<社説>知事・官房長官会談 新基地見直し聞き流すな

 玉城デニー知事は、初来県した松野博一官房長官と会談した。 松野氏は知事に米軍普天間飛行場の辺野古移設を「唯一の解決策」とする従来の政府方針を強調し、辺野古新基地建設計画の見直しに向けて玉城知事が求める「対話」に新政権が応じる見通しを示さなかった。

 岸田文雄首相は、自身の政治信条を「聞く力」であると強調してきた。ならば、協議の場を求める知事の声を「聞き入れる」のか「聞き流す」のか、岸田政権の本質が問われている。

 岸田首相は就任後初の所信表明演説で新基地建設について「丁寧な説明、対話による信頼を地元の皆さんと築く」と地元住民の理解の必要性を説いた。

 首相の意を受けて、知事と会談前に、松野氏は「車座対話」を宜野湾市で実施。米軍普天間飛行場周辺の自治会長らに基地被害や地域振興の要望を聞いた。名護市の渡具知武豊市長と久辺3区(久志、豊原、辺野古)の区長とも面談した。

 対話姿勢は歓迎する。だが、県に対しては従来の姿勢を繰り返しながら、「対話」を通じて基地所在市町村と直接のパイプづくりを進める姿勢は、分断策とも受け取れる。

 松野氏は基地と振興予算の「リンク」を改めて否定したものの、「両課題を総合的に推進すべきという意味で関連する」と強調した。

 沖縄社会の分断は第2次安倍政権から顕著になっている。2013年12月、安倍政権は仲井真弘多知事(当時)から辺野古埋め立ての承認を得る際、沖縄関係予算について「毎年3千億円台確保する」と閣議決定した。辺野古新基地建設に反対する翁長県政が誕生した15年度以降は一転して予算の減額傾向が続く。県を通さず国が市町村や民間に直接交付できる特定事業推進費の創設も分断策の一つと懸念されている。

 今回の衆院選の小選挙区で新基地建設が進む3区は、建設容認の自民党候補が当選した。この結果をもって、建設が受け入れられたと判断するのは早計である。なぜなら今回の選挙で新基地建設の是非は最大の争点にならなかったからだ。

 これまでの選挙で新基地建設容認の自民党候補が落選すると、政権側は「選挙の争点は(基地問題)一つではない」と解釈し、新基地建設を強行してきた。あいまいさを払拭するため、19年に新基地建設の是非に絞って県民投票が実施された。投票者の7割が「反対」の明確な意思を示した。

 新基地建設は大浦湾側に存在する軟弱地盤によって、工事の完成のめどが立たない事態となっている。「辺野古サンゴ移植訴訟」の最高裁判決で、2人の裁判官が工事の行き詰まりを指摘した。

 県民の声を聞き流すのなら新政権は「国民の共感と信頼」を得られないだろう。

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