4周遅れから“起死回生”IMSA撤退のマツダが有終の美。白熱のチャンピオン争いは最終ラップでの決着に

 11月13日、IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権の2021年シーズン“ラストイベント”となる第12戦プチ・ル・マンがアメリカ、ジョージア州のロード・アトランタで行われ、2021年限りでシリーズから撤退するマツダ・モータースポーツの55号車マツダRT24-P(ハリー・ティンクネル/ジョナサン・ボマリート/オリバー・ジャービス組)が総合優勝で有終の美を飾った。

 1月にデイトナで開幕した今シーズンの最終戦は、2年ぶりに“フィナーレイベント”に復帰したプチ・ル・マン。今年24回目の開催を数えるこの10時間レースの決勝は気持ちの良い秋晴れの下でスタートのときを迎えた。

 前日に行われた予選でトップタイムを記録しポールポジションを奪ったのは、ランキング2番手で、同首位10号車アキュラARX-05(ウェイン・テイラー・レーシング/WTR)を9ポイント差で追いかける31号車キャデラックDPi-V.R(ウィレン・エンジニアリング・レーシング)だ。2番手に55号車マツダ、3番手には5号車キャデラックDPi-V.R(マスタング・サンプリング・レーシング/JDC・ミラー・モータースポーツ)が続く予選トップ3オーダーとなり、10号車アキュラは6番手からのスタートに。

 現地時間12時10分に予定どおりスタートが切られた決勝では、セバスチャン・ブルデー駆る5号車がマイヤー・シャンク・レーシング・w/カーブ・アガジャニアン(MSR)の60号車アキュラARX-05に交わされ4番手にドロップ。その後方からは48号車キャデラックDPi-V.R(アリー・キャデラック・レーシング)をドライブする小林可夢偉が追い上げをみせ、スタートから30分までに5号車と60号車、さらにティンクネルの55号車マツダを料理し総合2番手に浮上した。

 この直後、6歳のアーティストがデザインした“クレヨン・アートカー”こと18号車オレカ07・ギブソン(Eraモータースポーツ)がホームストレートで左フロント部が大破するクラッシュを起こしたため、このレース最初のフルコース・コーション(セーフティカー/SC)が導入される。

 約20分後に迎えたリスタート時のトップは、SCランの直前にピットに入っていたマツダ。31号車は01号車キャデラックDPi-V.R(チップ・ガナッシ・レーシング/CGR)にパスされ3番手に順位を落とすが、デブリ回収のために出された2度目のコーションと、再開直後にみたび導入されたコーションを経て首位に復帰する。

 スタートから2時間が経過し、トップは31号車をコース上で交わした5号車キャデラック。トリスタン・ボーティエはその差を8秒ほどに拡げるが、GTDカー2台とLMP3車両2台が関係するアクシデントで4度目のコーションが入った後、彼が築いたマージンは帳消しになっている。

 3時間過ぎ、4度目のリスタート時にトップに浮上し、直前にはルーティンのピット作業を終えて出ていったジャービスの55号車マツダがふたたびピットへ。リヤカウルを開けて作業を行った後にコースに送り出されたが、この時点で4周遅れとなってしまう。

 その後もアクシデントが相次いだ今年のプチ・ル・マン。スタートから4時間に迎えた5度目のレースリスタート時には、GTLMクラス3番手につけていた3号車シボレー・コルベットC8.R(コルベット・レーシング)を中心に計7台のGTカーが絡むマルチクラッシュが発生する。また、5号車がCGRのクルマに追突し、01号車キャデラックのリヤカウルが大きく破損するアクシデントや、25号車BMW M8 GTE(BMWチームRLL)が最終コーナーで膨らみホームストレートのアウト側に並べられた“ミシュランボード”をすべてなぎ倒すといったシーンも見られた。

レース前半にクラッシュを喫したEraモータースポーツの18号車オレカ07・ギブソン
小林可夢偉も乗り込んだ48号車キャデラックDPi-V.R(アリー・キャデラック・レーシング)

■ファイナルラップのブロック&接触は「お咎めなし」

 これらの事故処理のため、レース開始から8時間までの間に計10回のコーションが導入されたことから、各クラスで目まぐるしく順位が変動するとともに、周回遅れとなった車両がリードラップにカムバックする場面が散見された。その代表例が一時トップから4ラップ遅れたマツダだ。彼らはコーションが出る度にラップバックを繰り返し、ついに6時間を前にして同一周回に復帰すると、以降は表彰台争いに絡んでいく。

 日が沈み、気温・路面温度ともに10度を下回ったレース終盤戦。総合優勝を争うDPiクラスでは残り1時間30分あまりで、7時間目以降の同クラスで大半のラップを支配していた60号車アキュラを31号車キャデラックが攻略し首位に返り咲く。リードを許したファン・パブロ・モントーヤの背後にはジャービス駆る55号車が迫る一方、可夢偉の48号車キャデラックと5番手を争っていた同陣営の5号車はイレギュラーのピットインを行い、そのままリタイアとなった。

 ドラマはさらに続き、マツダに交わされ3番手に順位を落としていた60号車アキュラがフィニッシュまで残り55分をタイミングでピットインすると、ピットレーンでの作業後にガレージエリアに向かってしまう。これにより10号車アキュラが3番手に浮上。この直後から55号車が31号車に接近し、フェリペ・ナッセとティンクネルによるトップ争いが繰り広げられる。

 ギャップが1秒を切る接戦が繰り広げられるなか、レース残り時間37分で優勝を争う2台が同時ピットイン。31号車がリヤ2本でピットアウトした一方、55号車は4本交換のため若干遅れてコースへ。翌周には3番手10号車もピットインしタイヤ4本交換で出ていく。可夢偉が乗り込んだ48号車は残り時間32分でスプラッシュ・アンド・ゴーを敢行しトップと13秒差、3番手10号車から3秒後方の位置につけた。

 ラストピット後、約3秒差で走行を続ける上位2台のギャップが詰まったのは、周回遅れが絡んだ残り23分のタイミングだった。GTカーに引っかかったナッセの背後に55号車が迫ると、ティンクネルがターン7で31号車のイン側に飛び込みトップを奪う。抜かれたキャデラックもストレートを挟んでシケインで再逆転を狙うが、ティンクネルが譲らず。その後はマツダが徐々にリードを広げていく展開に。

 一方、チャンピオンシップにおいては31号車と10号車、この2台のうち先にゴールした方が年間王者というシチュエーションであることから、2番手争いが熱を帯びてくる。残り10分の段階でタイム差は約3秒。5分後には約2秒差となるが、同時に55号車とのギャップも縮まりトップ3台が2.5秒以内の団子状態でファイナルラップへ。

 タイトルを意識して無理ができない31号車を尻目に、55号車マツダはキャデラックを3.2秒先行してトップチェッカーを受け、シリーズとの別れの舞台を自ら最高のかたちで演出した。対してチャンピオンシップを争う31号車と10号車は、ファイナルラップのターン10a進入時に接触。WTRのアキュラが止まりきれずグラベルを直進し、キャデラックの前に出るかたちでコースに戻ったが、最後は31号車がこれを抜き返し2位を死守した。この結果ナッセ/ピポ・デラーニ組が2021年シーズンのDPiタイトルを獲得している。

コニカミノルタ・アキュラARX-05(ウェイン・テイラー・レーシング)の10号車アキュラDPi
ウィレン・エンジニアリング・レーシングの31号車キャデラックDPi-V.R
2021年のシリーズチャンピオンとなったフェリペ・ナッセ(左)とピポ・デラーニ(ウィレン・エンジニアリング・レーシング)
2021年IMSAウェザーテック・スポーツカー選手権第12戦プチ・ル・マンの表彰式

■GTLMラストレースでコルベット2台を襲った悲劇

 今レースがクラス最後のレースとなったGTル・マン(GTLM)クラスは、コルベット、BMW、ポルシェが2台ずつエントリーし計6台での争いとなった。このクラスのチャンピオン争いは、ランキング首位のペアが決勝へ出走した段階で決まる状況で最終戦を迎えたため、3号車コルベット(アントニオ・ガルシア/ジョーダン・テイラー組)がスタートした時点で今季のタイトルを獲得した。なお前述のとおり、このC8.Rはレース前半にクラッシュを喫したため、リタイアを余儀なくされている。

 5台での闘いとなった後半戦のフィールドでは、僅差ながら4号車コルベットが有利な状況でレースが進んでいく。しかし8時間過ぎ、今レースに追加エントリーのかたちで出場したウェザーテック・レーシングの2台目、97号車ポルシェ911 RSR-19が首位を奪い、ラストピット後も4号車をリードし続けた。

 その後4号車は、ラスト10分で55号車マツダと軽く接触したことにより左リヤサスペンションにダメージを負いスローダウンを余儀なくされる。ドライブしていたニック・タンディはグラベルを横切ってピットに戻ったが、怒り心頭の様子でクルマを降りた後ふたたびコクピットに戻ることはなかった。
 
 4号車の戦線離脱によって2番手を得た79号車ポルシェ911 RSR-19は、最終ラップに僚友から順位を譲られ今季2勝目をマークし、チームとしては初めてのワン・ツーフィニッシュを達成している。クラス3位は決勝前日に来季のGTDプロ参戦と、2023年からLMDhプログラムの運営を担当することがアナウンスされたBMWチームRLLの24号車BMW M8 GTEが入った。

 この他のクラスでは、タワー・モータースポーツの8号車オレカ07・ギブソン(ジョン・ファラノ/ガブリエル・オーブリー/ジェームス・フレンチ組)がLMP2クラス優勝を果たした。
 
 なお、同クラスにおいてトップチェッカーを受けたのはポールシッターのPR1マティアセン・モータースポーツの52号車オレカ07だったが、ウインズカラーのマシンは8号車との接触に対して37秒のタイム加算ペナルティを受けクラス2位に降格となった。それでもベン・キーティング/ミケル・イェンセン組がドライバー&チームのダブルタイトルを獲得している。

 LMP3クラスは、レース後半に速さをみせたライリー・モータースポーツの74号車リジェJS P320・ニッサン(ガー・ロビンソン/スコット・アンドリュー/フェリペ・フラガ組)が優勝。こちらはロビンソンが勝利でダブルタイトルを手にした。

 9メーカーのマシンが集うGTデイトナ(GTD)クラスでは目まぐるしく順位が入れ替わる展開が最後まで続き、この戦いを終盤に収めたハート・オブ・レーシングチームの23号車アストンマーティン・バンテージGT3(イアン・ジェームス/ロマン・デ・アンジェリス/ロス・ガン組)が9号車ポルシェ911 GT3 R(パフ・モータースポーツ)を振り切ってクラス優勝を飾った。クラス3位にはバッサー・サリバン・レーシングの12号車レクサスRC F GT3が入っている。

 クラス2位となったパフがチームタイトルを獲得し、同チームのローレンス・ファントールとザカリー・ロビションがGTDドライバーズチャンピオンに。マニュファクチャラー選手権でもポルシェが今戦に参加していないフェラーリを加えた全10社の頂点に立った。

 デイトナ、セブリング、ワトキンス・グレン、プチ・ル・マンの4戦からなる“IMSAミシュラン・エンデュランスカップ”の各クラスチャンピオンは以下のとおりだ。

■DPiクラス

●ドライバー:アレキサンダー・ロッシ/フィリペ・アルバカーキ/リッキー・テイラー
●チーム:コニカミノルタ・アキュラARX-05(ウェイン・テイラー・レーシング)
●マニュファクチャラー:アキュラ

■LMP2クラス

●ドライバー:ベン・キーティング/ミケル・イェンセン/スコット・ハファカー
●チーム:PR1マティアセン・モータースポーツ

■LMP3クラス

●ドライバー:ガー・ロビンソン/スコット・アンドリュー
●チーム:ライリー・モータースポーツ

■GTLMクラス

●ドライバー:ニック・タンディ/トミー・ミルナー
●チーム:コルベット・レーシング
●マニュファクチャラー:シボレー

■GTDクラス

●ドライバー:ヤン・ヘイレン/パトリック・ロング/トレント・ハインドマン
●チーム:ライト・モータースポーツ
●マニュファクチャラー:ポルシェ

GTLMラストレースでチーム初のワン・ツー・フィニッシュを達成したウェザーテック・レーシングの79号車と97号車ポルシェ911 RSR-19
コルベット・レーシングの4号車シボレー・コルベットC8.R
ライリー・モータースポーツの74号車リジェJS P320・ニッサン
タワー・モータースポーツの8号車オレカ07・ギブソン
ハート・オブ・レーシングチームの23号車アストンマーティン・バンテージGT3
パフ・モータースポーツの9号車ポルシェ911 GT3 R

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