今回の衆院選では自民党の甘利明氏が神奈川13区で敗れ、党幹事長を辞任する事態となったことが注目された。有権者の「ノー」とは裏腹に比例復活当選し、「追う! マイ・カナガワ」取材班には「納得できない」「選挙制度がおかしい」といった声が多く届いている。神奈川県内には何度も比例復活を重ねて副大臣などを務める議員もいるが…。比例復活のあり方について考えた。
◆「救われた」
「今回を入れて5回目の選挙。(比例待ちの)同じような思いをさせてしまい、本当に申し訳ない」
9区の自民・中山展宏国土交通副大臣は小選挙区での敗北が確実となった10月31日夜、肩を落とした。
9区では野党候補の一本化はされず、立憲民主党・共産党・日本維新の会が乱立。そんな中で深夜1時、4回連続の比例復活を果たすと、中山氏は「自民党に入れてくれた方に感謝したい。野党統一でもなく絶対勝たないといけないところ。救われた」と胸をなで下ろした。
4区の自民・山本朋広元防衛副大臣も県内では4回連続、京都2区を含めると5回目の比例復活となった。県内最多5人が争った激戦区で、前回に続いて自民党籍を持つ無所属候補との「保守分裂」でもあった。
山本氏は1日午前2時ごろ、比例復活の報を受けて事務所に戻ってきた支援者らと万歳三唱。「振るわない成績は私の不徳の致すところ」と自戒し、「小選挙区で敗れたといえども、自民党議員として多くの期待をいただいた。死票を少なくする制度にのっとり、地域の声を国会に届けたい」と決意を述べた。
県内小選挙区では落選した自民候補6人全員が復活当選したが、両氏の4回連続は立民・枝野幸男代表(埼玉5区)と長年争う牧原秀樹氏らと並び、復活当選を続ける自民議員では現役最長。山本、牧原両氏は2009年の落選を挟んで“5回連続”でもあるが…。
◆重複禁止ルール
比例復活が続く議員が多いことは自民にとっても悩ましい問題のようだ。連続2回以上小選挙区で敗れ、比例復活した議員は比例の重複立候補を原則認めない党の内規もあるという。
今回の衆院選で対象者は25人いた。菅義偉前首相が「ルール徹底が必要」と方針を掲げたり、名簿順位に差をつけることを検討したこともあったが、実際に内規適用となった候補者はいなかったようだ。
惜敗率や党員の獲得状況、反自民が根強い地域などが考慮されて例外が認められている─とも言われる。確かに県内でも4区や9区は、昔から民主系が強く、過去9度のうち自民候補が勝ったのは4区は2度、9区は1度しかない。今回は8区の三谷英弘氏と12区の星野剛士氏も2回連続の比例復活となった。
そうした事情を党本部に取材してみたが、「自分の判断で重複立候補しない人もいるので…。それぞれ聞かないと分からない」と担当者の歯切れは悪かった。
◆惜敗率低くても
県内には6回連続で比例復活を経験した野党議員もいた。今回12区で当選した立民・阿部知子氏は2000~14年、社民党、日本未来の党、民主党を渡り歩いて比例復活を続けた。
阿部氏に聞くと、「二大政党の対立軸に当てはまらないような課題について、小政党が自分たちの思いを国民と共有し、政治に影響を与えたいと思うのは健全なこと。民主主義のためには、比例復活はあった方がいい」と強調した。共産には9回連続で比例復活の穀田恵二氏(京都1区)がいる。
小選挙区制は政権交代を可能とする一方、死票が多くなる。中小政党に不利となる欠点を補うための制度が比例代表といえる。ただ、惜敗率が低くても比例復活できることは制度の問題点として以前から指摘されてきた。今回も、惜敗率28.63%だった10区・鈴木敦氏(国民民主党)や、同46.22%の1区・浅川義治氏(日本維新の会)らが議席を獲得している。
ところで、自民のような重複禁止ルールは、立民にもあるのだろうか。阿部氏は「金も組織もある与党は候補者を探すのにも有利。そこに立ち向かう野党としては基本はチャレンジ精神を大事にして、何回落ちたらだめとは言わない」と理解を求めた。
◆取材班から
取材班が調べたところ、今回の衆院選では全国19県で、小選挙区で敗れた自民候補が全員復活していた。利点もあるとはいえ、小選挙区での有権者の判断が簡単に覆される制度に疑問の声は少なくない。比例復活をめぐる議論が深まることに期待したい。