立憲民主党、衆院選敗北の研究 「ポスト枝野」に迫られる課題

記者会見する立憲民主党の枝野代表=12日午後、国会

 「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」。プロ野球楽天イーグルス元監督の故野村克也氏が愛用した言葉は、真剣勝負の選挙にも当てはまる。10月31日投開票の第49回衆院選は立憲民主党の枝野幸男代表にとって「不思議のない負け」だった。立民関係者によると、枝野氏が代表辞任を想定し始めたのは投開票日の3日ほど前だという。なぜ敗北したのか。過去の選挙との比較で考察する。(共同通信=杉田雄心)

 ▽薄氷の勝利

 「今回の小選挙区での戦いには、かなり大きな意義があった。あえて言えば、この大きな方向性について、今回の選挙で違う選択肢を取りようがなかった。後悔はない」

 11月12日の退任会見。枝野氏は野党共闘の評価を問われると「敗軍の将」らしからぬ自信を見せた。

 小選挙区で野党が善戦したことを示す二つの数字を挙げる。

 (1)立民の小選挙区当選者は公示前の48から57へ9増。自民党は小選挙区23減。

 (2)2位の惜敗率が90%以上の接戦区のうち、自民勝利は34選挙区(18%)。17年は27選挙区(12%)、14年は20選挙区(9%)。自民は多くの選挙で競り合いに持ち込まれ薄氷の勝利が増えた。

 共産党との選挙協力に突き進んだ枝野氏の念頭にあったのは17年衆院選の得票数だ。野党(旧立民、共産、希望の党、社民)の得票合計(約2610万票)は自公の得票(2553万票)を上回った。

 「野党票を割らずに17年選挙を再現すれば勝算がある」―が枝野構想だった。裏付けるように安倍政権幹部は「8年近い政権運営の中で17年の衆院選が最もひやっとした瞬間だ」と打ち明ける。

 ▽967万票の行方

 とはいえ、枝野氏が今回惨敗したのは厳然とした事実だ。比例代表は公示前62議席から39議席へマイナス23議席。今回の比例票1149万票は、立民(前身)の17年衆院選の比例票(1108万票)から伸びなかった。この分析が立て直しの前提となる。

 「立憲『共産党』」―。自民党から野党共闘をこう批判されたのが効いたのは間違いない。会見で枝野氏は共産党との関係について「誤解なく伝えらえる努力は必要だ。それが十分でなかったのは、私の力不足だ」と党首の発信の問題だと位置付けた。

 ただ、直視しなければならない票の動きがある。17年衆院選で東京都の小池百合子知事が設立した「希望の党」は当時の民進党を吸収して比例票967万票を得た。「排除の論理」の一言で求心力が結果として失墜したが、安倍政権を間違いなく脅かした。

 この希望票がどこへ流れたのか。グラフ「衆院選・野党得票率の比較」(左の黄緑が希望票)を見れば、おおまかに次の式で表せる。

 (1)得票率 17年の希望17%→21年の維新増加分8%+国民5%+れいわ4%

 (2)得票数 17年の希望970万→21年の維新増加分470万+国民260万+れいわ220万

 つまり、希望票は維新、国民民主、れいわ新選組の3党に分散し、野党票集約を目指した枝野氏の立民は取り込めなかった。

 ▽ユリノミクス

 希望票は小池氏が掲げた「改革保守」に根ざす。立民に向かなかったのは、枝野氏の共産党との協力を巡る発信の問題だけでなく、日米安保条約や憲法改正への立場をはじめとする基本政策への違和感が大きいとみられる。野党共通公約は最初の項目に「安保法制の違憲部分を廃止」や「コロナ禍に乗じた憲法改悪に反対」を記述した。

衆院選の開票センターでの記者会見を終え、退席する立憲民主党の枝野代表=1日午前0時2分、東京都内のホテル

 では、改革保守の基本政策とは何か。17年の希望の党の公約で並んでいたのは「憲法9条を含め改正論議を進める」「安全保障法を憲法にのっとり適切に運用」「30年までに原発ゼロ」「民間活力を引き出すユリノミクス断行」などだ。方向性は日本維新の会と共通する。実際、17年衆院選で小池氏と維新の松井一郎代表は東京と大阪で候補のすみ分けで合意していた。

 ▽7割近くが「あきらめ」

 立民の敗因はもう一つある。無党派のうねりなき低投票率だ。今回の55・93%は戦後3番目に低い水準で、ワースト1位の14年衆院選、ワースト2位の17年衆院選を含めて4回連続で50%台となった。

 無党派層は政権に厳しい見方が多い。ここを投票に向かわせる機運を醸成できなかった。新型コロナウイルス感染が収まり、民意の政権への不満も沈静化したことが首相に幸運をもたらした。

 代わりに頭をもたげたのが、政治へのあきらめだ。選挙後の共同通信社の世論調査で「低い投票率の要因は何か」と質問したところ「投票しても政治がよくならないから」が50・0%に上った。「投票したい候補がいない」が2番目で17・9%。合わせて7割近くの人が「政治に期待できない」と見ている。与野党とも胸に手を当てて考えるべき数字だ。

 ▽センターライト

 岸田文雄首相も改革保守票を十分に取り込めなかった。首相の衆院選の訴えは菅義偉前首相との違いを意識し「改革」を封印した。その結果、野党と分配政策を競う格好となり、違いは分かりにくくなった。「与党も野党もなれ合っている」と批判した維新は「改革政党」をアピールして「漁夫の利」を得た。

 首相は選挙後の会見で勝利宣言は行わず、こう語った。「今回の総選挙において、わが党に対して多くの厳しい声も寄せられたことを厳粛に受け止めなければならない。各選挙区の結果を分析し、これからの国政、次の選挙に生かしていく」。今回の選挙が「不思議の勝ち」と認定されることを自覚しているようだ。

衆院選の結果を受け、自民党本部で記者会見する岸田首相=1日午後、東京・永田町

 選挙に通じている現職閣僚は「大きな票田はセンターライトにある」と断言する。来夏の参院選戦略では、立民だけでなく自民も、かつて小池知事がつかみかけた「改革保守」を指向する有権者への対策を迫られる。

 既に胎動はある。立民の若手有志が11月8日に提出した代表選(30日投開票)に関する要望は「保守・リベラルを包摂する政党とならなければならない」と盛り込んだ。「改革中道」を訴えて議席を伸ばした国民民主党の玉木雄一郎代表は立民との共闘の枠組みと距離を置き、維新との接点を探って改革保守票を狙う。「ポスト枝野」は、改革保守票と野党共闘をどう接合させていくかが問われる。

 岸田政権の参院選対策は、こうした野党に劣らない改革保守票対策が鍵を握る。「戦いに勝つは易し、勝ちを守るは難し」。これも野村監督の言葉だ。

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