ヒュンダイ不振の週末に、リンク&コー連勝でエルラシェールが選手権リードを拡大/WTCR第7戦

 11月5~7日の週末にイタリアはアドリア・レースウェイでの開催を迎えた2021年のWTCR世界ツーリングカー・カップ第7戦は、直前のBoP(バランス・オブ・パフォーマンス/性能調整)改訂によりアウディ、リンク&コーの競争力が改善。結果的にBoP不変のクプラやヒュンダイ勢が沈む結果となり、予選トップ10リバース採用のレース1ではサンティアゴ・ウルティア(リンク&コー03 TCR/シアン・パフォーマンス・リンク&コー)が、続くレース2では選手権首位の王者ヤン・エルラシェール(リンク&コー03 TCR/シアン・レーシング・リンク&コー)が、それぞれ“ライト・トゥ・フラッグ”を決める結果となり、エルラシェールはロシアでの最終戦を前に、スタンディング上のリードを36点まで拡大することとなった。

 本来は2021年カレンダーで第4戦のスロットに組み込まれながら、工期遅れによる延長が続いていたアドリアでの1戦が、ようやく実現に漕ぎ着けた。直前には地元イタリア出身の“鉄人”ガブリエル・タルキーニ(ヒュンダイ・エラントラN TCR/BRCヒュンダイN・ルクオイル・スクアドラ・コルセ)の引退表明で幕を開けた週末だが、残念ながら59歳の老兵がドライブするヒュンダイにBoPの変動はないまま。

 一方でコムトゥユー・チーム・アウディスポーツの第2世代アウディRS3 LMSとシアン・レーシングのリンク&コー03 TCRには、基本BoPと戦績によるコンペンセーションウエイトに変更があり、後者ではともに10kgの削減措置を実施。さらにアウディはBoP重量でも10kgが軽減され、車両重量1265kgと最重量級のホンダやヒュンダイに対し70kgも軽い参戦車中の最軽量モデルとなったうえ、ライドハイトも10mm低下し60mmとなるなど、大幅な競争力アップが見込まれた。

 早速その効果を発揮し、ジル・マグナス(アウディRS3 LMS/コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ)最速で幕を開けたFP1は、引退表明後の初セッションで「私の“ファンクラブ”会員のためにも表彰台を狙いたい」と2番手に喰い下がるタルキーニと0.061秒差というシビアな展開でスタート。

 続くFP2では長らく老兵のチームメイトを務めて来た2019年王者ノルベルト・ミケリス(ヒュンダイ・エラントラN TCR/BRCヒュンダイN・ルクオイル・スクアドラ・コルセ)がトップタイムを記録し、2番手ウルティアを筆頭に競争力を改善したアウディとリンク&コーの牙城に挑む構図となった。

 すると予選Q1から強さを発揮したシアン・レーシング軍団に対し、Q1で9番手通過を決めていたタルキーニがブレーキトラブルによりQ2出走を回避する残念な事態に。そのQ2に入りアウディ勢も巻き返しを見せたものの、Q3ではフレデリック・バービッシュ(アウディRS3 LMS/コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ)を0.163秒差で退けた王者エルラシェールが幸先良くポールポジションを確保し、早くも予選終了時点で10ポイントを加算する展開となった。

R1スタートで一時は主導権を握ったかに見えたエステバン・グエリエリ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.COM Münnich Motorsport)だが、最重量級シビックでは厳しい展開に
R1ではジャン-カール・ベルネイと、R2ではジル・マグナスとの接触に泣いたテッド・ビョーク(Lynk&Co 03 TCR/Cyan Performance Lynk&Co)
圧巻のレース運びでR1完勝を果たしたサンティアゴ・ウルティア(Lynk&Co 03 TCR/Cyan Performance Lynk&Co)

■レース2ではスタートから接触のアクシデント発生

「どのコーナーでも通常コンマ数秒を削るのは至難の技なんだけど、正直に言って今回のQ3でのフライングラップは完璧に近かった」と満足げな表情を浮かべたエルラシェール。「最も重要かつ難しい精神状態のQ3で、そのドライビングができたことを誇りに思うよ。10点が獲得できたのも非常に良いことだね!」

 明けた日曜10時15分に開始されたレース1は、予選トップ10リバースポール発進のウルティアが、一旦は予選9番手でフロントロウに並んだエステバン・グエリエリ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツ)に先行を許すものの、オープニングの最終コーナーで再び捉えて以降は、背後を振り返ることなくチェッカーまで快走。同じく10周目の最終コーナーアウト側からグエリエリを仕留めたトム・コロネル(アウディRS3 LMS/コムトゥユー・チーム・アウディスポーツ)が2位に続き、グエリエリがなんとか3位表彰台を死守して、14周のフィニッシュを迎える結果となった。

 続いて現選手権リーダー兼ディフェンディングチャンピオンを先頭に、12時15分にスタートが切られたレース2は、テッド・ビョーク(リンク&コー03 TCR/シアン・パフォーマンス・リンク&コー)がレース1に続き再びの接触で混乱の引き金を作ると、ターン3ではイバン・ミューラー(リンク&コー03 TCR/シアン・レーシング・リンク&コー)とヒットしたネストール・ジロラミ(FK8型ホンダ・シビック・タイプR TCR/ALL-INKL.DE・ミュニッヒ・モータースポーツ)がグラスエリアを滑走。コース復帰の際には予選でタイヤグリップの発動に苦しんだタイトル候補の一角、ジャン-カール・ベルネイ(ヒュンダイ・エラントラN TCR/エングスター・ヒュンダイN・リキモリ・レーシング・チーム)と激突し、この動きに対しジロラミには次戦ソチでのグリッド降格処分が言い渡された。

 その後、背後とのギャップを拡大する首位エルラシェールに対するチャレンジャーは現れず、2番手バービッシュ、3番手マグナスが、4番手のミューラーに蓋をする形でフィニッシュラインへ。その背後には、トップ10圏外から猛追を見せたタルキーニが続き、地元のファンを沸かせる走りを披露した。

「このフィールドにはどれほど高い競争力を備え、ときには“接触”もいとわない攻撃的な面々が並んでいるかを僕は知っている。頭のなかには常に(ポールスタートの)レース2のことがあったから、背後に『アグレッシブすぎる』ドライバーが来た場合には、無理に抵抗せず前に行かせたんだ」と、トップ10圏外の11位に終わっていたレース1を振り返るエルラシェール。

「おかげでマシンは無傷のまま、レース2のポールポジションから優位に戦いを進めることができた。案の定、僕の背後では最後まで“殴り合い”が繰り広げられていたようだからね(笑)」

 これでポイントスタンディングでは201点としたエルラシェールを165点のバービッシュが追い、その背後わずか1点差でグエリエリが続く展開となったタイトル戦線。11月27〜28日には新規追加ロシアのソチ・オートドロームで、2021年WTCR最終戦が争われる。

合計20kgの削減と10mmの車高ダウンで戦闘力を回復した第2世代アウディRS3 LMSは、R2でも2台が表彰台に
引退表明のガブリエル・タルキーニ(ヒュンダイ・エラントラN TCR/BRC Hyundai N Lukoil Squadra Corse)は、R2トップ10圏外から5位に入り、地元のファンを沸かせる走りを披露した
これで実質、ベルネイとミケル・アズコナがタイトル戦線から脱落。エルラシェールが大量マージンを築いて最終戦に臨む

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