ふくだももこ(監督)- 「ずっと独身でいるつもり?」結婚したら1面クリアじゃない

結婚するか・独身でいるかという事をいままた問うていいものかと思った

――『ずっと独身でいるつもり?(以下、ずっ独)』は映画としてもちろん面白かったですが、同時に私も無自覚でハラスメントをしていることがあるなと改めて気付かされ身につまされる気持ちになりました。

ふくだ(ももこ):

男性はほぼ全員そういう感想を持たれますね。

――今作は雨宮(まみ)さんのエッセイをおかざき真里さんがコミカライズされた同名作品の映像化ですが、ふくださんが監督を引き受けることになった経緯を伺えますか。

ふくだ:

映画『おいしい家族』で一緒に仕事をさせていただいた、谷戸(豊)プロデューサーからお誘いいただいたのが切っ掛けです。最初に漫画を読んだときに難しい作品だなと思いました。私自身、結婚をせずに子どもを産んでいます。結婚というものをどうでもいいと思っているので、そんな考えの人間が結婚するか・独身でいるかという事をいままた問うていいものかと迷いがありました。

――そんな気持ちがある中で引き受けられたのは何故ですか。

ふくだ:

私がお話を頂いた段階ですでに田中みな実さんの出演は決まっていたんです。女優・田中みな実を撮りたいと思い、監督を引き受けました。それが一番大きな理由になります。

――そうなんですね。女優・田中みな実さんの演技は素晴らしく見応えがあったので、撮りたかったというふくださんの気持ちもわかります。『ずっ独』は原作もふくめ結婚をするかどうかを描いていますけど、結婚を通して孤独について言及している作品なのかなと感じました。

ふくだ:

その表現良いですね!私も「孤独についての言及」と言っていこうと思います。

――ありがとうございます(笑)。作品の芯となる部分は同じですが、映画はオリジナル要素も強い作品です。配信番組やパパ活女子などがそうですが、漫画にない要素を追加されたのは何故でしょうか。

ふくだ:

パパ活女子に関しては脚本の坪田(文)さんから「結婚をゲームの1面くらいに考えている、結婚に執着しない人を入れよう。」という案をいただいて、(鈴木)美穂というキャラクターを入れました。

――坪田さんの案だったんですね。

ふくだ:

はい。配信番組を取り入れたのは、実はこの企画がアマゾンプライムでの配信作品だったからなんです。それもあって“ずっと独身でいるつもり?”という配信バラエティーが始まったという形で、配信コンテンツならではの形式を取り入れました。映画を制作しているなか劇場で上映したいとお声掛けいただき、今回の劇場公開に繋がりました。

――物語は田中さん演じる本田まみがメインですが、違う場所・時間にいる4人を同時に描いている構造になっています。別の場所にいる4人の時間軸をそれぞれ展開しながら、最後に繋がっていく流れが凄くて観ていて気持ちよかったです。映画という限られた時間の中でキャラクターの切り替え、それぞれのエピソードのバランスをとるのは大変だと思いますが、物語や演出をどう構成されていったのでしょうか。

ふくだ:

脚本の時点で物語の切り替えは描かれていましたが、作品として綺麗にまとまったのはやはり編集の力が大きいです。それぞれのキャラクターは境遇も違えば、役者も違って、ロケーションも違う、現場では4本違う映画を撮っている感覚になり監督である私からしてもどうなるんだろうと思いました。そこを編集の宮島(竜治)さんが軽快につなげて下さって、クライマックスも爽やかさがある作品にしていただけました。最後は4人が街ですれ違ったりしていて、飲み会で終わった原作とは違う表現ですがあの終わり方は良かったなと思います。

――場面転換が多い作品では音楽でテンポを出したり・キャラクターの切り替えや心情を表現することも多いと思いますが、この作品は環境音というか自然な音がほとんどで音楽はここぞというところでしか使っていないですね。

ふくだ:

付けたりもしたんですけど、結果的にいらないなと思ったので今の形に落ち着きました。本当に、編集・音楽・効果とスタッフのみなさんに助けられた作品になりました。

――そのチームワーク良さがフィルムにも出ているように思います。

ふくだ:

嬉しいです。

この作品は背中だと思ったんです

――登場人物たちもみんな現実に生きているように感じました。作中のまみと母親の会話も印象的で、そのシーンは観ていて思わず叫んでしまいました。

ふくだ:

私も編集中、まみのお母さんに「何でそんなこと言うんよ〜!」と叫んでいました(笑)。

――親は結婚して欲しいのではなく、子供が幸せになることを一番に願っているという事だなと感じました。

ふくだ:

そうなんです。それなら「結婚はまだなの」と言ってこないでよ…と思いますけど、親心は難しいですね。あの場面は筒井(真理子)さんのお芝居が素晴らしかったから、更に輝いた場面ですね。

――そうですね。

ふくだ:

「旦那の言いなりになって、ええことなんて一つもない」というセリフがありますが、あの世代の母親をやってきた人たちはみんなが感じていることだと思います。

――今より女性の自立が難しい時代でしたから。

ふくだ:

共働き世帯でも家事は女性というのがほとんどですし。

――そこも逃げずに、現実的に描かれていたのが素晴らしかったです。そういった心の表現が素晴らしくて、皆さんの表情もそうですが背中で心情を表現されているのも印象的でした。

ふくだ:

この作品は背中だと思ったんです。セリフが強い作品なので、正面で顔を見せて撮ると伝わりすぎると感じたんです。あと、みなさんの背中が凄く良かったので、これは撮らない手はないと思いました。

――その描き方だからこそ、作中の言葉をしっかりと受け止めることが出来ました。表情の繋がりで言うと、顔がボロボロになっていないなとも思いました。感情を表現するという事で言えば本作では過剰に涙を流したり・汗や鼻水などでメイクが崩れるということが無く、美穂が逃げてこけるシーンでも血を流していなくて。シーンを印象付けるために過剰演出する作品もありますが、現実に大人がボロボロに泣くということはそれほどないことですからそこもリアルだなと感じました。

ふくだ:

好みですが、俳優が涙を流すことが表現として最善か?と自問しています。私たちは果たして涙が観たいのだろうかと。

――分かります。

ふくだ:

本当は涙を流しているところを映していなくても、心が泣いていたら涙が見えなくても伝わるんじゃないかと思っているんです。なので、本作では涙は重要視しませんでした。現場でも「泣けなくてもいい。涙を流すことに集中しないで欲しい。」と言っていました。まみが作中で涙を流すのもドライブのシーンくらいで、そのカットも、涙を軸に撮ってはいないです。田中さんのお芝居は、涙が見えなくても表情で迫るものがありました。

――しかも、現実ではない想像の中で現実は激怒してますからね。

ふくだ:

とはいえ、そこにこだわらないという事は大変でした。正解がない中で進んでいくという事なので、不安もありました。

――その選択があったからこそ、皆さんの表情をクリアに観れたんだと思います。

ふくだ:

そうであれば嬉しいです。

男女や世代での対立構造を生みたいわけではない

――その表現・演出も含めてカッコイイ映画でもあったんです。観る

前はもっとウェットな作品なんじゃないかと思っていて、正直に言うと男性である私が観てもいいのだろうかという気持ちもありました。実際はそんなことなく、一つの作品としてカッコいいなと思いました。

ふくだ:

ありがとうございます。

――「一人で生きていく覚悟」「自分を守るための信念」など心に響くセリフも多く、言葉も綺麗でカッコ良かったです。

ふくだ:

「結婚しても、一人で生きていく覚悟がいる」というのは良い言葉ですよね。脚本の坪田さんから、お母さんのセリフや雰囲気は全部自分の親がモデルだと言われました。なので、映画を観て泣かれたそうです。

――男性のハラスメントはご自身の経験から来ている部分もあるのですか。

ふくだ:

私と坪田さんと女性プロデューサーとで、今まで受けてきた・言われてきた・あれは良くないなという事を吐き出し大会になったことがあって、そのときの話がもとになった部分はあります。その場に男性プロデューサーも3人いたんですけど、男性陣は「すみません…」「あれ、だめだったの…!?」と恐縮するばかりでした(笑)。

――公式HPの市川(実和子)さんのコメントでは脚本はもっとエグイことも書いていたという事ですが。

ふくだ:

(佐藤)由紀乃はだいぶ性格が悪かったんです。結構、陰湿なタイプでネットに書き込む言葉もきつかったりしました。あまりそこをやりすぎると私の中で消化しきれなかったですし、そこだけを描きたかったわけではないので、「まぁ勝手に言ってろ。」くらいの感じの文面や人間性にしました。ただ、ネットでの加害行為によって命を落とす人もいる。誹謗中傷をする人にいい夢を見させてはいけないと思い、まみから由紀乃に「絶対に許しません」と言ってもらうことにしました。

――由紀乃に対してのまみの返しは優しかったですね。

ふくだ:

めちゃめちゃ優しいですよね。結局、攻撃を受けた方が優しくしないといけないのか?という葛藤もありますけど、まみには相手にしないで前に進んで欲しいと思ったんです。ちゃんと面と向かって話せば、由紀乃とまみも愚痴を言い合えるいい関係になるのではと思いますけどね。やっぱり必要なのは友達ですよ。

――そうですね。物語でもそこは描かれていて、結婚することが幸せなのか、実は孤独死は既婚者に多いという話もあるということを友達同士で話をしていて、そこをズバッと言ってくれたのも良かったです。家庭に閉じこもっているというのが幸せとは限らないですから。

ふくだ:

死という事を考えると、結婚したらクリアじゃないんです。それは、独身でも既婚者でも変わらない。

――そうですよね。

ふくだ:

ただ、未婚で孤独死となるのが不幸なのか?という思いもあります。 友達がたくさんいたとしても、一人で亡くなったら孤独死になるんです。

――普通、友達の家は招かれないといかないのでずっと一緒にいませんからね。

ふくだ:そうなんです。ネガティブなイメージが湧くので嫌だなと、独身でもめちゃめちゃ幸せに人生を全うしていくかもしれないですから。

――その通りです。作中であれば橋爪(淳)さんが演じるまみの叔父なんかはまさにそうで、好きなことをやっているなか独身で過ごしていくというのも幸せの形の一つです。結婚して幸せになる人もいますからそこは否定しませんが、やっぱり人それぞれで結婚することが正解ではないですから。

ふくだ:仕事や金銭面、身体的な問題、制度など、色々な理由で結婚が出来ない人・子供を持てない人もたくさんいます。それを見ずに「結婚しない、子どもを育てないのが悪だ」と個人の責任に転嫁しているのは、政府の怠慢だと思っています。

――それは僕も思っています。少子化を嘆くのであればそこに予算を出せよ、したくてもできない・持ちたくても子供を持てない環境の人は居ますから。

ふくだ:そうなんです。同性での結婚と選択的夫婦別姓は早急に対応すべきだと思います。議論する余地なんてないはずなのに、対応が遅すぎます。

――作中でまみが「子供が生まれたら仕事をやめてくれ。」と言わるのは、そういう部分が見えていない人からくる現実の悪いところが出ていますよね。言っている側は無自覚で、むしろ良心だと思っているところからきている厄介なハラスメントです。ただ、そこを過剰に描いてしまうのも、作品としてブレてしまう部分はあるのかなと、そこのバランスのとり方は難しい部分ですね。

ふくだ:そうですね。私も男女や世代での対立構造を生みたいわけではないです。全ての良心からくるハラスメントは、そうせざる状況に生まれ育った・そうせざるをえない状況に組み込まれてしまっていることが原因なので、そこから生まれるハラスメントによって新たな被害者が生まれるという悪循環があると思っています。さっきおっしゃって下さったように「気付かされました。」とか、「言ったことがあるかもしれない。」というのは、男女関係なくあると思うのでハッキリと「それはハラスメントだよ。」と言っていかないといけないと私自身も思っています。

――振り返ってみて、私自身も全然ダメですね。

ふくだ:柏木さんは私に対して、このインタビューに限定すると、言葉に責任と配慮のある方だと思います。ハラスメント加害者の意見で「何も話すことがなくなる。」とよく言われますけど、天気の話でもいいんですよ。「鰯雲が出てるから、雨になるかもしれないですね。」って、その方が情緒もあって言葉も素敵だと思います。

――ハラスメントの面から見ると悪い風に映りますが、基本的に登場人物はみんな良い人ですよね。

ふくだ:人間は複雑なので、完全に悪い人というのはなかなか存在しないと思います。そこが一番難しい。

――普通に生きている生身の人間で過剰なドラマがあるわけではないので、キャストは演技力が試されて難しい作品なのかなと思いました。脚本を読まれたキャストのみなさんはどういった反応だったんでしょうか。

ふくだ:松村さんは悩んでいましたね。それこそ最初に作ってきたのは凄いぶりっ子のキャラでした。それだとあまりにも作品の空気感とかけ離れてしまうので、「普通のトーンで、声を低く」とお願いしました。美穂はパパ活という強いワードもあって悩んでいましたね。

――公式HPにあるコメントでも「身近とは言い難い世界の子で、どう演じていいのか悩みました。」という事をおっしゃられていましたね。

ふくだ:最初はアニメのようなキャラクターに振ろうとしていたんですけど、そこは抑えて演じてもらいました。彼女も凄い頑張ってくれて、美穂に出会ってくれてよかったなと思っています。

――みなさん素なんじゃないのかなと思うくらいの熱演でした。

ふくだ:田中さんは、言葉遣いなど、自分でも境目がわからなくなっていた時があると言っていましたね。

――それだけみなさんが役にハマっていたという事ですね。

ふくだ:キャスティングも希望の方が全員受けてくださったので、良かったです。

――それだけ熱演された皆さんが観れる映画がいよいよ公開されるわけですね。最後に公開を楽しみされている方に向けてのメッセージをお願いします。

ふくだ:本作は4人の女性が主人公で、誰かの気持ちが身に覚えがあると感じるんじゃないかと思います。女性が何人か出てくる作品は分断が描かれることが多いですが、本作ではそれがしたかったわけではなくて、街ですれ違ったふとした瞬間に助け合うような“ゆるい連帯”を描きたかったんだなと、試写で観て思いました。仲のいい友達と、楽しんで観てもらえると嬉しいです。 © 2021 日活

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