる。作戦とかはチームに任せて、僕としてはシンプルに、それを達成できるように速く走ることに集中していきたいと思います」

 ここ数戦、Astemoは同じブリヂストンユーザーのNSXのなかでも重いSWのなかで予選Q3に進出するなど上位グリッドからスタートし、決勝でも序盤に好位置でレースを進めながら、中盤以降に順位を下げてしまう展開が続いている。

「前回のオートポリスではレース中のペースは良かったと思うのですが、タイヤのウォームアップに苦しんでしまいました。ピットのタイミングでセーフティカーが出てしまって、同じタイミングで差がない状態でタイヤ交換することになって、そこでウォームアップに苦労して、後ろの方に下がってしまった」と塚越。

「順調にレースをしていれば、(チームメイトのベルトラン)バゲットもいいペースだったので、他のクルマともっと差を広げた状態でドライバー交代できて、ウォームアップで時間がかかったとしても、前の方のポジションにステイできていたと思います」と続ける。

 ピットタイミングやFCY(フルコース・イエロー)明けなどのタイミングで順位を上げてきたSTANLEY NSX-GT、一方、真逆のレース展開となっていたAstemo NSX-GT。果たして、残り2戦のチャンピオン争いのなか、この2台はどのようなレース展開を見せるのだろうか。

 そしてはたまた、この2台以外でGRスープラ勢、そしてニッサンGT-R陣営が最後の逆襲を見せることができるのか。最終戦の富士に向けて、今回のもてぎでついにチャンピオン候補が絞り込まれることになる。

実質、ランキング2位のAstemo NSX-GTと前回のオートポリス優勝のARTA NSX-GT
ドライバー交代の練習を行うSTANLEY NSX-GT山本尚貴と牧野任祐
GRスープラ勢ランキングトップのau TOM’S GRスープラと、10位のKeePer TOM’S GRスープラ

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