世界中のモノが値上がり、インフレ時に投資家が考えるべき企業への影響とは

スーパーで買い物をしたり、車で出かける時にガソリンを入れたりすると、何もかも値上がりしている印象を受けると思います。最近はお肉も高いし、電気代もガソリン代も高いし、家計への影響は甚大です。ニュースを見ていても、世界中でモノの値段が上がっているという報道を目にするでしょう。長らくインフレとは縁遠かった日本ですが、今回はインフレが企業に与える影響について考えてみましょう。


世界中でインフレ懸念

日本でもインフレ懸念について報じられる機会が増えてきましたが、世界中でインフレ懸念が指摘されています。一部の国では懸念ではなく、既にインフレが定着しておりむしろ過度なインフレなのではないか、という指摘もあり、現在の緩和的な金融政策の変更を求める声も多くなっています。下図はOECDのデータを基に欧米各国とアジア近隣国の消費者物価指数(前年同月比)の推移をグラフ化したものです。

今年に入ってからどの国も物価が上昇していることが分かると思います。米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は2%のインフレ目標を掲げていますが、足元では5%を超えています。
このインフレの背景には経済活動がコロナ禍で停滞していた状態から、一気に再始動したことによって、需要が急増したにもかかわらず、供給が追い付いていないことが挙げられます。米国では失業者への補償が厚いために、人手が戻らず生産を増やせないことや、原油高やコンテナ不足などもあり、物流コストも上昇しており、複数の要因によって物価が上昇しているので短期的にインフレが鎮静化することは期待できなそうです。

これまでもずっとパウエルFRB議長やイエレン財務長官はインフレが一時的であることを主張し続けていますが、当初の予想よりも長引いており、緩和的な金融政策の変更を求める声も一部では上がっています。

日本でもインフレは起きている?

日本は長いことデフレや低インフレの状態を続けてきましたが、冒頭でも述べた通り、この数か月は生活の中でモノの値段の上昇を実感している人が多いと思います。総務省が発表している消費者物価指数のデータをグラフ化したものが下図ですが、消費者物価指数の総合は前年同月比+0.2%、生鮮食品を除く総合が同+0.1%とわずかにプラスになっているだけで、生鮮食品及びエネルギーを除く総合は依然としてマイナスのままです。

とはいえ、生活の中では物価上昇を実感しているため、経済指標と実感の乖離を印象として受けるかもしれません。菅政権下で引き下げられた携帯電話の通信料などが全体の指数を押し下げているなどの特殊要因もあり、実際に生活に関連する品目を取り出してみると、やはり他国と同様に今年に入ってからじわじわと値段が上昇していることが分かります。

日本では年始から円安が進んでいますが、円安傾向が続けば輸入する際の価格も上昇するため、日本においては為替要因も相まって他国と同様にインフレ懸念が燻り、少なくとも年内は物価上昇が続くのではないでしょうか。

日本企業の収益逼迫の現実

個人投資家として気にしなくてはいけないのは、この世界的なインフレ懸念が企業業績に与える影響です。日本銀行が発表している企業物価指数を見てみましょう。

上図を見てみると、円ベースでの輸入物価指数は足元では前年同月比で30%以上も上昇していますが、最終財の値上がり率は輸入品も国内品もそれほどではないことが分かるでしょう。このデータから何を読み取れるかというと、日本では長らく消費者や企業がデフレや低インフレに慣れてしまったため、少しでも価格転嫁をして値上げすると、その瞬間に買ってもらえなくなってしまう恐怖感があるのです。それゆえに、企業は利益を圧縮して最終価格になるべく転嫁しないようにしています。

背景を知れば、先ほど見た日本の消費者物価指数が他国に比べて低いままである理由もわかるかと思います。

いずれは自分に返ってくる

このような話をすると、企業努力で最終価格が抑えられているのだから、消費者からすれば「安くモノが買える」のでデフレや低インフレはいいじゃないか、という意見が出てくることが多いのですが、経済はつながっているため、必ずしもそうとは言えません。多くの企業はボランティア団体ではなく、利益を出さなくてはいけません。売価を上げられないのであれば、コストを削減するしかありません。

正規雇用を減らして非正規雇用を増やしたり、賃上げを抑えたりボーナスを出さなくなるかもしれません。従業員は仕事を終えれば家計、つまり消費者になるので、雇用環境が不安定になったり、手取りの給料が下がれば消費をしなくなります。すると、売上高は落ちてしまうので、企業は更にコスト削減に走らざるを得ないわけです。

そう考えると、デフレスパイラルに陥ってしまうことの危険性が分かるでしょう。投資をしている人は金融政策を気にすることも多いと思いますが、インフレ懸念が燻っているから現在の緩和的な金融政策をやめて、引き締めるべきだと思うかもしれません。しかし、必ずしも経済成長に伴う需要増からのみインフレが起きているわけではないことに注意しましょう。消費者物価指数という数字だけを見て行き過ぎた引き締め政策をとれば景気は腰折れして急減速します。これからは米国をはじめとする先進各国の物価に注視するとともに、中銀総裁や財務長官などの要人発言にも注目しましょう。

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