氷川丸も帆船日本丸も徹底解剖…「船専門」のイラストレーター、36隻の船内を大紹介

横浜港のシンボルとなっている氷川丸の船体解剖図

 クルーズ船やフェリー、貨物船、漁船など、謎に満ちた船の内部を“解剖図”のように描いたイラストが満載の本「船体解剖図」(イカロス出版)が出版された。氷川丸や帆船日本丸など横浜にゆかりのある船を含め、国内各地で活躍する36隻を絵と文章で紹介しており、著者のプニップクルーズこと中村辰美さん(64)の「船をもっと身近に感じてほしい」という願いが込められている。

 特徴的なのは全長が短くデフォルメされ、外観の一部が切り開かれた船のイラスト。どの船も外観だけではなく、内部が詳しく描かれている。さらに文章で船を紹介するページもあり、特徴や役割なども詳しく書かれている。

 横浜市中区の山下公園前に係留保存されている横浜港のシンボル・氷川丸のイラストには、豪華な装飾が施された社交室や食堂が描かれている。

■「船をもっと身近に感じて」

 中村さんは許可を得て、普段は立ち入ることができない場所も取材しており、船首にある非公開の第2貨物倉も紹介。「絵本で見たピノキオが入ったクジラのおなかのよう」と記しているほか、第2次世界大戦を乗り越えて重要文化財となった歴史にも触れている。

 横浜港大さん橋国際客船ターミナル(同市中区)を発着するレストラン船「ロイヤルウイング」のページでは「くれない丸」として瀬戸内海などで運航され、大改装を経て横浜港で活躍するようになった歩みや、客船としては現役最年長となった船の魅力を伝えている。

 特に操舵室(そうだしつ)の操船設備については「最近の船では絶対に見ることのできない(博物館級に)貴重なもの」として、船体図とは別のイラストで描いている。

 なぜ、船の外観と内部を1枚の絵で描こうと思ったのか。中村さんは「日常で触れる機会がない船をもっと身近に感じてもらいたかったから」と明かす。

■船員志願の若者減少に懸念

 中村さんは少年時代、横浜港に通い数多くの船を眺めて過ごし、大人になってからも大好きな船の絵を描き続けた末、2018年に船専門のイラストレーター・画家として独立した。

 船は日本の物流を支えている大切な存在だが、船員など船に関わる仕事を目指す若い人が少なくなってきていると聞き、残念に感じてきた。そこで、「船の中はどうなっているのか」という素朴な疑問に答えることで、船好きを増やしたいと考えてきた。

 船の内部を描くには綿密な取材が必要で、2年ほど前から全国各地で船に乗り、スケッチを重ねてきた。だが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で船内に外部の人が入るのは難しいケースが増えてきたといい、最近はオンラインによるリモート取材をはじめとして写真や動画、船の設計図などを活用しているという。

 「船体解剖図」はA5判160ページで、1870円(税込み)。クルーズ船「にっぽん丸」(3代目)、タグボート「魁(さきがけ)」、桜木町駅近くに展示されている「帆船日本丸」、県立海洋科学高校(横須賀市)の実習船「湘南丸」(5代目)など、県内にゆかりの深い船が数多く紹介されている。

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