地域の宝

 ミカンの里、諫早市多良見町伊木力地区で、暗い竹やぶに覆われていた巨大な墓石は「ゲンバさんの墓」と伝えられてきた。その昔、大村の殿様から追われた侍がここで自害したのだと▲住民はゲンバさんを畏れ敬い「大難は小難で逃れますように」と祈った。ほこらを建て、墓石に刻まれた命日の月に供養会を営み、土砂崩れで墓石が倒れれば建て直した▲ところが2004年に大発見があった。ここは16世紀の天正遣欧使節の一員、千々石ミゲルと妻が眠る墓であって、ミゲルの息子・玄蕃(げんば)が両親のために建てたらしい、と大村の石造物研究者・大石一久さん(69)が突き止めたのだ▲ミゲルの子孫・浅田昌彦さん(68)が14年、発掘調査に着手。先祖代々墓を守ってきた住民の井手則光さん(80)も「ミゲルさんに日の目を」と現場で汗を流した。子どものころから墓にお参りしていた井手さんの妻榮子さんは今年4月、80歳で他界。今夏の4回目の発掘調査では、現場の隅で遺影が作業を見守った▲そして9月、ついにミゲルとみられる人骨が見つかった。大石さんは「地域の人が大切に墓を守り伝えてくれたからこそ」と感謝する▲今月は県文化財公開月間。各地で多くの行事が予定されている。地域の宝に目を向ければ思わぬ発見があるかもしれない。(潤)

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