【高校野球】公立の進学校を13年間で7度聖地へ 名将が実践“甲子園基準”の練習法とは?

静岡・栗林俊輔前監督【写真:本人提供】

栗林俊輔氏は2008年から昨年まで静岡高を指揮、15年選抜で8強入り

First-Pitch編集部では少年野球の「指導」をテーマにした連載「ひきだすヒミツ」をお届けしています。今回は、静岡高を春夏通じて7度甲子園に導き、昨年退任した静岡高の栗林俊輔前監督。公立高校ながら静岡県内の“絶対王者”で居続けた理由は練習メニューではなく、内容の設定にあった。「何をやるかより、どうやるか」が重要だったという。

静岡高は甲子園常連校でありながら、県内指折りの進学校でもある。野球部からも医学部へ進む選手や、東大に合格した選手がいる。他の部活と共用しているグラウンドや屋根付きの施設はあるが、私立の強豪校ほどの設備はなく、練習時間も十分に確保できるわけではない。それでも、近年の静岡県の高校野球において、静岡高が中心にいるのは誰もが認めるところだ。

「王者・静高」といわれる黄金期を築いたのが、昨年3月までチームを指揮した栗林俊輔前監督だ。現在はグラウンドを離れ、県教育委員会健康体育課で勤務している。2008年に静岡高の監督に就任し、2011年夏に8年ぶり甲子園に導いた。「公立高校でも甲子園で勝てると全国に発信する使命感を持って、選手と一緒にやっていました」。退任までの13年間で、春夏合わせて7度聖地に立ち、2015年選抜では50年ぶりのベスト8入りを果たした。

一見すると、静岡高の練習メニューは他の高校と大きくは変わらない。ただ、限られた時間で最大限の効果を生み出すための知恵や工夫が詰まっている。栗林氏は選手たちに、こう伝えていた。

4か所の打撃練習でフルスイングできるのは1か所だけ

「何をやるかで大きな差は出ない。それよりも、どうやるかが大切」

例えば、フリー打撃。打席を4か所設けた場合、フルスイングできるのは1か所しかない。他の打席では、ランナーやカウントを決める。一塁に走者を置いた想定では、相手バッテリーは外角の直球やスライダーが増える傾向が高いため、外角を打つ練習をする。走者を二塁や三塁に設定した時は、低めの変化球を捨てて浮いたボールを打つ。

2ストライクに追い込まれて、三振だけは避けることを目的とした打席もある。栗林氏は「試合の時にできないと困る打撃があります。チームの課題は変わっていくので、その時々で頻度や重要度の高いものを設定していました」と振り返る。

シートノックも細かな設定がある。栗林氏や捕手の声が響く。「バッター1番、一塁までの到達タイム3.6秒」。打者の走力、イニングや点差など、状況によって求められるプレーは変わる。常に意識するのは「甲子園の基準」だ。シートノックで守備位置につくまでの設定タイムは2種類ある。

ノックで守備位置に着くまで、ベンチに戻るまでの時間を設定

45秒以内と35秒以内。45秒は自分たちが攻撃から守備に移る際、捕手が走者や打者をしていた時を想定したもの。35秒は捕手に打順が回らず、レガースなどをつけて守備の準備をしている時のものだ。

「打者の一塁までの到達タイムや攻守交替のタイムなど、甲子園の平均を教えてもらい、普段の練習から感覚を身に付けるようにしていました。甲子園の舞台でもいつもと変わらないプレーをするためです。素早く守備につけば、外野手は風や打者の特徴を確認できますし、内野手はグラウンドの荒れたところを手でならす時間があります」。

守備が終わってベンチに戻るまでの設定タイムは10秒。これも高校生らしい全力疾走が目的ではなく、甲子園の基準に合わせたものだ。ユニホームを脱いで制服姿になった時は、スニーカーではなく革靴に徹底した。甲子園切符を手にすれば、知事や市長を訪問する機会があり、組み合わせ抽選の時も革靴を履く。

「日常を甲子園基準に上げれば、慌てずに普段通り動けます。常に甲子園を意識することで、結果も変わってきました」と栗林氏。甲子園常連校だったのは偶然ではなく、確かな根拠があった。

○栗林俊輔(くりばやし・しゅんすけ)1972年9月8日生まれ、静岡県磐田市出身。磐田南高から筑波大。現役時代は捕手。磐田北、浜松工などの監督を経て、2008年から昨年3月まで静岡高を指揮した。甲子園には春3度、夏4度出場。静岡高では西武・鈴木将平外野手ら3人のプロ野球選手を輩出。浜松工の教え子には元日本ハム・浦野博司投手がいる。(記事提供:First-Pitch編集部)

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